86話 試験結果の確認ですよ
快適な拠点を手に入れると1日の始まりも違う感じ。
お風呂もアリサと一緒に好きなだけ入ることができるし、好きな時間に入ることもできる。
料理だって周囲を気にせず作れるし、場所を譲る必要もないから自分のペースで作ることもできる。
なにより尻尾を隠さなくていい! ほんとこれ超重要。寮だと念のため寝る時も尻尾隠してたからなぁ。
隠したまま寝ると、翌日すっごく怠くなるんだよねぇ。それがないのはほんと素晴らしい。
そんなことを考えてたらエレンたちも登校してきた。
うむ、ノエルがしっかりメイドとして働いてる感じでよしよし。ドジっ子だからちょっと心配だけど、大丈夫そうだね。
エレンへの手紙もちゃんとブロックし……って、あれ~?
「ねぇアリサ、ノエルが今受け取ってるのって」
「間違いないですね。あれはエレン様への手紙でなく、ノエルに対してのですね」
やっぱりそうかぁ。こうなる予想もしてたけど、まさかノエル登校の初日からだとは思わなかったよ……。
確かにノエルも美少女だからなぁ。しかも遠目でもわかる質の良いメイド服を着てるから、そりゃぁ気にならない人のほうが少ないよね。
あまりにも酷くなったら対策するけど、しばらくは見守るだけにしておこう。対応できるようになるのもメイド技能の一つだよ。
全員揃ったところで昨日の試験の結果を確認しに行く。まずは機工科からだけど、結果はわかりきってるんだよなぁ。
筆記問題は既知の内容ばかりだったので、ミスに注意して完璧な答えを書いた。
工作も他の生徒とは比べ物にならないほどの完成度を誇った。
たぶん筆記は満点、工作も優秀以上の判定だと思うから、合格していない可能性が皆無。もしも不合格だったら学園に抗議しちゃうわ。
そんな予想をしながら機工科に到着。
あら、受験みたいに試験結果は張り出されないようね。受験者ごとに答案を返却、そこに合否結果も書かれるみたい。
わたしたちの答案もアリサがもらってきてくれた。それではわかりきってるけど確認ですね~。
「えーっとなになに、工作は優秀の評価だね。優秀が一番高いみたいだから予想通りではあるね」
「ですわね。細部までこだわりましたもの」
この判定にみんな納得。
そりゃねぇ、周りがドン引きするくらいの物を目指して作ったからねぇ。
それじゃ筆記はっと……へ? どういうこと?
「100点中90点……なんで?」
「何か記述を間違えたのでは?」
「それは無いと思うんだけどなぁ、ちゃんと見直しもしたから」
わたしだけでなくアリサとレイジも確認したから、解答で間違ってる箇所があるとは思えないんだよなぁ。
う~ん、どういうことなんだろ。
「ここだね。ユキ様が僕たちにも説明してくれた理論が減点されているよ」
「えーっと『核融合炉』って書いたとこかぁ。魔力に頼らない巨大な力を生み出す例を挙げるだけだったから、ぱっと思い出した物を書いたんだけどなぁ」
太陽フレアを使うとか、ブラックホールを封じ込めるとか、魔法や術、精霊に頼らない方法はいくらでもある。それが安全かどうかは置いといてだけど。
核融合炉もそういった力の一つ。
前世だと理論や実験段階で止まってたり、アニメでしか存在しない架空の物だったけど、この世界なら実際に作ることが可能。
というか、ママ様と一緒に作ったし。
魔力や精霊力を使った炉のほうが安定するし、高出力なのはわかっている。だけど、知識があったら試しに作ってみたいと思うのが研究者の性なわけで。
まぁ核融合炉はわざわざ使うような物じゃなかったけど、魔力と精霊力に置き換えた新型融合炉の開発のネタにはなったからよし。
「ん~、わたしとママ様が作った時の理論を書いてるから間違いはないんだけど、なんで実現不可能っていう判定なんだろ」
「たぶんですけど、講師の方よりお嬢様のほうが上だからでは?」
「かなぁ。でもさぁ、理論と説明をわかりやすく書いてるのに不可能って判定されるのって、なんか納得いかないんだけど」
わたしが書いた内容を精査すれば、実現可能な理論なのがわかるはずだし。
それに、わたしとママ様が実際に作った核融合炉だけど、現物が科学方面の学会で保管されてる状態。使い道がなくとも資料にはなるからだね。
なので、理論が分からなくとも学会に問い合わせれば実現可能か判断できるのに、ここの講師は問い合わせてないってことになる。それって教える側の姿勢としてはどうなんだろ?
