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62話 全力って半端ない

「さすがにここまで互角とは、恐れ入ったわぁ」

「わたくしもですわ。ですが、すっごくうれしいですわ。あのサユリ様の娘であるユキさんとここまで並べるなんて」


 笑顔でそう語ってくるとは、お母様にすっごい憧れてるんだねぇ。気持ちはわかるけど。

 しっかし、何十発も撃ち合ったのにほんとケロッとしてるなぁ。このままだと魔力の総量で勝負が決まりそうだけど、どうするかな。


「ねぇユキさん、わたくしの全力、受けていただけますか?」

「何かとっておきでもあるみたいだね。いいよー」

「さすがですわ。うふふ、ちょっとドキドキしてしまいますわ」


 すごい嬉しそうな顔してるねぇ。しかし何をするんだろ、天衣みたいな装備を顕現させるのかな? だとしたら多少は予想できるんだけど。


「それでは、変化、天竜!」


 天竜? 赤青黄緑白黒以外の竜族ってこと?

 え? ちょ、マジ!? エレンの魔力が何倍にも膨れ上がり続けてる。しかも10倍どころか100倍、いやもっとなの? なんか規模がおかしくなってきた……。


 そして髪は桜色、角と尻尾もちょっと赤みが強い桜色に変化した。いやいやまって、桜色の竜族なんて聞いたこと無いんだけど。


「これがわたくしの全力、天竜形態ですわ! そしてさらに、目覚めなさい、天竜装!」


 するとドレスも変化して、桜色をベースにした明るい感じのドレスに。

 ドラグーンもさっきまでの黒色ではなく、クリスタルのように透き通った状態になっている。

 しかもイヤリングやネックレスに使われている宝石まで、巨大な魔力を込めたとんでもない宝石に変化している。

 さらに胸元には、大きな桜色の宝石が新たに顕現しているね。


 ふーむ、おそらく宝石には各竜族の力が込めてあるね。桜色のは天竜という竜族の属性が込められているってことかな。

 これは見た目が豪華になっただけじゃなく、ちょっとヤバいくらいの性能を持った防具に変化したとみるべきか。


 しっかしこの魔力量、わたしの全力状態を軽く超えてるんじゃ……。


「お待たせしましたわ。この状態ですと強すぎて、レイジでも1分もたないのです。でもユキさんならきっと、うふふ」

「マジかぁ。しかし、うーん、そうなるとこっちも天衣を……」


 あ、だめだ、さっきお母様と約束したんだ、外で天衣は使っちゃダメって。

 困った、ほんとーに困った。


 でもでも、もしかしたらわたしも結構強くなったし、何とかなる可能性も?

 よし、まずは試してみましょー。


「では、いきますわ!」


 え? 構えたと思ったら一瞬で距離を詰められた!? 冗談じゃない、全然見えなかったんだけど!

 ともかく回避を


「がらあき、ですわ!」


 ドラグーンの薙ぎ払いが来る。ちょっ、速すぎなんですが!?

 回避は無理、耐えるしかないって、こんなの耐えることできるの?


 ともかく直撃はヤバいから、月華を強引に割り込ませて受け止める。

 だけど


「ぐっは」


 ぎりぎり直撃は免れたけど、思いっきり吹っ飛ばされて訓練場の結界の壁に叩き付けられた。


 うぅ、すっごい痛い。骨は折れてないけど、麻痺したのか手の感覚が鈍い。

 それに当たった瞬間の衝撃もすさまじく、肺の空気が全部吐き出されるどころか、口から内臓が出るんじゃないかってくらいヤバかったんだけど。


 しかもたった一撃で魔衣がぼろぼろになり、辛うじて見た目だけ維持できてるような状態。ほんととんでもないわ……。


「すごいですわ! 全力の一撃を受けても立っていられるとか、さすがですわ!」

「け、結構きついんだけど。力の差がありすぎるわ……」


 わたしよりも圧倒的に強いんじゃないかな……。天衣装備の分体でもここまでならないのに、とんでもない子だよ。


 だけど!


「月華、麒麟! 月華、神雷開放!」


 雷を纏わせながら背後に回り込み、そして切る!

