65話 戦いの後始末ですか
はふぅ、ほんとギリギリだった。
もしもエレンが耐えきっていたら、間違いなくわたしの負けだったわ。
『さすがアタシ達のお嬢だな!』
『ですわ! ワタシ達の力を完全に使いこなしましたわ』
『うんうん! しかもボクたちのために頑張ってくれたもんね!』
『ありがと、ユキちゃん。それにおつかれさま』
『全力で使っていただいたので、我ら自身の力もさらに活性化しましたし』
『これで妾たちもさらにユキの力になれるの。ほんとよくやったわ!』
お、おう、なんかすっごい上機嫌だね。まぁわたしもみんなの力をちゃんと使えて嬉しいからいいんだけど。
『ではユキ様、そろそろ精霊神衣は解除させていただきますね。お疲れ様でした』
ほーい、みんなありがとね~。
精霊神衣が解除され、元の普通のドレスに戻ったわ。月華の維持もきついのでこれも送還してっと、ホント疲れたぁ。
って、エレン大丈夫かな?
「う~、完敗でしたわぁ」
そう言って衣服を整えてエレンが歩いてくる。
直撃したのにもう歩ける状態とか、ほんとタフというかなんというか。
「ギリギリだったけどね~。精霊神衣だから何とかなったけど、天衣の状態だと負けてた気がするかなぁ」
「あら、それはそれで興味ありますわ! それにしてもわたくし、すっごく嬉しいですわ。だって同世代で同じような力を持つ子が目の前に居るのですもの」
にこやかにエレンがそういうけど、すっごいわかるわぁ。
自他共に認めるほどわたしたちって化け物な力を持っているからね。同世代で同じ化け物って今までいなかったからなおさらだよねぇ。
カイルとかも強いけど、わたしたちとは大きな差がある。もしかしたらレイジとの差も結構あるのかな?
わたしたちってほんと異常だからなぁ、あくまで近い年代の人限定でだけど。
お母様みたいに、戦っても絶対に敵わない相手なんてこの世界には腐るほどいるから、化け物ではあるけど世界の異常って存在にならないのは救いかな。
「でもほんと疲れたぁ、甘いもの食べたい」
「ですわねぇ。それでは戻りましょうか」
「だね。それじゃ移動し、うわっ!?」
疲れすぎて索敵が甘くなったのか、切りかかってくるオッサンへの対応が遅れちゃった。
でも
「いい加減にしなさい。私もそろそろ限界、これ以上ユキちゃんの命を狙うならこの場で殺すわよ」
一瞬でお母様が間に入り、おっさんを地面に叩き付け、頭を踏みつけている。転移して来たとは思うんだけど、全然見えなかったよ。
とゆーか、お母様がすごい殺気を放ってる。これは完全にキレてるね……。
むぅ、お母様に精霊神衣使えたことをほめてもらいたいのに、とんだ邪魔が入った感じだわ。
「くそぅ、娘が、娘こそ最強なのだ! 娘より強い者なんて!」
「……ホントくだらない。ローガン、ここでこのゴミを始末するけど、問題ないわよね?」
うわぁ、お母様がここまでキレてるの、初めて見たわ。
お母様がキレるところは何度か見たことあるけど、ここまでの状態は一回も無かったよ。
でもなぁ、お母様がキレる原因はいつも家族のためなんだよね。
だからかな、今回もわたしのことでキレてるからか、不謹慎だけどちょっと嬉しくなっちゃう。だってそれだけ大切に思ってくれてるってことだもんね!
「すまぬがそれだけは勘弁してくれないか。こんなのでもエレンの父親じゃ、亡き者にするというのは避けたい」
お爺さんがこっちに来るなりお母様に頭を下げてきた。
確かにこんなのでもエレンのお父さんだしねぇ、殺しちゃまずいよね。
なのにそのエレンが
「いいえお爺様、このような無礼は死んで詫びるべきですわ! サユリ様、わたくしのことは気にせずにやってくださいまし!」
エレンまでこのオッサンを虫けらを見るような眼をしながらこれだよ。親子の絆とかも無さそうだね……。うちとはえらい違いで、何と言うか言葉にできません。
「エレンちゃんが良いとは言ったけど、まぁローガンが言うのも一理あるのと、すごく必死だから今回は見逃すわ」
「恩に着る。本当にすまなかった」
お爺さんが土下座する勢いで必死に訴えたからか、結局お母様が折れたね。踏みつけたままだけど。
しかもこのオッサン、懲りてないのかまだ何か喋ろうとするし。そのたびにお母様が思いっきり踏みつけてるとか、コントですか? もしかしたら踏みすぎて死ぬんじゃないかな……。
「それにしてもユキちゃん、さっきの戦いだけどお母さんはすごく嬉しいわ! だって私の期待通り、ちゃんと精霊神衣も扱えたのだから。さすが私の自慢の娘ね!」
「えへへ~」
お母様がニコニコしながら撫でてくれる、ほんと幸せですねぇ、はふぅ。
どうやらわたしが精霊神衣を使えるようになること、すっごく期待してたみたい。達成できてほんと良かったなぁ。
「エレンちゃんもすごいわねぇ。この環境で育ったのにユキちゃんと互角ですもの、将来が楽しみね!」
「あ、ありがとうございましゅ」
おやおや、お母様に撫でられてエレンもすごい嬉しそうだね。お母様にすっごい憧れてるようだから無理もないか。
「というわけでローガン、分かったかしら? 私がユキちゃんを溺愛してる理由が」
「なんとなくじゃが、貴様の力を全て継承しており、それを自力で開花させているということかの?」
「それもあるけど、私が溺愛するのはもっと別な事よ。ユキちゃんが強くなりたい理由が可愛いのよ。私の娘だということを自慢したい、精霊神のために頑張りたい、友達を守るために強くなりたい、とかなの。ね、可愛いでしょ」
お母様、そうきっぱり言われると、ちょっと恥ずかしいのですが。結構わがままな理由で強くなりたい気もするから、余計に、その。
「わしら竜族とは違うのう。一族の誇りのため、力を世界に知らしめるため、己の存在意義のためじゃからのう」
「それは別に否定しないわ。エレンちゃんの理由は違うかもしれないけど、昔の竜族にはその理由だけで強くなった子もいたから」
「そうじゃな。さて、そろそろ会場へ戻るとするかの」
「その前に、一つだけいいかしら」
おや? またお母様がちょっとピリッとした感じに。
ん~、もしかしてスタンピードのことかな?
