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硝子の森と霧の夢  作者: LED
Middle Phase 01
12/43

05 外来者を探せ!(ジェレミーその2)

Scene Character:ジェレミア・リスタール(ジェレミー)

Scene Player:天界音楽 様

 グリソゴノと名乗った黒衣の老人の言葉は、ジェレミアにとって謎だらけであった。

 「扉」を開いた? 「石人いしびと」? 守護石の加護? いずれも彼が聞いた事のない単語ばかりだ。


「失礼、アダマス殿。『石人』というのは、一体……?」

「お主はジェレミアと言ったか? お主も恐らく、外界の人間と同様の種族であろうな。

 石人とは、極寒の地・極夜国ノクスにのみ住まう長命な種族でな。

 人間のような食事を必要とせず、光と水のみにて生き永らえる事ができる者たちなのだ」


「長命――ですか。無礼を承知でお尋ねしますが、アダマス殿、お歳は……?」

「儂がこの世に生を受けたのは世界暦にして1254年のこと。今年は3254年。すなわち――」

「……! 2000歳……!?」


 長命種族と聞きはしたものの、数百歳ぐらいかと予想していた所に、桁違いの年齢である。

 ジェレミアが絶句するのも無理はなかった。しかし……彼は感動に打ち震え、息を弾ませて叫んだ。


「もしやアダマス殿……あなたは僕の世界で言うところの『大賢人』に匹敵するほど高名なお方なのでは!?」

「いや……『大賢人』がいかなる存在か知らぬが、特にそのような事は……

 確かに儂ほどの長寿を保った石人は、そうはおらぬ。そういう意味で敬われたりはするがの」


 石人は長命なだけでなく、左右の目いずれかに宝石の瞳を宿し、その加護の力を得られるのだという。

 グリソゴノの持つ右眼の黒色金剛石ブラックダイヤモンドに宿る加護は「消滅」。あらゆる守護石の加護を打ち消す力がある。


「この森に漂う霧も、守護石の加護によるものでな。入ってきた者を迷わせ、元いた場所に戻す力がある。

 しかし儂は黒色金剛石ブラックダイヤモンドの力により、霧に惑わされる事なく森を散策し、管理する事ができる」

「なるほど――アダマス殿はこの森の管理者としての役目を担っておられるのですか」


 グリソゴノとの会話で、ジェレミアは石人と守護石についての情報を知る事ができた。


 残る最後の謎、「扉」という言葉の指すところは大体見当がつく。

 ジェレミアの住むアウストラル王国には、「マレビト」と呼ばれる来訪者の伝説がある。ジェレミアたちの暮らしていた場所とは全くかけ離れた、異なる営みのあるところ、異なる世界、マレビトはそこからやってくるのだという。

 また逆に、異世界が存在するならばこちらからも出向けるはずだ、という考え方もあり、実際にそんな話が残されている。その資質を持つ者は眠っている間に、夢の中で異世界を旅する。彼らは「夢渡り」と呼ばれる、ある意味魔術師よりも希少な存在だ。

 いずれも今では信じられていない。ジェレミアも、幼い頃に読んだ「おとぎ話」の中で知るのみである。


(しかし……寝ている間ならともかく、僕は意識がはっきりしている状態でこの森に来た。

 僕自身に伝説の『夢渡り』の力が身についた、といった話ではなさそうだ)


 という事は、考えられる原因はひとつ。ジェレミアは護符を握り締めて言った。


「アダマス殿、先ほど『扉』と仰いましたが。

 僕がここへと迷い込んだのは、おそらくこの護符のせいではないかと思います。

 見ていただいてもよろしいでしょうか?」


 森の景色が一変した時に、虹色に輝いた黒曜石の護符。

 グリソゴノはジェレミアが差し出した護符と、その中心にある宝石をまじまじと見つめてから、口を開いた。


「これは……虹色黒曜石レインボーオブシディアンの護符か。

 やはりお主が、招かれた者である事は疑いないようだ。

 お主の看破した通り、この護符は異なる世界同士の『扉』を開き、繋げる橋渡しの役目を持つ。

 今『迷いの森』は、本来発せられるべきではないほどの濃い霧を噴き出してしまっておる。

 このまま霧が深まれば、極夜国ノクスは完全に外界と隔絶され、文字通り幻の存在と化してしまうであろう。

 それを防ぐべく……勝手な話であるが、お主らを異なる世界より招き入れる事にしたのだ」


「そういう事でしたか。これで色々と話が繋がりました。

 『お主ら』とおっしゃいましたが、アダマス殿。つまり僕以外にも、複数の人間をこの森に招き入れたという事ですね?」


「……うむ。霧を鎮めるためには、四人の外来者を招く必要があると、未来予知の加護を持つ石人から教わったのだ」


「僕も自分の使命を果たすため、この森を脱出して元の世界へと帰りたい。

 ですが、アダマス殿とて切羽詰まった状況であるが故に、僕たち外界の者への助力を請う決断をされたのでしょう。

 そうであれば、協力しない道理はありません! お困りとあらば手をお貸し致します。それが我々、聖堂騎士の務めですから!」


 ジェレミアの誠実かつ飲み込みの早い言い分に、さしものグリソゴノも目を丸くしていた。

 騎士とは礼儀正しきものとはいえ、現状を厭わずここまで前向きに協力を申し出ようなどと思ってはいなかったのだろう。


「……感謝する。お主の世界の『聖堂騎士』。気高くも献身的である事、このグリソゴノの記憶に留めておこう」

「礼には及びませんよ、アダマス殿! そうと決まれば早速進みましょう! 一刻も早く、他の招かれた方々を見つけ出さなければ!」


 ジェレミアが森に入ってからかなりの時間が経つが、疲労も空腹も感じず、精神的には高揚しむしろ絶好調であった。

 早々とこの世界の内情を知る老人と出会えたのも僥倖だ。やるべき事も単純明快! ジェレミアにとって、思い悩む事なく突き進むには十分すぎるほどの材料が揃っていた。


(つづく)

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