第1話:開演のベルは強酸のシャワーと共に
自分自身初めて書く作品です!甘い目で見ていただければすごく助かります!
ある昼下がり・・・といっても窓の一切ない広いオフィスの一室で御影透は本日3杯目のコーヒーをすすりながら、部屋の壁一面ほどの大きさのディスプレイに顔を向ける。
「はぁ 長引くだろうなぁ」
ディスプレイの先では二人の高校生ほどにみえる男女(実際とある東京都の高校に通っていた、とデータには書いてある)が、喧嘩をしている
二人の首には金属製の首輪がつけられていた。当委員会、デスゲーム管理委員会第3支部、通称デスカンお手製の爆弾装置だ
(いや、喧嘩というより少年側のわがままに近いか)
そう透は分析する
というのも・・・
『ぐぅ……っ、私がもう先は長くないって知ってるでしょう!!!』
少女は少年に向かって叫ぶ
『そんなこと言ったって・・・』
少年は白いタイルの床に倒れこむ少女を自分の腕で支えていた
しかし、少女の倒れているタイルは赤い血で染まっている
先ほどのゲームのマシンガンにやられたのだ
一方少年の方は全くと言っていいほどの無傷であった。運がよかったのだろう
(後は、少年が『クリアの扉』をくぐって終了だな・・・彼のオッズはどうだろうか)
俺は右上にあるサブモニターに顔を向けて確認する
「9.2倍か。まぁまぁだな」
ただ、この別れの葛藤が長いんだよなぁ、と透は考えながら欠伸を噛み殺す
しばらくして少年は血で赤く染まったタイルに少女をゆっくりと横たわらせ立ち上がって彼女に言葉を投げかける
『俺、行くよ』
『秋…吾は 生き…て…!』
少女は息も絶え絶えになりながら少年に言葉を投げかける
『この扉を超えたら全部終わりだ。なら、まだ生きている梨花も治療してくれるんだよなぁぁ?!』
少年は部屋の天井4隅に設置されているカメラに向かって叫んでいた
(そうだよなあ。こういう時人は、わずかな希望にすがりたくなる)
透は少年を憐れむ
少年は『クリアの扉』を開け、扉の先へといった瞬間、その扉がすぐに閉じた
何か嫌な予感がした少年はその扉をもう一度開けようとするが・・・開かない
少年は扉の上部のガラスの先の少女を見ながら、必死にその分厚いガラスを叩きながら叫んでいる。
だが、無情にも少女のいる部屋の天井で、四隅に設置されたノズルがカチリと事務的な機械音を鳴らした。
プシューッという音と共に、スプリンクラーから無色透明な液体が噴霧される。 水ではない。それが降り注いだ瞬間、白いタイルと赤い血だまりから、ジュウジュウと不気味な白煙が立ち上った。少女に降り注ぐのも・・・言わずもがなだ
『――っ!? ぁ、ああ、あ、アアアァァァッ!!』
分厚い防弾ガラスに阻まれ、少年の声はくぐもってほとんど聞こえない。 高濃度の酸のシャワーが、横になったまま動かない少女の制服を、髪を、そして生身の皮膚をドロドロと黒く焦がし、溶かしていく。
(……『強酸シャワー』。残った有機物を跡形もなく溶かす、デスカン自慢の死体処理兼、敗者への罰ゲームだ)
透は冷めた目で、激しく明滅するモニターの惨劇を見つめる。
やがてドロドロの液体となって排水溝へ流れていく。 それを見た少年は、ガラスにすがりついたまま、その場に崩れ落ちた。
無情にも透がいるオフィス、少年がいる空間、おそらく透が見たことはないVIPルームにもこの無機質なアナウンスは響いているだろう
「ナンバー4 新藤 梨花 脱落 生存時間31時間23分52秒」
「……さて。これでゲームセットだな」
透は残りのコーヒーを飲み干した
◆ ◆ ◆
壮絶なデスゲームが終わった後、透のデスクの後ろからのんきな声がした
年端も行っていないような2人の少女が、部屋のディスプレイの映像を見ながらわちゃわちゃしている
「あはは!やっぱり酸のシャワーは部屋全体が汚れるね!掃除する人たいへんそー」
ケラケラと笑って振り返った彼女の左目は、照明の光を一切反射しない精巧なガラスの『義眼』だった
彼女の小柄な身体を包んでいるのは、デスカンから支給されているカジノのディーラーのような漆黒の制服だ。純白のシャツと細身の暗赤色のネクタイ。生地には血液や強酸を弾くための特殊な防汚コーティングが施されており、この狂った職場には似つかわしくないほど清潔で洗練されている