 お返しに油断してそうなところを狙ったのに


「うふふ、今の一撃もほんと凄いですわ。とっさに守らなければ、わたくしも切られていたところですわ」

「くっそぅ、これすら簡単に防いじゃうとか」


 体を動かすことなく、ドラグーンを背中に回して簡単に防がれたよ。しかもかち合った時すごい音がしたのに微動だにしないし。

 だったら手数で攻める! いったん距離を取って……


「あまいですわ!」

「なっ!? 距離が取れない!?」


 わたしの動きは完全に見えてるってこと? 全力で下がったのに一瞬で接近され、って、これってやばいぃぃぃぃぃぃぃ


「もう一度吹き飛ばしますわ! 術技、烈破!」

「くっ、術技、烈震十六連! 烈破十六連!」


 苦し紛れに術技を当て相殺しようとしたけど、無理! たった一発の烈破で完全に消滅したよ。

 しかも相殺できず、衝撃はそのまま襲ってきてまた吹っ飛ばされる。


「がはっ!?」

「あら、ちょっと力を入れすぎましたわ。大丈夫ですの?」


 さっきよりも思いっきり叩きつけられた。

 それに今のはかなりやばかった。こっちの術技で多少は削れたけど、受けたダメージが大きすぎる。

 しかも削らなければ今頃、意識を完全に失っていたくらいの威力だし。ほんとすごいわ……。





 月華を支えにすることで何とか立てたけど、だめだ、膝が笑ってる。

 外傷はぱっと見ないけれど、体中に張り巡らしていた魔力のほとんど吹き飛ばされている。肉体でなく魔力の方にダメージを与えるとか、わたしのような魔力主体の種族専用の攻撃まで持っているってことですか。


 でもこのままじゃ終われない!

 足に魔力を集中させ、もう一度戦える状態にする。


 そして


「術技、烈空十六連!」


 移動しながら何度も術技を放つ。少しでも時間を稼いで、何か策を練らないと。


「まだそこまで動けるとは、ほんと凄いですわぁ。ならばわたくしもお応えしますわ! 術技、烈空!」


 いやいやほんとマジですか!? こっちは烈空の十六連を二刀で撃ってるのに、それを一発の烈空で切り裂くとか。

 ぎりぎり貫通はしてないけど、力の差が笑えないくらい大きい。


 さてさてどうする。

 このまま何度も繰り返して隙を作る? いっそのこと天衣を使っちゃう?

 そうだよ、エレンも天衣に近いものを装備してるし、使っても問題ないはず。同条件にするために使ったって言えば、たぶん怒られない。


 そうと決まれば天衣を……やっぱダメ。お母様と約束したからダメ。約束破るくらいなら死に物狂いで抗ってから潔く負けるわ、負けたくないけど。

 でもほんとどうしよ。この戦力差はどうにもできない、逆転できるような秘策もない。


 戦いながら周囲をみると、うん、お姉様だけでなくお兄様やシズクさん、そしてアリサが心配そうな顔になってる。

 ここまでわたしが追い込まれるとか、珍しいどころか初めてだよね。うちの人以外の相手でこんなになるとか、今まで一度もなかったし。


 でも、お母様だけは違う。

 あの目はわたしに何かを期待してるのと、絶対にわたしが負けないことを確信してる感じ。


 どういうこと? 天衣が使えない状態で、それ以上の力なんて……。





 何か引っかかる。天衣以外にも何かあったような、何だったかな。


 そういえば天衣覚えたとき、お母様はなんて言ってたっけ。

 たしかあの時……


『お母様できました!』

『さすがユキちゃん、1回で成功するとか、ほんと私の娘は天才ね!』

『えへへ~。でもこれが天魔用の防具みたいなものなんですね、魔衣よりもすっごい強いです』

『そうよ、普通の天魔用の最強防具と言っていいわ。同じ系統に真魔装や天竜装というのもあるけど、基本は同じなの。術装と対を成す、巨大な魔力でできた防具って認識でいいわよ』


 そう、『普通の天魔』って聞いたときに少し引っかかったんだよね。

 なので


『ねーねーお母様、普通の天魔ってことは、普通じゃない天魔の人もいるのですか?』

『ふふっ、さすがユキちゃんね。そうよ、私たちのような存在は普通とはちょっと違うのよ』


 わたしとお母様は半分精霊だからか、天魔に進化した他の狐族とは性質が違うんだっけ。


『普通と違うということは、天衣が最善というわけじゃないの。そこで問題、精霊さんの防具は何でしょうか』

『精霊さんだから、精霊衣でしょうか?』

『せいか~い。ちなみに精霊神になると精霊神衣というちょっとすごいのになるの。天衣は魔力を、精霊神衣は精霊力を強化するのよ』

『ほえー、精霊神の精霊力まで強化できちゃうんですか』

『そしてユキちゃん、私たちは半分精霊って言ったの覚えているわよね。ということは――』


 あぁそっか、わたしにはまだあるじゃない、とっておきが。

 使ったことは一度もないけど、やり方は教えてもらった。でもできるのかな……

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