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後日談、その6


今日は、私達の結婚式です。




12月8日。

とあるこじんまりとしたチャペル。

雲ひとつない澄んだ青い空の下、緑が青々と茂る場所に凛と佇んでいる。


2人で選んだチャペルに、

2人で選んだ衣装を着て。


目の前にある大きくて重厚な扉を開けると、十字架の前に立った白のタキシードに身を包んだ義夜さんが私を迎えてくれる。

その微笑みは、そこへ向かう私の足を止めてしまう程眩しい。


数メートルの赤い絨毯の上を歩くのに、軽く眩暈を覚える。



もう既に涙ぐんでいるお父さんの腕をとりながら、一歩、また一歩と近づく。


参列者の席にはお母さんや義夜さんの両親、麻衣と詩織と、成瀬さんとルヴォワールのスタッフ達。

皆微笑んで私を見ている。


視線を戻すともう義夜さんの近くにいて、右手を差し出された。

いつも私を包む手に、吸い込まれるように差し伸べる。


お父さんが小さい声で『あとはよろしく』と言って席に戻った。


任せて下さい、と言った義夜さんは私を隣へ誘う。


並んで神父の前に立つと、キラキラと輝くステンドグラスが眩しい。

ちらりと横目で義夜さんを見ると、そのカッコよさがいつも以上に引き立てられている。

自然に横に流れている黒髪がやたら艶めいているし、切れ長の目が少し伏せがちになっていて、儚さも醸しだされて非常に危険な妖艶さだ。


魅せられるようにずっと眺めていたら、いつの間にか誓詞になっていた。


「汝はこの女性を妻とし、富める時も、貧しい時も、健やかな時も、 病めるときも、愛し、慈しみ、永遠に添い遂げる事を誓いますか?」


そう神父が言うと、義夜さんは私の方へ顔を向ける。横で見ているのがバレてしまったようで少し恥ずかしい。

照れた私を見てふ、と笑い、


「はい。誓います。―――今度こそ、絶対に」


と、私の目を見てそう返事をした。

真っ直ぐと私の目を見つめる義夜さん。


その目は揺らぐ事もなく、まるで、私に誓っているかのようで。


あの時と同じ誓いを、神様の前で私に誓ってくれている。

皆に祝福され、皆の前で私と共にいると言ってくれている。


義夜さんの顔が段々とぼやけてきておかしいなと思ったら、いつの間にか私は泣いていた。

神父が私に誓詞を問いかけるが、答える事が出来ない。




昔、ギィの背中に落っこちた時から始まった私の恋。




一人ぼっちの私の前に現れた、気高き黒い竜との恋。


 “どうして生きてるの?”

 “主が我の上に落ちてきたからだ”


それは長く続くものではなかったけれど、毎日が楽しくて、幸せな日々だったのは確かだった。


 “我は竜だがそなたが好きだ。愛しいと思っておる”


そして長い時を経て、巡り巡って再び出会えた時も、一度は引き離された。


 “今度こそ幸せになってくれ。我の心からの望みだ”


それから8年の時が流れて、愛しい人との一瞬の甘い夢を経て、ようやく結ばれる事ができた。


 “再び巡り合う運命(さだめ)だったと言う事でいいんじゃないか?”