だが、彼女はその厳格な制服の上に、規定違反である薄ベージュのゆるいカーディガンをだらしなく羽織っていた。 袖口を指先まで伸ばし、義眼の左目を細めて笑うその姿は、どこにでもいる普通の女子社員にしか見えない。――彼女がたった今、防弾ガラスの向こうで女子高生をドロドロに溶かした張本人でなければ、の話だが
彼女は星崎ユラ。透の部下で主にデスゲームの内容を考える通称ゲーム係、デスカンの花形部門を担う責任者である。
『ナニをイッテル?アレやったのオマエ。オマエもおかたづけテツダエヨ?』
小学生ほどの背丈しかない、ブカブカの白い防護服のような服に左胸元には可愛いクマさんのワッペンをつけ、顔はウサギの仮面で隠している、マスコットのような生物が仮面でくぐもった電子音声を出す。
「あはは!ごめんねー仮面せーんぱい!」
ユラはこのマスコットに抱きつきながら、いつも通りかるい声をかける。
この少女――いや、中身が本当に少女なのかも定かではない小柄な清掃員――の本当の名前を、このオフィスで知っているのは人事データにアクセスできる俺だけだ。
だが、誰も彼女を本名で呼ぶ者はいない。この第3支部では皆が親しみを込めて、ただ『仮面先輩』と呼んでいる。
彼女はこのデスカン第3支部にて死体処理および現場復旧の責任者を担っている
『ユ、ユラァ……! クルシイ……ハナセェ……!』
ユラに背後から抱きつかれた仮面先輩は、クマさんのワッペンを潰されまいと、ダボダボの空の袖をバタバタと振って必死に抵抗している。だが、焦って裏返った甲高い電子音声のせいで、そこには一切の緊迫感がなかった。
「あ!先輩のぽっけからドーナツ発見!もらうねー♪」
『アアーー……カエセーー……!』
どうやら仮面先輩はお気に入りのドーナツをユラに奪われてしまったようだ
(あとで何か甘いものあげようかな)
そんなことを考えながら二人に透はあきれながら声をかける
「よし!今回の仕事も終了だ。お前ら、ただでさえ人手不足なんだから、さっさと現場の片付けとVIP向けのレポート作成に取り掛かれ。定時までに終わらせるぞ」
透の声でユラは仮面先輩を離して二人ともこちらに向いた
「えぇ!チーフ早すぎますってぇ!」
ユラはいつも通り面倒くさそうな声を上げる
「お前そう言って間に合わなくて前も仕事手伝っただろうが・・・あの時本部カンカンで大変だったんだぞ」
「チっ。わかりましたやればいいんでしょやればー」
舌打ちしやがったこいつ。
「リョウカイ。マカセテ、チーフ」
ユラとは対照的に、仮面先輩は優秀だ。
奪われたおやつの恨み言もそこそこに、彼女はブカブカの安全靴でパタパタと小気味よい足音を部屋に響かせる。
『オラッ、モブ共! お掃除ノ時間ダヨ! サッサト着替エテ現場ニ向カウ!』
廊下に待機させている下っ端の清掃スタッフたちに偉そうに号令をかけながら、仮面先輩は足早に出ていった。
(さすが先輩!仕事が早い!……よし、お菓子追加だな)
動き出した先輩を見てユラも渋々自分のデスクに戻ろうとしたが不意に透のほうを向きなおす
「あの子が次の新入りなんでしょ?透くん」
透は何も言わない
からかうような、底意地の悪そうな笑みを貼り付けたまま、ユラは自分の席へと歩いていく。ドーナツもパクリと食べていた
最近、晴れてこの第3支部の「チーフ」に昇格したばかりの透のデスクは、まだどこか真新しさが残っている。上からのプレッシャーと、次々に回される処刑ゲームの処理で、すでに書類の山ができ始めている。
(さて…ユラの言う通りあの少年がいいだろうな)
透は自分のデスクにある一つの書類に目を向ける
【第3支部・欠員補充に関する通達】
第3支部において、欠員がでたため1月のうちに人員を補充するように
多角的な観点から補充要員は、第2ゲームから選ぶことを強く推奨する
〈デスゲーム管理委員会本部より〉
俺は、仮面先輩に電話をかける。ワンコールで先輩は電話に出てくれた
『ン?チーフ?ドシタノ?』
「あー先輩?最後の部屋は、みんなで掃除しよう」
『…?リョーカイチーフ』
電話を切って透はディスプレイに移った少年・・・浅井 秋吾に目を向けた
読んでいただきありがとうございます!続きも書いていますので是非読んでいただければ幸いです