「あらユキちゃん、正解よ。さすが私の娘ね!」
「あぅ、嬉しいですけど、なんで心読まれるんだろう?」
「それはユキちゃんのお母さんだからよ!」
「あ、はい、そうですね」
お姉様と同じですか! お姉様も頷いてるからマジっぽいし、どんな特殊能力なのよ……。
「それでローガン、このゴミがスタンピード起こそうとしてるのだけど。というか起きる直前かしら?」
「な、なんということじゃ……。ほんとにこの馬鹿息子が!」
「あなたが気にしないなら、うちのリョウ君がすぐに片付けてくるわよ。1分もあれば終わるわ」
「娘もとんでもないが、息子もとんでもないのう」
お爺さん、すっごい苦笑いしてる。でもわかるよーその気持ち。
しかもお兄様はわたしよりも圧倒的に強いからね! それにわたしと違って術札無しでも術使えるんだよね、ほんとすごいなぁ。
「すまぬが頼めるか。無関係な者を巻き込むのは度が過ぎておるからの」
「いいわ、そのかわり素材は貰うわね。リョウ君、許可が出たからお願いね」
「了解です母上。それじゃ行ってきます」
そういうとお兄様、サクッと転移して向かっちゃったよ。
術札無しで発動できるの、ほんといいなぁ。術式展開の詠唱すら要らないから隙は皆無だし、何よりカッコイイ! わたしもできるようにもっと頑張らないと!
「それとローガン、せっかくだから来年のユキちゃんの留学まで、エレンちゃんをうちで預かるわ」
「な、なんじゃと!?」
「エレンちゃんの入学も来年でしょ? なら時間はあるはずよね」
お母様が不敵な笑みをしながらそう言ってるけど、これは間違いなくエレンを気に入ったからだね。アリサと同じように、お母様好みの感じに鍛えようってことだなぁ。わたしとしても悪い事じゃないけど。
そういえばこの世界の学校って何歳からとか決められてないんだよね。在籍期間も学校ごとに違うんだっけ。
これはいろんな種族がいるのと、冒険者を卒業した後に学ぶ人もいるからだったかな。貴族とかは小さい頃に入学するって聞いた記憶、わたしもそういうことかな?
「もっと強くなった方がいいでしょ? それにレイジ君だっけ、彼もちょっと興味あるわ。エレンちゃんの従者だし、彼もいっしょに面倒見るわ」
「その申し出は嬉しいのじゃが、その、良いのか?」
「構わないわ。それに月に一度はタヌ蔵がうちに来るから、あなたもその時に来ればいいわ。エレンちゃんに会えないのも可哀そうだからね」
「心から感謝する。貴様には迷惑をかけるが、よろしく頼む」
……え? レイジも、ですか? ぜーーーったいにあいつ、とんでもなく強くなるよ?
あー、わかったわ、これはアリサのやる気をさらに上げるためだね。同じ従者として切磋琢磨させるとかそんな感じじゃないかな?
それにアリサが強くなればわたしが安全、レイジが強くなればエレンが安全になるからね。
「母上、戻りました。こちらが素材の一覧です」
「お帰りなさい。あら、エンシェント級もいたのね。それじゃ素材はタツミさんに渡しておいてね」
1分くらいでお兄様が帰って着たけど、エンシェント級もいたのかぁ。あとでわたしも素材見せてもらおーっと。
「ほんとに貴様の家族はとんでもないのう。スタンピードの制圧など、普通は国単位で対応するものじゃろうに」
「そうかしら? ユキちゃんも一人で何度も制圧してるわよね~」
「してま~す」
「……やはり貴様たちとは敵対するべきじゃないの、本当に」
最初見たときの威勢は幻だったのかってくらい意気消沈してるね。いろいろあったからしょうがないとは思うけど。
まぁ何はともあれ、これでお披露目問題は終わりだよね。
早く帰って甘いものが食べたいです!
ちなみにオッサンは最後まで踏まれたままです(一応生きてます)