どうしてこんなに時間がかかってしまったのか。

どうしてこんなに運命に翻弄されたのだろうか。



今までの事が走馬灯のように頭の中で巡り、ただただ涙を流して立ちつくすだけしかできなかった。


嬉しかった事も、


悲しかった事も、


楽しかった事も、


苦しかった事も、


全て私の記憶(こころ)に刻まれている。



どんな事でも、それのどれを欠けても今の私にならなかったのだろう。



それを思うと更に涙が溢れてくる。


きっと、綺麗にしてもらった化粧もボロボロに崩れて酷い顔になっている。

そして参列者の人達は呆れている事だろう。


でも、誓いたくても、胸が詰まって言葉が出ない。

早く、一緒になりたいのに。


泣いて立ちつくす私を、義夜さんが抱きしめてきた。

背中に手を回す手は少し震えていた。


「…うん、俺も。たまらないな」


ボソリと私にだけ聞こえる声で呟くのを聞いて、少し落ち着けた。

義夜さんも同じ気持ちなのだという事を。

そして誓詞で抱き合う私達を見て周りがざわつき始めたのを感じ、背中に触れ大丈夫、と涙を拭いた。


酷い顔、と言われ頬を膨らますと、『だけど可愛い』と言って前を向いた義夜さんに開いた口がふさがらない。

口をパクパクしていると、神父にゴホンと喉を鳴らされた。

先生に怒られたように2人で顔を見合わせ、前を向いて佇まいを直す。


再び私の誓詞が紡がれる。


目の前にはキラキラと光るステンドグラス。

私の未来も、きっとキラキラと輝くはず。


まだ見ぬ未来に、自然と笑みが零れる。




今、全てを受け止め未来を誓おう。


この人を、永遠に愛するという事を。



「はい、誓います!」





これからも続く、


永遠に醒めない甘い夢に。







永遠に融けない私の愛を。










*










半年後。







私達は4LDK庭付き一戸建てに引越し、寝食を共にし、変わらずルヴォワールで一緒に働いている。

折角一軒家だし、犬や猫を飼いたいと言っても許可が下りなかった。

どうしてなのと再三に渡り問い詰めた所、ようやく口を割った義夜さんに『2人きりの邪魔はさせない』とキラリと目を光らせ散々貪られてしまったのも懐かしい。どこをとは言わない。


しかし今日は2人きりの時間を大切にするそんな義夜さんに、2人暮らし解除なご報告をしなければならない。

2人がけの大きな白いソファーに義夜さんを座らせて、隣に座ってその手を両手で包む。

何?と可愛く首を傾げる義夜さんに、笑って報告をする。


「子供ができました」


まだ2ヶ月で性別は分からないけど順調にいっているよ、そう言うと口を開けたまま動かない義夜さん。

目の前で手を振っても揺すってもちゅーをしても還って来ない。

もう一度大きい声で義夜さん!と叫ぶと、はっとしたように私に視線を合わせ、手が空を彷徨う。

その手を取ってお腹に誘う。


「遅くなってゴメンなさい。ここに、義夜さんとの子供が来ましたよ?男の子と、女の子、どっちかなぁ」


へへっと愛しくなってお腹を見て笑うと、当てられている手が震えているのに気づく。

ふと顔を上げて義夜さんを見ると、赤茶の瞳から涙が零れていた。


「千陽と…俺の、子供―――」


ぽつりと呟く言葉に胸が締め付けられる。


ああ。

私も、彼も、愛した人の子供を手に出来なかったのだ。


「そう…だよ。義夜さんと、私の…子供なんだよ…っ」


義夜さんを抱きしめると、少し鈍い動きで、かつしっかりと私を抱きしめ返してくれた。

その手はまだ現実味がないといった風に、必死にしがみついているかのようだった。

はっと小さい息が聞こえ、首筋に冷たい雫が流れるのを感じる。

埋められた頭を撫でると更に強く抱きしめられた。


「…ありがとう、千陽」


その言葉に私も涙が零れた。


私も、ありがとう。


そう言うと、身体を離した義夜さんに頬を包まれ、唇が落とされる。

そしてそのまま、まだ平らなお腹の上に移動した。



それは再び未来を紡ぐ、誓いのキスのようで。




生まれてくる子に、

いのちを吹き込む祝福のようで―――。




この家に、私達以外の声が混ざる日はそう遠くない未来。




その日までは2人きりでいようね、義夜さん。




これで後日談終わりです!

前話との配分おかしすぎですね!(∀`*ゞ)テヘッ


やっぱり締めは最後は結婚して子供ができましたですよね!?え、違う…!?

2人はこれからも幸せに過ごしていって欲しいという意味を込めてここまで書かせていただきました!

本当は皆様の脳内補完に任せた方がよりドラマチックなんでしょうが!!(*´ω`*)


では、こんなイチャイチャしかない蛇足にここまで読んでいただきありがとうございました!!!!

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