58話 準備前のフルボッコ?
お爺さんとオッサン、明らかにエレンの言葉で相当なダメージ受けてるよね。ボロボロだし、もうこれで終わりにならないかな?
「ま、まぁいいじゃろう。それで提案なのじゃが」
「へぇ、それじゃエレンちゃんは術式連続展開もできるのね」
「ですわ! ただ3個目の発動に失敗することがあるのです」
「術式の構築に失敗しているのかしら? 今度うちに遊びに来なさいな、その時に私が見てあげますよ」
「いいのですか!? ありがとうございます! サユリ様に見ていただけるとは、わたくし本当に感激で」
うん、完全にお爺さん無視してるね。
でも無視するのはわかるわぁ。だってエレンにとってお母様は憧れの存在だしね、すっごい目がキラキラしてるよ。
お母様もエレンのこと気に入ったみたいでよかったよかった。
「おほん!」
「それにエレンちゃんならきっと」
「うおっほん!」
「あらローガン、喉の調子でも悪いのかしら? 老いているんだから体には気を付けなさいな」
「き、きさまぁぁぁぁぁ」
わぁ、お母様がお爺さんを挑発するどころか完全に手玉に取ってるよ。
でも一族の長だったら、挑発されても冷静に対処しないとダメダメなんじゃないかな?
「提案なのじゃが!」
「何かしら?」
「我が孫娘とそなたの娘、どちらが上か知りたくないか?」
「いいえ全然」
「ぐぬっ」
お母様、完全におちょくってるわ。
おかげでこのお爺さん、他の貴族もいるのに痴態を晒すような感じになってきたねぇ、容赦ないなぁ。
「まぁ可哀そうだから、乗ってあげるわ」
「初めからそう言っておれ! まぁいい、細かいルールを決めるとする」
「あら? ルールを作って自分たちを有利にしようという魂胆かしら? 情けないわね」
「ぐぬぬ」
ほんと容赦なさすぎです。周りの貴族たちもこのお爺さんをそういう目で見だしてるよ。さすがにちょっとだけ同情しちゃうなぁ。
「うおっほん。まず術は無しじゃ」
「どうしてですの? わたくし、ユキさんと術のぶつけ合いをしてみたいです!」
「い、いや、エレンよ、その、少し我慢してくれんかの」
そして孫娘にまで裏切られる。
もう勘弁してあげたら? ってわたしの方が思うようになっちゃったよ。
「次に召喚も無しじゃ、無尽蔵に兵を呼ばれてはかなわぬ」
「それも作戦のうちだと思うけど? それにエレンちゃんも召喚できるわよね?」
「もちろんですわ! タヌ蔵様から物量で攻める時もあるとのことで、しっかり学びました!」
「ねーねー、それじゃエレンもアビス種のモンスターとか召喚できるの?」
「できますわ!」
おー、どうやら召喚能力もわたしに近い感じだね。それなら軍団で対戦することもできるってことだよね? すっごい面白そうなんだけどだめなのかぁ。
「ぬおっほん、次にじゃが」
「何度も咳をするとか、やはり病気じゃないかしら。老いて貫禄出すのは良いけど体が弱くなるのはダメねぇ。でもどうすればそんなに貫禄出るのかしら? 同年代なのに私は何万年も同じ姿だから気になるわ~」
やっぱりお母様とこのお爺さんは歳が近いんだね。とてもそうとは見えない真逆な外見だけど……。
「この女狐が黙っておれ! 次にこの特殊な腕輪を付けてもらう。これには受けダメージを数値化し、皆に分かりやすいよう水晶の上に表示するものじゃ」
「自分の孫娘すら見世物にするとか、頭おかしいわね。まぁいいわ、腕輪は細工が無いかこっちで調べさせてもらうけど」
「勝手にしろ。勝敗は装備が完全に破壊されるか、降参した方が負けじゃ!」
なるほど、降参だけじゃなく装備の完全破壊もですか。
術装は魔石に宿っていることもあり、万が一破壊されても修復が可能。とはいえ術装はそんじょそこらの攻撃じゃ傷ひとつ付かない強度を持っているけど。
そんな術装をもしも破壊できた場合、破壊した者は相手よりも圧倒的に強いという証拠になる。おそらくそれを狙ってるんだろうねぇ。
「訓練場には控室がある、そこで準備をするといい。ではエレン、行くぞ」
「わかりましたわ。それでは皆様、お先に失礼しますわ」
そう言ってエレンたちは訓練場の方へ向かって行ったけど、いよいよかぁ。
でも本当に〝竜槍〟持っているのかな? エレンってどう見ても只人にしか見えなかったんだけどなぁ。
訓練場の傍にある控室で準備をする。と言っても術装と天衣を顕現させるくらいかな?
「じゃぁユキちゃん、戦いについてだけど、天衣はダメです」
「ふぇ? どうしてですか?」
天衣がダメって今まで言われたことなかったからちょっとびっくり。
むしろ魔衣でピンチになるくらいなら、さっさと天衣を発動しなさいって言われてたくらいだもの。
力比べの時ならまだいいけど、実際の戦闘で油断してたら負けましたとか笑えないもんね。
「実はね、天衣を使うとユキちゃんの魔石の修復がすっごく遅くなるの。そうね、1分使うとだいたい1年くらい遅くなるかしら」
「うげ、そんなにですか?」
「そうよ、それだけ天衣は魔力を大量に使うの。うちの訓練場みたいに負荷を軽減する設備があればいいけど、普通は無いからね。なので天衣はもう少し大きくなるまでむやみに使わないこと。約束できる?」
「は~い」
1分で1年もかぁ。確かに修復分の魔力を回すどころか、逆に魔石から魔力を引き出してたからなぁ。当然魔石への負荷も高くなるし、これはしょうがないね。
「それと、今日はドレスで戦ってもらいます」
「マジですか!?」
天衣がダメってことよりも衝撃なんですけど!?
