61話 狐と竜の力比べの裏で
少し長いです
それと今回はアリサの視点になります
「なぜじゃ! なぜあの娘はここまで戦えるのじゃ!」
ローガン様がお嬢様の戦う姿を見て相当焦っています。
対するサユリ様たちは平然としていますね。この程度はお嬢様ならできて当然という感じでしょうか? 私はハラハラしっぱなしですが。
先ほどの切りあいから、今度はお嬢様とエレン様が互いに巨大な力の塊をぶつけあっています。そのせいで周囲の空間が不安定になり、細かい時空の亀裂さえ生まれている状態ですね。
このような状況、お嬢様が怪我をされないか心配でなりません。
「ローガン、少しは落ち着いたら? ユキちゃんとエレンちゃんは今のところ互角、それに同じような力を持っているってだけじゃない」
「ありえん! エレンはただの竜族ではない、全竜族の力をもって生まれたのだぞ!」
なるほど、エレン様は凄い方なのですね。少し言い方が悪いですが、竜族の集大成といった感じでしょうか。
「だけどがっかりだわ。ローガン、あなたの息子がエレンちゃんの教育に口を挟まなければ、今頃もっと強くなっていたのよ。それこそ今のユキちゃん以上にね」
「どういうことじゃ? 貴様の口ぶりだと、まるであの娘は全力でないような言い方じゃないか」
「えぇそう言ってるの。今のユキちゃんは本来の力とは程遠く、1割の力もないかしら」
え!? 1割って、確かお嬢様は……。
「あ、あのサユリ様。口を挟んでしまい申し訳ないのですが、お嬢様は以前3割と言っていたのですが……」
「あぁそれはね、ユキちゃんがすっごい成長したからよ。今の力はアリサちゃんが最初に会った時の10割、つまり1年で10倍以上強くなっているの。だけど魔石が完治する前に強くなっちゃったから、治るまでの時間がさらに伸びちゃっているのよねぇ」
お嬢様、ほんととんでもない人ですね……。しかも魔石は完治していない弱体化状態なのに以前の力を取り戻しているとか、すごすぎですよ。
「馬鹿な!? この10倍以上の力があるじゃと? しかもそれがたった1年で成長したなどと、信じられるか!」
「でも事実よ。魔石をあげたことでアリサちゃんが負い目を感じないように、以前よりもすっごい頑張っているからね」
「そ、そうなのですか」
私のため、ですか。うれしいのですけど、少し恥ずかしいです。
ほんとお優しい方ですよね、お嬢様って。
「じゃ、じゃがそんな思いだけで」
「そうよ。だからあの子、一人での修行時は自分の分体と全力で戦ってるの。しかも分体の方は天衣、ローガンに分かり易く言うならば天竜装ね、それを顕現させた状態で相手にしてるの。対するユキちゃんは魔衣すら無しでね」
「ありえん……その様な馬鹿な修行をする者など」
「この方法は私が幼い頃やってたわ。当時の私には対等の修行相手がほとんど居なかったから苦肉の策ね。ユキちゃんはそれを去年から、しかも通常の修行に追加する形で行っているのよ」
サユリ様はにこやかに、対するローガン様は少し震えていますね。想像を超えた修行をしていたことに、強い衝撃を受けたのでしょうか。。
ですが、そのお嬢様と対等なエレン様も相当すごい存在になるのですが。どのような修行をされていたのか、少し気になりますね。
『はふぅ、対消滅されるとは思わなかったわ』
『今のはぎりぎりでしたわ。でも、まだまだですわよね?』
『もちろん! 連続でいっくよー』
『全力でお相手しますわ!』
お嬢様たちの撃ち合いが終わるどころか、さらに激しくなっています。さっきの一撃で終わらないのですね……。
しかも互いに属性を変えながら何度も繰り返してます。巨大な力を使った後なのを感じない、むしろ繰り返すたびにどんどん威力が増しています。お二人とも、本当にお強いです。
「ところでローガン、あなたの息子なのだけど」
「なんじゃ?」
お嬢様たちの戦いを見ながら、サユリ様が少し苛立った顔でローガン様に話しかけています。息子ということはバートン様のことですね、何かあったのでしょうか?
「ユキちゃんの命を狙うのは諦めるように言いなさい。さっきからくだらない動きをして、何度もリョウ君が妨害の術式を発動させているのだから」
「馬鹿な!? たしかにわしも貴様が気に食わないし、娘も気に食わん。だがこれはあくまで決闘、娘たちの戦いじゃ。そこに外部が介入などあってはならぬ!」
「でもあなたの息子はやってるわよ。そうね、リョウ君、次の攻撃は阻止しなくていいわ」
お嬢様のお命が狙われるのは予想通りだったのですが、ローガン様は関係ないのでしょうか。
しかし、バートン様はどのような方法でお命を、って、あぁなるほど、お嬢様が構え直すタイミングを狙っての攻撃ですか。
毒針のような物を魔法で射出したように見えましたが、お嬢様は難なく弾いてますね。しかもバートン様を睨んでいますし、バレバレですね。
「そ、そんな、あの馬鹿、何をやっておるのじゃ……」
「あなたの息子はちょっと異常かもね。というかローガン、あなたのせいよ?」
「なんじゃと!? わしは我が一族が優秀だということを知らしめるため、」
「あーはいはい、そういうのはいいから」
なんでしょう、ローガン様は必死なのですが、サユリ様はすごい呆れてます。
「ローガン、あなたまだ引きずっているんでしょ? 昔、私に振られたことが」
『えっ!?』
私だけでなく、他の方たちもつい声をあげてしまいました。だって、その、ですよ?
