10 外来者、邂逅す・前編(ティス&香梅その4)
Scene Character:ミオソティス(ティス)、香梅
Scene Player:貴様 二太郎 様、石川 翠 様
グリソゴノ・プルンブム・アダマス。黒衣の老人はそう名乗った。
ミオソティスはその名を極夜国の貴族名鑑で読んだ事がある。消滅の加護を持つ黒色金剛石の守護石を持った最初の石人。
齢2000歳を越える老齢であり、ティスとその妹アルビジアがこの世に生を受けて二年後、他界したと記録されている。
すなわち本来であれば、こうしてティスの目の前に現れる筈のない人物なのだ。
「グリソゴノ……様? あなたが……?
ここが夢の中、だからかしら。だからこうして、本来お会いできるはずのない人と……」
うわごとのように呟くミオソティスを見て、香梅は訝しんだ。
(本来会えるはずのない……この老人が? グリソゴノ、とか言ったわね。
この人もティスと同じ石人。確かな事は判らないけれど……
もしかして、ティスとは違う時代を生きた人なのかしら)
グリソゴノ老人は意識を取り戻し、改めてティスと香梅の顔を見る。
そして明らかに、ティスの持つ左目の守護石――黒玉を見て驚愕し、感激に打ち震えているように見えた。
「おおお……その石は、まさしく……『忘却』の加護を宿すという、黒玉の守護石か!」
次の瞬間グリソゴノは跪き、ティスに対し深々と頭を垂れた。
「えっ……その……グリソゴノ、様?」
「よくおいで下された。貴女の持つ力が――この森には必要なのです」
老人の口から発せられた言葉は、ミオソティスにとっても寝耳に水のものであった。
(私の力が――私が常日頃から嫌っている忘却の加護が――この森にとって、必要?
どういう事? さっぱり分からない……)
石人の少女が目を白黒させている中、香梅は二人の会話を冷静に分析していた。
(あたしやティスがこの森に招き入れられたのも、その力や役割が必要だからなんでしょうね。
この老人の言葉に嘘はないと仮定しましょう。でもそうなると、直近で気になる点があるわ)
「ひとつ訊いてもいいかしら、グリソゴノさん」
香梅の発した疑問に、老人は頷いた。
「あなた、大怪我を負ってらしたけど――誰にやられたの?
この森には、他人を傷つけるような危険な輩が存在してるって事?」
「遺憾ながら、そういう事になる」グリソゴノは答えた。
「儂は『迷いの森』の霧を管理するための魔術師の一人。しかしここ最近、儂ら魔術師の力を以てしても、御しきれぬほどの濃い霧が森を覆い始めたのだ。
それを食い止めるべく、我らはあらゆる手立てを考案し、そして実践しようとした。ところが――あろう事か同じ石人の中には、極夜国を霧で閉ざし、外界との接触を断つべきだという考えの持ち主もいたのだ」
「そう考える人たち――少なからずいると思います」とミオソティス。
「私も外界や人間たちと関わる事に憧れはあるけれど……過去に人間たちは『石人狩り』を行い、私たちの同胞を何人も殺めたと聞きます。
彼らの言い分も分からなくはないです。種族が異なる以上、無理解からお互いを傷つけ合う悲劇が、繰り返されないとも限らない」
「確かに一理ある。だが――短い時の中で考えた安易な結論に身を委ねるのは危険だ。
儂は二千年を生き永らえ、極夜国と外界の移り変わりを見てきた者だから、それが分かる。
同じ種だけで固まり、異物を廃すれば確かに生き易かろう。だがそれは――同時に変化に弱く、酷く脆い生き方でもあるのだ」
「悠久の時を生きた、仙人の如き深い考察、痛み入りますが――」口を挟む香梅。
「今、話すべき事とは違うのではなくて? あたし達を傷つける事も厭わぬ不逞の輩がいる以上、身を守る手段を講じるのが先だと思うのですが」
「――それもそうであるな」グリソゴノは同意した。
「儂と考えを異にし、敵対の意を示す者は――この森に漂う霧を操り、刃に作り変える事ができるのだ。
現に儂はその攻撃を受け、危うく命を落とすところであった」
グリソゴノは重ねて忠告する。「霧の中に混じる赤い色に気をつけろ」と。
それに身体を触れられれば、霧は無数の刃と化して肉体を傷つけ、大量の血を失う事になるのだという。
「さしずめ――『血に飢えた霧』ってところかしら。厄介な能力ね」香梅は顔をしかめた。
程なくして、複数の人間の足音が聞こえてきた。
この霧深き森にて出会う人間。敵か味方かも判別がつかない。
幸いにして姿を認めるのが早かったのはこちら側だった、ところが……ミオソティスは驚愕していた。
「えっ……? グリソゴノ様が、あっちにも……?」
「何ですって――」
向こうからやってきた人数も三人。いずれも男性。しかし内一人には見覚えがある。
その人物は今しがた助けた黒衣の老人・グリソゴノそっくりの石人の姿をしていた。
(つづく)
今回は選択肢が適用されるシーンまで進んでおりませんので、選択肢はありません。ご了承ください。
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