表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
硝子の森と霧の夢  作者: LED
Middle Phase 01
17/43

10 外来者、邂逅す・前編(ティス&香梅その4)

Scene Character:ミオソティス(ティス)、香梅シャンメイ

Scene Player:貴様 二太郎 様、石川 翠 様

 グリソゴノ・プルンブム・アダマス。黒衣の老人はそう名乗った。

 ミオソティスはその名を極夜国(ノクス)の貴族名鑑で読んだ事がある。消滅の加護を持つ黒色金剛石(ブラックダイヤモンド)の守護石を持った最初の石人(いしびと)

 齢2000歳を越える老齢であり、ティスとその妹アルビジアがこの世に生を受けて二年後、他界したと記録されている。


 すなわち本来であれば、こうしてティスの目の前に現れる筈のない人物なのだ。


「グリソゴノ……様? あなたが……?

 ここが夢の中、だからかしら。だからこうして、本来お会いできるはずのない人と……」


 うわごとのように呟くミオソティスを見て、香梅(シャンメイ)(いぶか)しんだ。


(本来会えるはずのない……この老人が? グリソゴノ、とか言ったわね。

 この人もティスと同じ石人(いしびと)。確かな事は判らないけれど……

 もしかして、ティスとは違う時代を生きた人なのかしら)


 グリソゴノ老人は意識を取り戻し、改めてティスと香梅(シャンメイ)の顔を見る。

 そして明らかに、ティスの持つ左目の守護石――黒玉(ジェット)を見て驚愕し、感激に打ち震えているように見えた。


「おおお……その石は、まさしく……『忘却』の加護を宿すという、黒玉の守護石か!」


 次の瞬間グリソゴノは(ひざまず)き、ティスに対し深々と(こうべ)を垂れた。


「えっ……その……グリソゴノ、様?」

「よくおいで下された。貴女の持つ力が――この森には必要なのです」


 老人の口から発せられた言葉は、ミオソティスにとっても寝耳に水のものであった。

(私の力が――私が常日頃から嫌っている忘却の加護が――この森にとって、必要?

 どういう事? さっぱり分からない……)


 石人の少女が目を白黒させている中、香梅(シャンメイ)は二人の会話を冷静に分析していた。

(あたしやティスがこの森に招き入れられたのも、その力や役割が必要だからなんでしょうね。

 この老人の言葉に嘘はないと仮定しましょう。でもそうなると、直近で気になる点があるわ)


「ひとつ訊いてもいいかしら、グリソゴノさん」


 香梅(シャンメイ)の発した疑問に、老人は頷いた。


「あなた、大怪我を負ってらしたけど――誰にやられたの?

 この森には、他人を傷つけるような危険な輩が存在してるって事?」


「遺憾ながら、そういう事になる」グリソゴノは答えた。

「儂は『迷いの森』の霧を管理するための魔術師の一人。しかしここ最近、儂ら魔術師の力を以てしても、御しきれぬほどの濃い霧が森を覆い始めたのだ。

 それを食い止めるべく、我らはあらゆる手立てを考案し、そして実践しようとした。ところが――あろう事か同じ石人の中には、極夜国(ノクス)を霧で閉ざし、外界との接触を断つべきだという考えの持ち主もいたのだ」


「そう考える人たち――少なからずいると思います」とミオソティス。

「私も外界や人間たちと関わる事に憧れはあるけれど……過去に人間たちは『石人狩り』を行い、私たちの同胞を何人も殺めたと聞きます。

 彼らの言い分も分からなくはないです。種族が異なる以上、無理解からお互いを傷つけ合う悲劇が、繰り返されないとも限らない」


「確かに一理ある。だが――短い時の中で考えた安易な結論に身を委ねるのは危険だ。

 儂は二千年を生き永らえ、極夜国(ノクス)と外界の移り変わりを見てきた者だから、それが分かる。

 同じ種だけで固まり、異物を廃すれば確かに生き易かろう。だがそれは――同時に変化に弱く、酷く脆い生き方でもあるのだ」


「悠久の時を生きた、仙人の如き深い考察、痛み入りますが――」口を挟む香梅(シャンメイ)

「今、話すべき事とは違うのではなくて? あたし達を傷つける事も厭わぬ不逞の輩がいる以上、身を守る手段を講じるのが先だと思うのですが」


「――それもそうであるな」グリソゴノは同意した。

「儂と考えを(こと)にし、敵対の意を示す者は――この森に漂う霧を操り、刃に作り変える事ができるのだ。

 現に儂はその攻撃を受け、危うく命を落とすところであった」


 グリソゴノは重ねて忠告する。「霧の中に混じる赤い色に気をつけろ」と。

 それに身体を触れられれば、霧は無数の刃と化して肉体を傷つけ、大量の血を失う事になるのだという。


「さしずめ――『血に飢えた霧』ってところかしら。厄介な能力ね」香梅(シャンメイ)は顔をしかめた。


 程なくして、複数の人間の足音が聞こえてきた。

 この霧深き森にて出会う人間。敵か味方かも判別がつかない。

 幸いにして姿を認めるのが早かったのはこちら側だった、ところが……ミオソティスは驚愕していた。


「えっ……? グリソゴノ様が、あっちにも……?」

「何ですって――」


 向こうからやってきた人数も三人。いずれも男性。しかし内一人には見覚えがある。

 その人物は今しがた助けた黒衣の老人・グリソゴノそっくりの石人の姿をしていた。


(つづく)

今回は選択肢が適用されるシーンまで進んでおりませんので、選択肢はありません。ご了承ください。

追加でアクションを希望される方は、メッセージ等ご自由に!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