「な、な、な、それをいうのではないわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「はいはい。確かなんだったかしら『俺のほうが強い! そして強い俺こそお前のような女の夫にふさわしい』とか言ってきたかしら」
「ま、まて、それ以上は」
「でも私が全然相手しないでいたら、ある日の夜、寝込みを襲ってきたんだったかしら。当然追い払うために全力を出したけど、そのせいで魔石に致命傷を負ったとか、笑えないわねぇ」
「わしが悪かった、本当に反省している。だからそれ以上は、たのむ」
ローガン様が土下座をされました……。
なんというか、その、何なのでしょうね。もしかしてお嬢様よりもエレン様の方が強いと主張したいのも……。
「どうせローガン、自分の家族がユキちゃんよりも強ければ、なぜか私の気が引けるとか馬鹿なこと考えたんでしょ? 次代世界最強の長の肩書で私が釣れると思ったとか、相変わらずお子様な考えね」
「そ、そんなことはないぞ!」
「言い訳はみっともないからよしなさい。きっぱり諦めたと思っていたのに、ほんと未練が凄いわねぇ。エレンちゃんが生まれたことで再燃したのかしら」
「う、うるさい! 貴様がいけないんじゃ! 幼き頃からそのような美貌と色気を持ちおって、どれだけの男が貴様に恋い焦がれ、そして散ったと思うのじゃ!」
ローガン様は威厳もなく熱弁していますが、正直ちょっとドン引きです……。
そもそも今のサユリ様は人妻ですよ、何を考えているのやら。
「まぁそれはどうでもいいけど、あなたがいつまでもウジウジして世界最強の一族になろうとしてたのが裏目に出たわね。あの息子は世界最強になることに相当拘ってるわよ」
「もしや今回、貴様の娘との戦いを望んだのは」
サユリ様が恐ろしいほどの殺気を出されてます。もしもお嬢様がもう一度攻撃されたら、間違いなくバートン様を殺めに行くほどですね……。だいぶお怒りのようですし。
「初めからユキちゃんを亡き者にするためよ。エレンちゃんと同じような存在だと知ったせいで歯止めが効かなくなったんでしょ。エレンちゃんよりも強くなる可能性がある者を排除、っていうバカな思考をしているせいね」
「あの馬鹿者が! わしも愚かだが、それ以上に彼奴は」
「救えないわね。アレをどうするかはローガン、あなたに任せるわ。ただ、エレンちゃんはあの男とその息子たちからは遠ざけなさい」
「どういうことじゃ? バートンを遠ざけるのは分かるのじゃが」
ほんとどういうことなのでしょうか? サユリ様は先ほどよりも怒っているようですし。
「あの二人、エレンちゃんによからぬ感情を抱いてるわよ。何かが起こる前にやっておきなさい」
「……それは確実なのじゃな?」
「間違いないわ。確かエレンちゃんのお母さんはあの二人と違うのだったかしら。そのせいかしらね、兄と妹って考えがなさそうよ」
サユリ様がお怒りなのはごもっともですね。なにかがあったら遅い、むしろ今までなかったのが奇跡とも取れますし。
おや、ローガン様が少し寂しげな顔をされました。なにかあるのでしょうか?
「確かにエレンの母親は別でな、ごく普通の只人族じゃった。だがそのせいじゃな、天魔であるエレンを産んだ後に体を壊し、1年もたたずにこの世を去った」
「天魔に進化していない者が天魔を身籠るとそうなるわ。おそらく、エレンちゃんに魔力だけでなく生命力も分け与えていたのよ。そもそも産むことすら難しいのに、エレンちゃんを天魔として産んだとても強い人ね。私も会ってみたかったわ」
「うむ、あの娘は最後まで強かった。しかし、そうか、あの馬鹿孫どもが……。サユリ殿、感謝する。エレンに何かあったら、わしはあの娘に死んでも詫びきれん。エレンが幸せになるよう支える、それがあの娘との約束じゃからな」
ローガン様は深々と頭を下げながら、そう仰られました。先ほどまでとは違い、この姿はエレン様を心配する普通の祖父という感じですね。
でも、そういうことですか。サユリ様がローガン様に対し完全な敵としての対応をしないのは。きっとローガン様も根はお優しい方なのでしょうね。
「ところでローガン、エレンちゃんも使えるんでしょ、天竜装」
「使えるぞ。そろそろ使うと思うのじゃが、貴様の娘が天衣を纏っても互角かそれ以上のはずじゃ」
「なるほどね。でも残念、ユキちゃんは天衣を使わないわ」
「なんじゃと!? 使えるのにわざと使わないだと? 何をする気なのじゃ……」
「ふふっ、まぁ見ていれば分かるわ。なんで私がここまでユキちゃんを溺愛しているのか、その理由も一緒にね。あぁそうだ、1回だけユキちゃんが術を使うのは了承してね。あの子、術札無しだと魔衣の再顕現すらできないから」
どういうことなのでしょうか? サユリ様は含んだ笑みをされてますが、さっぱりわかりません。
それにお嬢様は天衣無しで、どうされるのでしょうか。ひどく心配です……。
ローガンの過去を少し掘り下げると
宿屋にて
竜族の男「フッ、予めどこに泊まっているか調べた甲斐があったな」
狐族の女「(うわぁ、宿屋にまで押しかけてくるとか、ほんとキモイ)」
竜族の男「しかし通常の鍵だけとか、ずいぶんと不用心だな」
狐族の女「(いや起きてるし、撃退できるし。というか不法侵入してくんな!)」
竜族の男「さて、寝てるところ悪いが、そろそろ俺の物に」
狐族の女「なるわけ、あるかぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
竜族の男「なっ!? 起きて、いや、まて、術装だすとか、ちょ、やめてぇぇぇぇぇぇ」
こんな感じのやり取りで、フルボッコにされてます




