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硝子の森と霧の夢  作者: LED
Middle Phase 01
14/43

07 香梅の力、ティスの力(ティス&香梅その3)

Scene Character:ミオソティス(ティス)、香梅シャンメイ

Scene Player:貴様 二太郎 様、石川 翠 様


 詰問口調にならないように努めながら、できるだけ優しく聞こえるように香梅(シャンメイ)は語りかける。


「守護石って何か、聞いてもいいかしら?」

「守護石は守護石よ、姐姐(ジエジエ)。成人した石人(いしびと)は必ず一つ、守護石の加護の力を宿していて――その魔力を行使できるの」


 ミオソティスの左眼は確かに、通常の人間のそれとは違う。黒玉(ジェット)。眼球と同様に球形をしており、装飾用にカットされている訳でもないのに、吸い込まれるような輝きを宿している。

 香梅(シャンメイ)は不思議に思う。ぼんやりとしか認識できなかった、彼女と自分の違いがこんなにも明確にされたというのに、嫌悪感がまったくない。確かに花街には色々な事情の人間が集まるが……

 ふと香梅(シャンメイ)は盲いた兄代わりを思い出す。


(案外、兄代わり(あのひと)の瞳も――光を失う前はティスたちのように、特別な力を秘めていたのかもしれないわね)


 この不思議な事態を、しれっと受け入れられるのは何故なのか?

 石人という種族も、不思議な力についても、するりと理解できるのだ。それもやはり、この場所の特殊性ゆえなのかもしれない。


「加護の力……か。ティスの黒玉にも、備わっているのよね?」


 好奇心半分、ティスとの会話の呼び水になったらと思い尋ねたが……彼女の夢見るような表情はにわかに曇り、悲しげな表情になった。


「……どうしたの? 答えにくい話だったら、無理してしゃべらなくてもいいのよ」

「ううん。私の守護石の力、私は――好きじゃないだけ。教える分には全然構いません。

 私の黒玉(ジェット)に宿るのは、忘却の力。私の石を見て、私と出会った人は翌日には……私の事を忘れてしまうんです。綺麗さっぱり。私が望む、望まざるに関わらず」


 なるほど、と香梅(シャンメイ)は得心がいった。

 どんなに楽しい時間を過ごしても、翌日には忘れ去られてしまう。しかも制御もできないようだ。

 悲しげな顔になったのは、この出会いも翌日には忘却するのが分かっていたからだろう。


「あたしの住んでいた町では、忘れたい過去を持っている子供が沢山いたわ。

 そういう子たちからすれば、ティスの力は神様みたいに素敵なモノに映るでしょうね」


 妓女(ぎじょ)として遊郭に売られてくるのだ。悲惨な過去の持ち主が圧倒的に多い。香梅(シャンメイ)もそうだった。辛く陰惨な過去は決して気分のいいものではない。

 それでも香梅(シャンメイ)は過去を忘れたいとは思わない。過去の記憶もまた、自分の一部なのだ。悔しさや悲しさを知っているからこそ、それを乗り越えようと努力してきた今の自分がいるのだから。過去を否定するのは、現在(いま)の自分をも否定する事に繋がる。


 色街に売られた子供たちを引き合いに出し、忘却の力を肯定したのは、悲しげなミオソティスを元気づけるため。

 香梅(シャンメイ)の意図を察したのだろうか、黒玉の少女は「ありがとう」と礼を言った。

 しばし無言の時間が続く。歩けども、霧の景色は変わらない。


 無言の間、香梅(シャンメイ)は思索に耽っていた。

 森が硝子でできていること。首飾りの真珠が月長石になっているということ。目の前の少女が自分と異なる種族であるらしいこと。そしてその美しい瞳の片方が鉱石であること。

 この訳のわからない事象の鍵は、「石」だ。もしかしたら、自分の使った夢枕の中にも何かしらの「石」が埋め込まれていたのかもしれない。


(この森……いいえこの世界が私たちを必要としているのかしら。それとも私たちこそが、この世界に何か必要なものを探しに来たのかしら)


 自宅の茶会(サロン)で出会った仙女――「占いおばば」の言葉からは、物事は(よう)として知れない。

 大体、仙人というものは何でも知っているくせに、大事なことはちっとも教えてくれないのだ。

 人間が自分から気がつかなければ意味がないとでも思っているのだろうか?


 思い返してみれば――何でもお見通しの兄代わりもなかなか口が堅いし、そもそも夫は口下手だ。言葉が足りない人間ばかり周囲にいることに気がつき、香梅(シャンメイ)は嘆息する。


(一体どういうことなの。このまま待てば、必要な出会いは訪れるとでもいうの?)


 香梅(シャンメイ)は苛々と爪を噛もうとした自分にはっと気がついた。何でもないかのように顔の近くまで持って来た掌で、さっと髪を整える。


 子どもの時からの悪い癖は、決して見た目の良いものではない。それにそんなことをすれば、目の前の少女にもきっと自分の動揺が伝わってしまう。

 その幼い容貌と、娘子らしい伸びやかな心根を目の当たりにし、香梅(シャンメイ)はこの少女を――実年齢は自分よりも上とはいえ――庇護すると心に決めていた。

 手持ち無沙汰なのを誤魔化すように、月長石(ムーンストーン)を握りしめる。


 小さく深呼吸を繰り返せば、苛々とした気分が次第に落ち着いた。先ほどまでの自分が嘘のように、心が凪いでゆくのが分かる。

 まるで誰か大切な人に抱きしめられているような、そんな安心感。ぎゅっと握りしめた月長石がほのかに温かいような気がした。

 なぜか脳裏に、雨仔(ユイザイ)の顔がよぎる。馬鹿正直で、自己評価の低い、愚かで一途な香梅の大切な夫。そういえばこの月長石の色は、夫の銀色の髪によく似ているような気がするのだ。


(離れていても夫が守ってくれている――なんて、浪漫的(ロマンチック)な妄想に浸る気はないけれど)


「そうだわ、ティス。あなたの家族について話を――」


 気を紛らわせるため、休憩がてらミオソティスの家の事情でも訊こうと、足を止めた時だった。

 首飾りの月長石(ムーンストーン)の銀色の輝きが、今までにないほど弱まっている。空の光が弱まったのだろうか?