「いくつか理由があるけれど、エレンちゃんはおそらくドレス姿だから、それに合わせた状況にするためかしら」
「もしかして、エレンと同じ条件で戦わないと向こうが納得しない可能性があるからですか?」
「そうよ。あの様子じゃ普段の巫女姿だとくだらないこと言ってきそうだからね」
なっとく。
でもドレスかぁ……。魔衣をドレスにしたことなんてないし、戦ったこともほとんどないけど大丈夫かなぁ。
「それじゃ魔衣をドレス姿で作ってみましょうか。無理だったら補助するから安心してね」
「は~い。それじゃこのドレスと同じようなのを思い浮かべて……術式展開!」
足元に魔法陣が現れた後、全身が光に包まれる。ここまではいつもと同じだけどうまくいくかな? できれば1回で成功して褒めてもらいたいなぁ。
「あ、できました!」
できたらいいなぁって思ってたら、あっけなく成功しちゃった。
「まぁまぁまぁ、さすがユキちゃん、さすが私の娘。1回で成功するなんて、ほんと凄いわぁ」
お母様はにこやかにそう言いながらなでなでしてくれる、はふぅ。
魔衣の見た目は元のドレスとほぼ同じ、若干刺しゅうが多くなったかな? 胸元のリボンと腰にある大きなリボンが可愛い。
しっかし何でもかんでも1回で成功するとか、今世のわたしってちょっとズルだねぇ。前世はがんばってもできないことが多かったのに、ほんと複雑。
「そういえばお母様、どうしてしばらくはドレスで戦うことが多くなるって言ったのですか?」
「あぁそれはね、ユキちゃんが来年留学する学園って貴族の子が多いのよ。そのせいでユキちゃんも貴族に合わせてドレス姿で過ごすことになるの」
「なーるほど。急な戦闘があった場合、着替える時間が無いのでドレスのまま戦うことになるわけですね」
そんな頻繁に戦うことはないとは思うけど、何が起こるか分からないからね。なにごとも最悪なケースを想定するのです!
それにしても、スカートって長くなるとちょっと動きにくくなるね。空気抵抗が増えたせいかな? 後方に一気に回避しようとした場合、踵側をうっかり踏みそうになるのも注意しないと。
「それじゃがんばってきてね、私たちは近くで見てるから」
「は~い、いってきまーす」
さてさて、エレンの強さはわからないけど、負けないようにがんばるぞー。
訓練場に着てわかったけど、結構広いんだね。高さも十分あるし、これなら普段通りの戦いもできるわ。
場内中央にはエレンとあのオッサンが居る。オッサンは審判のつもりかな?
「おまたせっと。あれ? エレンはその恰好で戦うの?」
エレンはドレスのままで魔衣も魔装も発動してないんだけど、どういうこと?
「せっかくですので最初からお見せしようかと。どうしてわたくしが〝竜槍〟を扱えるのか、そのご説明ですわ」
「へぇ、ちょっとドキドキ」
「では驚いてくださいまし。目覚めなさい、竜装!」
するとエレンの周りに黒い魔力が集まり、そして形を変えていく。どうやら魔衣と同じような物みたい。
ほんの数秒でエレンは漆黒のドレスをまとった姿に。
でもさっきまでと明らかに違うところがある。どういうわけか頭には黒い角が、腰からは黒い尻尾が生えている。
どちらも金属のような物でできているようで、肉体というより鎧の一部みたい。それにエレンの髪色も漆黒に変化しているわ。
「これがわたくしの戦闘形態ともいえる〝竜装〟を装備した姿ですわ」
「なんていうか只人から竜族に変身? みたいな気がする」
「ですわね。今は展開していませんが羽もありますわ。もちろん羽も尻尾も自由に動かせますわ」
そう言って尻尾を振ってくれる。ほんと装備というよりも体の一部みたい。
でもこれでなっとく。エレンは只人だけど竜族に変身できる、だから竜槍の所持者になれたわけだね。
「そして、竜魔錬成陣、展開! 竜の巫女が命ず、太古より受け継がれし竜の誇りよ、我が牙となれ! 降臨せよ、竜槍『ドラグーン』!」
竜魔錬成陣、竜族特有の術式みたいね。
でも術装の顕現方法は同じかな? 巨大な魔法陣からは黒く輝く光の玉が顕現、そして光は収束していき、黒くて巨大な槍に変化したわ。あの形はハルバードに近いかしら。
「これが竜の一族に受け継がれる術装、竜槍ドラグーンですわ!」
そう言って軽く構えるエレンだけど、すっごい強そう。さっきまでの魔力量とは桁違い、化け物のわたしが親近感沸くくらい化け物な気がするなぁ。
それじゃ油断せず、わたしもちょーっとだけ真面目にがんばりますか!




