3:東の町
・前回のあらすじです。
『大陸の東部を旅するユノが、とりあえず町をめざす』
○
たどりついた町は【エルドラン】といった。
門番はなく、かわりに近くのやぐらで警邏の兵士がみはりをつとめている。
いなかの宿町といった景色はどことなくたびれていた。
住民に活気がないのではない。笑い声やはなし声はするものの、健常ではないのだ。
「異教徒がまぎれこんでたって」
「いやあねえ……」
「近くには魔族どもも巣食っていたってよ」
空地や民家のひさしから、そんな町人の会話がきこえる。年のいったおじさんと、中年の女性ふたりだが、内容は処刑や駆逐にまつわるものだった。
ここはまだ土俗の信仰がある場所からはなれていた。しかし極東の地域に暗いユノに、そんな事情は知るよしもない。ビビアンという探し人が、もし彼らの排斥にあっていたらと心配になる。
(なんか。こんなはなしばかりだな)
点々とうつった町や村では、魔族や異教徒を対象にした狩りが盛んだった。
【竜神教】という、善なる神を唯一神としてあがめる一神教。
魔王死してなお魔物のはびこるこの世界において、かねてよりペンドラゴン王国に根づいていた竜への信仰は、途端にいきおいを強くした。
いまの国内における残党について、教会は【異端者】の仕業であると喧伝し、信者を煽動した大規模な【異端狩り】がおこなわれているのだ。
それに対して、多くの人がなんの疑問も持っていない。
(まえにセレンさんの言ってた、人が自分から破滅に向かうって。こういうことなのかな?)
魔界にて。ユノが滅ぼした魔王【ディアボロス】は、『悪』のちからの支柱だった。
黄金の竜のつかさどる『善』のちからと対をなすこの作用は、その担い手を失ったことでやがて善の圧力に排除される。
もっとも。両者の均衡を保つためか。ある少女に魔王の後継が憑依し、偉大なる魔法使いのもと、着々とちからをつけつつあるのだが。
町人たちが気味わるく、ユノは声をかけるのをためらった。
冒険者ギルドに魔石の換金へいくか。宿をさがすか。
思案して、後者を選ぶ。
路銀にはまだよゆうがあった。