「……わたし、ここの学科受けたくない」
「ですわね。聞く限り、わたくしもこの採点には納得いきませんもの」
「んじゃこの学科は無しで。合格したら必ず受けなきゃいけないわけじゃないし」
最初は期待してたんだけどなぁ。
機械だけでなくプログラミングまで教えてくれるあたり、新しい発見あるかもってちょっとワクワクしてたのに。
これだと精霊科も大したことなさそうだなぁ、レグラスより精霊関係が詳しい国って無いわけだし。
はぁ、なんか退学したくなってきたよ……。
ちょっと意気消沈しながら精霊科まで来た。
思ってた以上にがっかりしてたのか、道中みんなが心配してきたし。わたしってそんなに感情出やすいのかなぁ。
とりあえずアリサに答案をもらってきてもらう。こっちも完璧に書いたけど機工科がアレだったしなぁ。ちょっと憂鬱。
「お嬢様、答案をもらうだけのはずが、なぜか別室で待機するように言われました。どうなさいますか?」
「なんでだろ? まぁ時間もあるし待ってみようか」
何か苦情になるようなこと書いたかな?
もしもここでいろいろ言われたら、お母様に相談してこの学園からすぐに退学させてもらおうかな。気分が悪くなる学園で生活するとかほんと嫌だから。
待つこと数分、ノックとともに先生が入ってくる。
へー、エルフの女性が先生なんだね。って、あれ?
「なんでフローラさんがここにいるの?」
「こうして挨拶をするのは初めてだね。私はフローラの妹のフルーレっていうの、よろしくね」
「妹さん? フローラさんとそっくりでちょっとびっくり」
ルアスで受付嬢をしているフローラさんと瓜二つ、違うのは髪型くらいかな? フローラさんは長い髪を三つ編み1本にしてるけど、フルーレ先生は2本だね。
それに性格も違うかな? フローラさんは丁寧な大人の女性って感じだけど、フルーレ先生はちょっと子供っぽい友達感覚に近そう。
「みんなのことは姉さんからいろいろ聞いてるわ。この学園に入学したのは知ってたけど、私の学科を受験してくれるとは思わなかったわ。むしろ、どうやって受験してもらおうか考えてたくらいだもの」
「ということは、フルーレ先生が精霊科の講師なんですか?」
「そうよ。といっても私が担当するのは特定の子たちだけ。簡単に言っちゃうと、他の子よりも才能にあふれた見込みのある子だけね」
すごくなっとく。
レグラスと比べて他国は精霊に関する知識が疎いので、精霊関係の授業がとても魅力的に映る。この学園でも同じようで、魅力的なので受けたい人が多いみたい。
そこにフルーレ先生というエルフの講師までついちゃうってことだからね。凄い美人だし、授業受けたいって人がいっぱいなのは容易に想像できる。
でも希望者全員を相手したらキャパオーバー、何より他の先生に申し訳ない形になる。だから授業を受けられる人を選んでるってわけと。
はて、ということはもしかして
「わたくしたちはフルーレ先生の授業を受けることができるのですか?」
「正解よ! みんなの家柄とか、姉さんの知り合いだからとかそういうのは関係なく、純粋に試験結果からの判断ね。精霊を友達として接するところとか、私の考えと同じでうれしかったわ」
そういってフルーレ先生が私たちの答案を返してくれる。すっごいニコニコしてるし、ちょっと期待できる結果なのかも。
「あら? これってどういうことですの?」
「100点中200点ですか。お嬢様の知能は限界を超えるのですね」
「その考えはどうなのよ……」
アリサのよいしょは置いといて、エレンが疑問の思うのはもっともだわ。
でも答案結果をよく見ると納得かな。採点外だと思っていた精霊術に関する箇所に花丸してあるね。他にもいくつか花丸があるし、限界突破はそういうことね。
「まだ悩んでるなら、体験で何回か授業受けてから決めてもいいよ」
「ん~、わたしはフルーレ先生の授業受けてみたいなぁって思うんだけど」
「ユキさんがそういうなら間違いないですわね。わたくしも異存ありませんわ」
「精霊関係は僕たちよりユキ様の判断が一番正しいからね」
レイジが頷きながらそんなこと言うけど、まぁ確かにね。わたし以上に精霊関係が詳しい人って、お母様みたいな本当にすっごい人だけだからなぁ。
そもそも試験内容を見る限り、精霊以外に関しても問題なさそうなんだよね。むしろ唯一の不安材料が精霊関係だったというか。
何よりフローラさんの妹ってのが大きく、すっごい安心感がある。
精霊科も外れかなって思ってたけど、これは大当たりを引いたみたいだね!




