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硝子の森と霧の夢  作者: LED
Middle Phase 01
15/43

08 影なる刃、ゲツエイ(ジェレミー&ゲツトマその3)

Scene Character:ジェレミア・リスタール(ジェレミー)、ゲツエイ&トーマス(ゲツトマ)

Scene Player:天界音楽 様、カミユ 様

 ――【消音】の術を見抜かれた。


 つまり目の前の紳士然とした若者は只者ではないということだ。しかしジェレミアは笑みを崩さなかった。そして友好的に振る舞う彼に対し騎士の礼を取った。


「ラ・セルダ殿、お力添えをいただける旨、大変ありがたく存じます。しばらくは共に行動することになります、多少の不便はあるでしょうができるだけ取り除くつもりですので、どうぞ遠慮なく仰ってください」


 気配を絶つまではいかないが、物音を消して気づかれにくくする【消音】の術、これをかけていたのはジェレミアの思い付きからではない。グリソゴノがジェレミアの扱える術について尋ね、用心のために施すべきと言い出したのだ。

 ジェレミアとしては他の三人の「外来者」と手っ取り早く合流するため、何より不必要な警戒を抱かれないためにも、必要な処置だとは思えなかったが――グリソゴノ曰く「森の中に潜むのは、友好的な者たちだけではないのだ」との事であった。森の内情を詳しく知っているであろう老人の提言だ、無下にする訳にもいかない。


 術で音を消していたにも関わらず、接近に気づかれた事以上に。

 ジェレミアの心に引っかかっているのは、トーマスの威風堂々たる態度であった。


 確かに物腰柔らかで礼儀正しく、社交界にいれば男女問わず誰もが感嘆し、その理知的な話術と眼差しに魅了される事だろう。

 しかしジェレミアは感じていた。このトーマスなる男――完璧すぎる、と。


 時間経過も定かではない、霧に包まれた森の中。迷い込んだばかりであれば困惑が、時間が経っていれば焦燥が、感情を支配しているはず。そこに見知らぬ人物が二人紛れ込んだのだ。いかに警戒を与えぬ為とはいえ、言動に一欠片(ひとかけら)の恐怖心も感じられないとは――信じがたいほど冷静で強靭な精神力である。


 ジェレミアの警戒などどこ吹く風で、トーマスはグリソゴノへと尋ねた。


「この森で起きた事件を解決し脱出するためとおっしゃいましたが、具体的にはどういった方法で?」


 トーマスの質問で、グリソゴノは先刻ジェレミアに行ったのと同様、まずは石人(いしびと)についての説明、そして森の中の霧に迷い込んだ人間を元来た場所に戻す魔力がある事などを語った。


「本来であれば霧の魔力により、複数人で森に入り込んでもはぐれ、元来た道に戻される。だが、我が守護石、黒色金剛石(ブラックダイヤモンド)の加護があれば話は別。

 我が力は守護石の力を打ち消す、消滅の加護を備えている。故に迷いの霧の影響を受ける事はない」


「つまり、あなたの力を使って森の魔力を打ち消しつつ、条件を揃える必要があると」


 理路整然と紡がれるグリソゴノの発言には、非の打ち所がないように思える。

 しかしトーマスの疑念は晴れない。グリソゴノから受ける胡散臭さが拭い去れないのだ。王族として様々な人間を見てきたからこそわかる直感的なもの。


「四人の外来者がこの森に招かれ、全員が揃う必要がある――そうでしたね? アダマス殿」

「ああ、その通りだ。『あと二人を』探し出さねばならぬ」


 ジェレミアの言葉にグリソゴノは鷹揚に頷いた。だが、それによりジェレミアは心の中で警戒の色を強める。

(そうか、気づいていないのかアダマス殿は。今ここに僕、仮面の貴公子、そして――『もう一人』が存在している事に)


 姿こそハッキリと見えなかったが、トーマスからさほど離れていない木々の上に「何者か」が蠢いている。

 人と呼ぶには余りにも奇妙な――獣のような気配を微かに漂わせる存在。チクチクと針のような殺気が、聖堂騎士として鍛えられたジェレミアの感覚に突き刺さる。しかもそれは自分にではない――グリソゴノへと向けられている。


(これだけの殺意を秘めながら、全く襲ってくる気配が無い。『何か』を待っているのか?)


