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ルール違反である。
断言しよう。彼が行ったのは明確なルール違反である。
戦闘における敗者は死者であり、死者は勝者に牙を剥く事は無い。
怨念無念。そう言った形で害を為すのは認めよう。
ゾンビ屍人グール。そう言った形での復讐すらも許容するのがエーテルと言う物質が満この世界だ。
だが、そんな世界においても、尚、彼の行いはルール違反だ。
硝煙を燻らす銃が有る。
首の無い『生き返り掛け』の死体がソレを握っている。
筋肉は、動くのだ。
ガヴァーニ電流。
或は生体電流と称されるソレ。脳が有った時に流れたソレは、斬り落とされて尚、引き金にかかった指への指令を到達させた。
死んだ直後とも言えるコンマ数秒以内に行われる早撃ち成らぬ遅撃ち。
子鬼の王は、片桐ソウジのルール違反により敗北した。
□■□■□
「ソウジくん、正座」
「え? 何でいきなり星座の話ですかゆりあさん? 俺、蟹座何であんま強くないですよ?」
「ふっ。――ダイヤモンドダストぉぉぉぉぉぉおぉっ!」
「いきなりの絶叫と共に殴りかかってきましたよ!? 理不尽! なんの、こちらも必殺の積尸気め――眼がっ!」
バ○スっ!
「因みに私はおとめ座です」
いぇあ、とゆりあさん。
「……」
ならば何故、水瓶座の技を放った?
と、言うかただの目つぶしだったよね?
「えー……行き成り出迎えてくれたのは嬉しいのですが、俺は早くタタラの元に行きたいのですが……」
唯でさえ二回も致命傷を受けて、更に今、目つぶしを受けたので俺とリンクしている子神のタタラくんの身柄が心配なのです。
「その事で話があるので、正座」
だと、言うの目の前の見た目は子供、中身は大人の二十八歳は腰に手を当て、ふんす、と無い胸逸らしていた。
な、なんてことだー! しょうがいぶつがないからふつうにかおがみえてるぞー。
「スカァァァァァァレットッ! ニィィィイイイイイイイイィドルっ――!」
「ればっ!」
肝臓に突き刺さる鋭い突き。……だから、何故に、おとめ座の技を、放たない。
「今のは、お前が傷付けたタタラの分だッ!」
「……」
ダウト! そう叫びたいけど我慢する。
絶対に三次元表現される部位が二次元的に表現されたことにたいする一撃だ。(湾曲的表現)
とか言ったら歩遺産な事になるのは目に見えているので、当初の相手の要望通りに正座をば。
「ソウジくんはー……二回も『死んだ』ね?」
「いえ、四回です」
二回は首ちょんぱで、一回は目つぶし、最後にキドニーブローです。後半の二回の方がダメージがでかいです。責任もってぱんつくらいみせろやおらー。
「はい」
「……」
冗談で言ったら見せてくれた。黒だった。ありがとうございます。
「で、二回も死んだことに対するお説教……と、言うか、確認なんだけどね、一定ラインを越えたダメージがタタラくんに行くって事は知ってるよね?」
「……まぁ、一応」
知っています。だから子鬼に対して全殺しするつもりで行きました。
でも、勝つ為にその特性を使いました。
「……君が死んだとき、タタラくんはお昼ごはんを食べていました」
「あぁ、そういや昼時でしたね、アレ」
それは悪い事をした。タタラと一緒に食事を摂っていた方々はしばらく肉が食えなくなったかもしれない。
「……」
「……」
「…………」
「…………えーと?」
割とガチで起こってますよね、ゆりあさん? 見下ろす目線に殺意が宿ってますね? 俺何かしまし――はっ!
「黒、似合ってたゼっ☆」
ばちーん、とウインク。
俺としたことが、女性の服装(下着)を褒めるのを忘れてたぜ!
「……――」
「え? ちょ? 何、ゆりあさん、眼怖い――いたっ! 殴られ――ッ? マウント取られましたよ? はっ、さては俺に酷い事をする気ですね? エロ同人みた――」
ナックルハンマー
水っぽい音が周囲に響いた。
閑話休題。
「本格的にタタラが心配なのですが?」
五回目なのですが?
「……それなら大丈夫よ」
耳を疑う言葉。真意を問う様に見上げれば、泣きそうなゆりあさん。
「ねぇ、ソウジくん? 何時までふざけてるの? 首が切られたんだよ? タタラくんが、あんな小さい子が耐えれると思う?」
「――ッ!」
一気に、眼が覚めた。
背筋に奔る氷の様な感覚。地面が崩れた様な錯覚。そう。そうだ。タタラは紙だが、小さな子供だ。転べば泣く喰らい、幼く、脆い。
そんな子供の首が不意に着られる。
それも戦闘で高揚していた俺の様な譲許で無く、日常の、その最中で。
それは、とても、痛くて、怖い。
「で、でも、ほら、俺も生きてるし、タタラも生きてるんだろう? 諦めてないんだろう?」
「タタラくんは、もう、諦められない身体になったの」
「――え」
その言葉に思考が止まる。この状態こそが答えだと理解する。
思考しなければ、諦めも生まれない。
身体は生きていても、心が死んでしまえば、考え事は出来なくなる。
子鬼の王は、小さな神の心を殺し――
「た、タタラはッ!」
「……」
無言で指差される扉。
酷く、重く感じられる木製の扉。音一つなく佇む静寂の象徴。
「っ!」
俺は、俺は、転がる様に駆け出し、その扉を勢い良く開け放ち――
「行ける行ける行ける行けるっ! 諦めんな諦めんな諦めんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ! ほらほらダメダメ! 何で今ボール諦めた? 行けるって! そこで諦めるのがお前の甘えだって! 俺がお前を信じてる! お前なら追いつけるって! だから行けよ! 追い付いて見せろよ! ネバァァァァァアアッ――! ギヴァァァァァアップッッッッッ!」
「ねばーぎばーっぷ!」
見事なフォアハンドでボールを打ち返すタタラだった。
「紹介してあげる。ソウジ」
「え? アレ、小鳥遊さん、アレ?」
「世にも珍しい二重属性の神性持ち、テニスと炎の神、しゅーぞくんよ」
「……えー……」
「今のガッツあふれるタタラならそう簡単に諦めないわ。それに、見て。相手のボールが吸い込まれる様にタタラに向かって行くの。そう。気が付いた? ……タタラゾーンよ」
「……えー」
そんな手塚ゾーンみたいに言われてもー。
ハスキーボイスで何言ってんの、このお嬢さん?
「あ、それとソウジ」
「?」
「私はペガサス座」
「へ?」
何言ってんの? そう、小首傾げる俺の目の前で拳の壁が展開され――
「流星拳!」
「それ十二星座じゃないからなっ!」
感想などいただければー。




