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硝子の森と霧の夢  作者: LED
Middle Phase 01
13/43

06 仮面舞踏会(マスカレード)(ゲツトマその2)

Scene Character:ゲツエイ&トーマス(ゲツトマ)

Scene Player:カミユ 様

 夜の匂いがする、薄明の世界。上空の霧は濃く、わざと空を覆い隠しているかのよう。


 足音が聴こえる。

 樹上から視線を巡らすと、霧にまぎれて「人間によく似たかたちのなにか」が、動いている。


 ひとつ、ふたつ、みっつ。

 紫色の感覚と、灰色の感覚と、そして真っ黒な感覚。


『ゲツエイ! 追って、殺るか!?』

 蜘蛛の煽りに、ゲツエイは首を横に振った。


 どこからもこちらに向けての敵意は感じない。であれば、トーマス(群れ)から離れるのは危険だ。


 それに……ひときわ違和感を覚えるひとつ。真っ黒のあいつ。

 奴からは不快なものを感じる。敵意や殺意ではない。けれど、自分やトーマスに仇なす「嫌なにおい」がする。もし出会えば、トーマスもきっとその「嫌なにおい」に気づくだろう。

 殺るのはその時で構わない。名を呼ぶだけで十分だ。群れの総意となれば、ゲツエイは「刃」として、あの冷たい「石」を砕く。


 忍者は樹上にて、人知れず赤毛を逆立たせた。


**********


 トーマスは念じて出現させたベッドで休息を取りつつ、夜が明けるのを待った。


 しかし、いくら待とうとも周囲の景色は変わり映えせず、若干明るくなった程度の薄明の空が、ぼんやりと霧に包まれたまま佇んでいる。ここに飛ばされてから、優に六時間は経過しているにもかかわらず。


(極夜か)


 かつて書物で目にしたことがある。――極北の地では、極夜と呼ばれる現象がおこる時期があると。

 本来であれば昇るはずの太陽が沈んだままの日々が続くという。全く陽の差さない時期が一ヶ月。

 通しの日照時間が一日にも満たない時期を含めれば三ヶ月近く。


(たまたま『そんな時期』に迷い込んだという事か?)


 トーマスの推測は、彼のいた世界においてはほぼ正確な知識である。

 しかし問題なのは、ここは異世界であり「極夜国(ノクス)」と呼ばれし地である事。

 常識で考えれば四半年に満たない筈の極夜が一年中――すなわち永劫に続く極寒の世界なのだ。現時点でのトーマスがその結論に到達できる道理もないが。


 ともあれ現状に変化が無い以上、このまま同じ場所に留まっていても仕方がない。

 直線距離を進めば、いかにこの森が広かろうが抜けられるはずだ。

 フルコースの例もある。何か”超常の力”が働いて妨害される可能性は考慮しつつ、確かめる意味でも動かざるを得ない。


 そうトーマスが結論づけ、歩き出した矢先の事だった。

 ほんの僅かの変化だが、身に着けていた灰簾石(タンザナイト)の指輪の宿す輝きが鈍った。いかなる時でも濃い光を宿していた美しい宝石が、にわかにその色を落としたのである。


(宝石に宿る『力』が――弱められているのか? おそらく今回は、この石の力によってこの世界へ飛ばされた。では、力がなくなるとどうなる?)


 この森の硝子化現象が人体に与える影響もまだ分からない。

「どちらにせよ、急がないと危険か」

 トーマスは舌打ちして、足を早めた。


**********


 足音らしきものは聞こえない。だが何者かが近づいてきている。


 敵であれば殺す。敵でなくとも目障りならば殺す。

 敵意が無く有益な存在であれば情報を聞き出し、利用する。


 それを判断するためにトーマスは「仮面」を取り出した。

 無表情だった美貌に物腰柔らかな「笑顔」を貼りつける。


 本質を見抜ける人間の割合は非常に少ない。向こうが浅薄で、薄皮一枚程度の芝居すら見抜けぬ愚図であれば、簡単に騙せるだろう。


「――どなたかいらっしゃるのですか?

 もしかして僕と同様、迷い込まれた方々ですか?」


 余計な警戒を抱かれぬよう、わざと先に声をかけてやる。

 向こうは二人組。かなり驚いた表情をしている。


 一人は鎖帷子(チェインメイル)胸当て(ブレストプレート)を纏って武装した騎士。もう一人は黒衣の老人。トーマスからすれば前時代的な古めかしい衣装だ。中世騎士の扮装(コスプレ)か、そうでなければ自分たち同様、違う時空からの訪問者という事になる。


「……これは失礼。僕たちは怪しい者ではありません。僕はジェレミア。

 こちらの方はグリソゴノ・アダマス殿。この森で起きた事件を解決し、共に脱出するためにあなたのような方を探して回っていたのです」


 ジェレミアと名乗った赤毛の騎士は柔和な笑みと共に自己紹介したが、心の隅で警戒を緩めていなかった。

(あらかじめ【消音】の術をかけておいたのに、気づかれてしまった……?

 音以外にこちらの気配を探る術すべを持っているという事か、この男は――)


 トーマスは仮面の笑みを貼り付けたまま、表向きは友好的な態度を崩さなかった。


「森についての情報をお持ちなんですね。

 僕はトーマス。トーマス・ファン・ビセンテ・ラ・セルダ。

 あなた方がここから脱出する方法をご存知だと言うのなら、力添えしたく」


 終始無言のグリソゴノとやらも、トーマスに対し何かしら不審に思っているようだ。


 王の代理として一国に君臨していたときの感覚が蘇る。ピリリとした探り合いの空気感。二人とも一見善人のようだが、腹に一物抱えていても不思議ではない。一筋縄ではいかないかもしれないが、目的が同じなら利用する価値はある。


 トーマスはゲツエイに目配せして、勝手な行動をとらぬよう、密かに命じるのだった。


(つづく)

《 選択肢 》


(ジェレミー)

今後の探索はどのように進めるべきか?


A 霧の流れに着目し、事件の元凶地点を突き止める

B 宝石に着目し、全員との合流を目指す


もちろん全く別の選択をしてもOK!


(ゲツトマ)

新たに出会った二人にどう接するべきか?


A ジェレミアを抱き込み、グリソゴノに不信を抱かせる

B グリソゴノを問い詰め、発言の矛盾を暴く


もちろん全く別の選択をしてもOK!

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