 グリソゴノはジェレミアの感じる「何者か」に気を留めた様子もなく、平然と話を進めている。

 いざという時、彼の身を護る準備と警戒だけは怠るまい。聖典に仕える聖堂騎士は、聖堂の抱える警察官――誤解を恐れず言えば「暴力装置」だ。とはいえ疑わしきを罰する事は聖典においても禁じられている。故にジェレミアの行動指針は「信じること」。疑うのは裏切られてからでいい。


「とりあえず、歩きませんか? 動かなければ何も始まらない」ジェレミアは務めてにこやかに提案した。


 外来者があと二人いるというなら、合流すべきであるという見解は一致している。

 その点に関してはトーマスからもグリソゴノからも異論は出なかった。そして三人は歩き始める。


「ところで」ふとトーマスは口を開いた。「お二人には、『残りの』外来者と合流するためのあてはあるのですか?」


 ”残りの”。

 四人の外来者が揃う必要がある。「あと二人だ」とグリソゴノは言った。

 しかし、実際のところは、あと一人なのではないか、とトーマスは考えている。ゲツエイの存在は、まだ彼には察知されていないらしい。


「僕もこの森には迷い込んだばかりで、実はよく分かっていないのです。アダマス殿は何か……?」

 ジェレミアはそもそも森を彷徨う事にほとんど抵抗がない。空腹も疲労も感じない時点で、彼は森を抜け出せない事に危機感を抱いていないのだ。


「いや。実はこれといった決め手は無くてな……トーマス殿が気づいてくれて助かった、というのが正直な感想だ」

 グリソゴノもどういう訳か、何かしらアテがあってトーマスと接触できた訳ではないらしい。その証拠に、グリソゴノの方はギリギリまでトーマスの存在に気づいてもいなかった。つまり彼らは嘘は言っていない。遭遇できたのは偶然と幸運が重なった結果であろう。


 というわけで、返ってきたのは何とも頼りない答えであった。トーマスは内心舌打ちした。使えない連中だ。


「そういう事なら、僕の持つ指輪が役立つかもしれません。

 この森に導かれるきっかけになったこの指輪に、貴方がたの接近に気づく力が宿っていたようです」


 トーマスの言葉は嘘ではないが、完全に真実とも言い切れない。

 確かに二人の接近に気づけたのは灰簾石(タンザナイト)の指輪の輝きが鈍って足を早めたことが要因だが、これ自体に探知の魔力がある訳ではないのだ。


 にも関わらず、トーマスが「役立つかもしれない」と言い出したのは何故か。


 頭上のゲツエイだ。彼が森の木々をはしっこく、音もなく動き――トーマスを誘導している。

 自分たちが探し求めている「外来者」とやらにもすでに目星をつけているのだろう。


(木偶の坊二人などより、やはりゲツエイが一番使える『道具』だ)


 ジェレミアとグリソゴノは、トーマスの言い分を疑いもなく信じている様子。


 己の有能さを再確認し、密かにトーマスは悦に浸った。

 しかしゲツエイの存在はまだ気取られる訳にはいかないだろう。表向きは指輪の力という事にして先導してやらねばなるまい。


「……こちらに進みましょう。大丈夫、心配はいりません。

 お探しの外来者とやらにも必ず出会えます。我々が出会えたように」


 先刻よりさらに足取り軽く、三人と頭上のもう一人は霧降る森の中を進んでいった。


(つづく)

《 選択肢 》


(ジェレミー、ゲツトマ共通)

今回はメニューではなく、希望調査となります。


Q.次回にて全プレイヤーキャラ合流シーンとなりますが、まだ遭遇していないキャラ(ミオソティス、香梅)と鉢合わせた際、どのような反応や台詞を言わせたいかをテキトーにお書き下さい!

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