第1話「神象」
本作に登場する組織・人物はすべて架空のものです。
私はいつもひとりだった。
友達は長続きせず、皆私の元から去っていく。嫌われたのかと思えば、普通に話してくれるので、そうではなさそうだ。
親戚の集まりでも、皆私に関心がない。忘れられているのかと思えば、時折話しかけてくれるので、そうではなさそうだ。
ただ、家族は私のことを見ていて、よく構ってくれた。当たり前のことだろうが、それでも私は嬉しかった。
しかし、小学4年生の頃だったろうか、もともと不調気味だった体調を本格的に崩してしまい、私は不登校になった。これをきっかけに、家族仲にヒビが入ったと思う。
父からは「早く学校に行けるようになれ」という圧を感じ、母からは「丈夫に産んであげられなくて申し訳ない」という圧を感じた。父の言い分は最もだと思う。しかし、なかなか体調が気持ちについてこない。母の謝罪は心が痛んだ。あなたが悪いわけではないのに。体調をうまくコントロールできない私が悪いのだから。
私の早めの社会復帰を望む父。一方で、社会復帰よりも私の体調回復を重視する母。意見が合わなくなった両親はよく私のことで喧嘩をするようになった。
あの日もそうだった。自分の部屋で過ごしていると、下から両親の怒号が聞こえてくる。いつものことなのだが、気まずく感じるので、私は絵を描くことに専念した。心身共に健康な私。そして、理想の友達3人。みんなが楽しそうに遊んでいる絵。絵の中なら自由だ。創作の中なら私は何にでもなれる。そう思いながら鉛筆を走らせていた。
ふと窓に目を向ける。カーテンを開けていたから、夜空の星々がところどころ見える。
「そうだ。たまにはスケッチしてみよう。」
そう思い、スケッチブックを持って、窓に近づいた。すると、流れ星が流れた。かなり大きい。
(流れ星に祈ると願い事が叶う、これって本当なのかな。)
試しに私は祈った。
(健康な身体と仲の良い友達。健康な身体と仲の良い友達。健康な身体と仲の良い友達。)
これでいいのかと目を開くと、そこには真っ白な天井があった。母が泣きながら言う。
「なんで窓から飛び降りるような真似をしたの!」
した覚えがない。自分の身に何が起こったのか、さっぱり理解できなかった。いろいろ診察してもらったが、特に問題もなく、家に帰ることになった。
その出来事からしばらく経ち、私は小学6年生になった。さらに、このタイミングで転校。相変わらず不調気味な私の体調を考慮しての引っ越しらしい。
「坂本美咲と言います。身体が弱くて前の学校では不登校でしたが、1年という短い間でも皆さんと一緒にいろんなことを学んでいきたいと思っています。よろしくお願いします。」
転校生が珍しいのか、休み時間にいろんな人が話しかけてくれる。嬉しい。でも、長続きする子はいないんだろうなと思っていると、ヤンキー風の女の子が私の席にやってきた。みんなは一目散に立ち去ってしまい、私とその子だけになる。
「あんたが噂の転校生?」
非常に声が独特だった。例えるなら、萌え系アニメのいかにもぶりっ子系のキャラの声に近いだろう。びっくりしつつも私は答える。
「そうだよ。私は坂本美咲。よろしく。」
「……何にも言わないんだ。」
「声のことなら、ちょっとびっくりしたけど、特に何も思わないかな。」
「そうなんだ。そういう人は珍しいな。気に入った。あたし、馬場芽衣!よろしく!」
こうして友達ができた。彼女は今までの友達と違って、私から離れることはなかった。初めての経験だ。とても嬉しくなった私はいろんな話をした。彼女はどんなに拙い話でも笑顔で聞いてくれる。まるで私が夢見ていた理想の友達そのものだ。
さらに、彼女は私に新しい友達を紹介してくれた。前川大晴。中山藤太。彼らもまた彼女と同じく、私から離れるタイプではなかった。むしろかなり仲良くしてくれて、勉強会もしたし、憧れのカラオケにも誘ってくれた。みんなで勉強を教え合ったり、カラオケで合唱したりしたとき、私はとても興奮した。流れ星に祈ってみるものだと強く思った。スケッチブックを持っていたから効果が増したのかもしれない。