「ティス。森の光の具合はどう?」

「何にも変わってないわ。いつも通りよ。――どうして?」


 ミオソティスはきょとんとしている。空から注ぐ光の量に変化はないらしい。

 にも関わらずムーンストーンの輝きが減じているのは、別の要因があるという事だと、香梅(シャンメイ)は気づいた。


「……近くに誰かいるのかしら」

「! 姐姐(ジエジエ)、見てあそこ! 誰か倒れてる!」


 ミオソティスが指さした木の裏に、もたれかかった黒衣の男の姿が見えた。

 弱々しい呻き声が聞こえる。どうやら怪我人らしい。二人は急ぎ向かった。


 黒衣の男は老人だった。腹部に傷を負っているのか、血を流して黒服を朱に染めている。

 特徴的なのは左眼の黒く輝く宝石のような瞳である。この男も石人(いしびと)なのだろうと、香梅(シャンメイ)は思い至った。


「この人……! 黒色金剛石(ブラックダイヤモンド)の守護石……消滅の力……」


 隣のミオソティスの驚きぶりは、香梅(シャンメイ)の想像を遥かに上回っていた。先刻までの夢心地だった表情が、急に現実に引き戻されてしまったような――緊張した面持ちを見せている。


「もしかしてこの人が……私の……運命の、人……?」

「えっ……運命って……」

「でも、オルロフ王子って……こんなに御年を召されていたかしら? たしか貴族名鑑では百七十歳って……」


 さりげなくショックを受けているミオソティスの言葉に、香梅(シャンメイ)もかなり混乱したが。

 今は真意を確かめている場合ではない。負傷して意識を失いかけているこの老人を救わなければ。


(いくら夢の中といっても、傷を癒せる魔法が使えたりとか、そんなご都合主義は起きないわよね……)


 そんな風に思っていた矢先。香梅(シャンメイ)の持つ月長石(ムーンストーン)の輝きが不意に増した。


「えっ……? どういう事。さっきまで光が弱まっていたのに……!」


 香梅(シャンメイ)は思い出す。かつて夫が自分の夫となる前に、瀕死の重傷を負った時の事を。

 あの時も懸命に治療し、寝る間も惜しんで看病した。己の全てを賭けてでも、救いたいと強く思った。

 その時の記憶が鮮明に蘇り、胸元の首飾りの宝石がさらに輝きを増す。すると――老人の負っていた傷の出血が、見る間に止まっていくではないか。


「これは……この石の力……? 治療の……魔法……?」


 最初は信じられないといった面持ちの香梅(シャンメイ)だったが、念じれば念じるほど出血は治まっていく。集中力を要するが、今はこれを続けるしかない。


「ティス! あなたにもあるんでしょう? 守護石の……忘却の力が!

 それを使って、この人の傷の痛みを忘れさせるとか、そういう事はできない?」

「えっ、そんな事……今まで考えてもみなかったわ。

 だってずっと、私の黒玉(ジェット)の加護は制御不能で……私の意思に関係なく発動していたんだもの」


 切羽詰まった香梅(シャンメイ)に問われ、オロオロするミオソティス。


「あたしだって今知ったのよ。月長石(ムーンストーン)に治癒能力があるって!

 お願いティス。ちょっとでいいから試してみて。あなたの運命の人なんでしょう?

 もしかしたら――今のあたしみたいに、普段はできないような事だってできるかもしれない。

 だってここは、夢の中の森なんだから……」


 香梅(シャンメイ)の懇願に、ミオソティスは怯えながらも――考えていた。


(確かに霧が濃くて、普段よりも宝石の力が活発になっているような気がする。

 姐姐(ジエジエ)の言う通り、ここが夢の中なら……できるかもしれない。夢の中だもの、何だってありだわ。

 傷の痛みを忘れさせて、この運命の人……? の、苦しみを軽くするくらいの事だったら……)


 念じてみる。この黒色金剛石(ブラックダイヤモンド)の石人の傷の痛みが、忘れ去られてしまいますように。

 祈ってみる。この老人の苦しみが、過去のものとなって消え去りますように。


 呻いていた老人の目に光が戻り、はっきりと意識を取り戻した。

 そして彼は自分の傷口に手を押し当て――瞬く間にそれを消滅させる!


「……傷が……消えた……?」


「……礼を言う……貴女たちが我が傷の血を止め、痛みを和らげてくれたお陰で……我が守護石の『消滅』の力をで以て、負傷した事実そのものを消滅させる事ができた」


 黒衣の老人はすっかり元気を取り戻し、ミオソティスと香梅(シャンメイ)に深々と頭を下げた。


「儂の名はグリソゴノ・プルンブム・アダマス――黒色金剛石(ブラックダイヤモンド)の守護石を持つ『石人』だ」


(つづく)

《 選択肢 》


(ティス、香梅共通)

今回はメニューではなく、希望調査となります。


Q.次回にて全プレイヤーキャラ合流シーンとなりますが、まだ遭遇していないキャラ(ジェレミア、ゲツエイ&トーマス)と鉢合わせた際、どのような反応や台詞を言わせたいかをテキトーにお書き下さい!

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