いつしかこの4人組がいつものメンバーになり、常に一緒に行動するようになった。しかも、次第に私の体調も回復してきて、毎日学校に行けるようにもなった。
とても楽しかった。私が思い描いていた学生生活そのものだった。過ごす時間が長くなると、自然とあだ名で呼び合うようになり、それに気づいた時は一人で大はしゃぎしたものだ。また、中学生になったら本格的にバンドを組もうという将来の約束もとても嬉しかった。
そして迎えた卒業の日。いつものメンバーは皆同じ中学に行くので寂しさはなく、あまり涙は出なかった。
卒業式が終わり、いつものように公園に集まったそのとき。
「見つけましたよ。」
声のする方を向くと、男性なのか女性なのかわからない人物がそこにいた。長髪で着物を着ている。人の良い笑顔をしているが、そこがむしろ不気味に思えて、私は他のみんなを守るように立ちはだかった。
「誰ですか。」
「そんなに警戒しないで。私はあなた方に警告をしに来たのです。」
胡散臭い。私は迷わず防犯ブザーの紐を引き抜いた。けれども、鳴らない。
「オレらに何の用?」
「動けるようにしとけよ。」
「あんたもね。」
尋常じゃない雰囲気に他の3人も応戦の構えをとる。
「結論から言うと、このままだとあなた方は死にます。」
「......映画みたいなこと言いますね。」
「私としてはそれを阻止したい。そこで、あなた方に提案があります。」
彼あるいは彼女は私たちを見つめ、微笑みながら言う。
「私のところへ来ませんか?」
急に何なんだこいつ。間違いなく不審者だ。気を引き締めなければ。油断すれば殺されるに違いない。暴れる心臓を押さえつけながら、私は睨みつけて答えた。
「行きません。」
「世の中には我々の考えの及ばない事象が存在します。」
「無視すんなよ!」
「根拠は?」
「根拠はありません。だって、我々の考えが及ばない事象ですから。それらの事象のことを我々は《神象》と呼んでいます。」
「しんしょう...」
「ええ。『神』の『現象』と書いて『神象』と読みます。」
「よくわからないんだけど...」
「それと私たちに何の関係が?」
「そこです。」
その男あるいは女はニヤリと笑う。
「あなた方は神の依代なのです。」
理解ができない。神の依代?そんな神聖な存在なわけがない。それならば、今までの体調不良はなんだったのか。なんだかイラついてきた。
「何言ってんの?オレたちはフツーの一般家庭で育ってるからそんなわけない。」
「自覚がないだけ。先程も言いましたが、このままだといずれあなた方も死にます。そうなりたくなければ、私のところへ来なさい。」
「あんたに何ができるの?」
「秘策があります。神の力を制御する、ね。」
「じゃあ、あなたも依代なんですか?」
「どうでしょうか。ですが、あなた方に力をもたらした《とある神》の歴代の依代のことはよぉく知っていますよ。この目で見てきたので、十分研究はできています。あとは実践だけ。」
彼あるいは彼女は私たちに近づいてくる。なぜか動けず、場の緊張感が高まる。
「気が変わったらこちらに来てください。待っていますから。」
私に名刺を手渡し、彼あるいは彼女は立ち去った。
名刺には、
『神象コントロールアカデミー
講師 ヒビキ』
と書いてあった。
防犯ブザーの音が鳴り響く。
「なんだったんだ......」
私たちが呆気にとられているうちに、周りの大人たちが音に反応して集まってくる。でも、私たちは何も説明できず、立ち尽くすばかりだった。
家に帰ってからも、手元にはあの不審者の名刺。捨てようにも捨てられず、結局机の引き出しの中にしまった。
一人で抱え込むには重いが、明日もみんなと会うんだ。そのときにまた話し合おう。




