55話 勇者って実は強い
二人の戦いは壇上にある巨大な水晶で見れるのね。さっきの低レベルであったろう戦いも映してたのかな?
それにしてもレイジですか。
この世界でどの程度強くなったのか、やっぱり気になるね。他の勇者まで召喚される可能性もあるし、指標としても良い存在だね。本人にはちょっと悪いけど。
「あの、ちょっとお聞きしたいのですが」
「な~に?」
アリサがちょっと深刻な顔してるけど、なんだろ? ぱっとは思いつかないなぁ。
「お嬢様は、あのレイジという少年が気になるのですか?」
「あー、顔に出てたわけだね。そうだねぇ、結構気になるし興味もあるね。強くなったらしいからなおさらだね」
「そう、ですか……」
あれぇ? なんかアリサ、悲しそうな顔になったんだけど、なんで?
レイジの事を気になるか、ってことを聞いてこれだよね。ということは、あーはいはい、そっちの事でか。ここに来てからずっと言い寄ってくる馬鹿が多かったから、なおさらだね。
「アリサの思ってる気になるとは違うよ~。レイジがこの世界に居るということは、他の勇者も召喚される可能性があるわけ。なのでレイジには悪いけど、勇者がこの世界に召喚されたらどの程度強くなるか、その指標になってもらおうかなって」
「あ、あの、ということは」
「恋愛的な感情は欠片もないよ~。そもそもレイジにはエレンがいるからね。わたしの方に来たら、そっちが危なくなるんじゃない?」
「で、ですよね! よかったぁ」
やれやれ、ほんとアリサはわたしの事になると心配性になるんだから。前世の敵と付き合ったら身の危険が! とかなんとか思ってそうだなぁ。
それともまさか、レイジにとられるとかの嫉妬や独占欲といった恋愛感情的な方? って、さすがにそれはないか。確かに仲はいいけど、そこまで進展はしていない……ハズ。まぁ進展していても問題ないのですが!
「そろそろ始まるみたいですね」
「だねぇ。カイルはすでにシルバームーンと真魔装を顕現させているね。開始から全力でいくしか手が無いから正しい判断だわ」
「そうなのですか? 初めからだと魔力の消費が多くて、他の術などにまわせなくなる気が」
指を顎にあてならが首を傾け、その状態で考えを言うとか、ほんと可愛いんですけど! ってそうじゃなくって
「あの真魔装、全開状態じゃないんだよ。だから多少は魔力消費が抑えられるの。それに、」
水晶に映し出されてるカイルをもう一度確認したけど、うん、間違いないね。
「カイルもそうとう特訓したみたいだね。魔力の総量と回復速度、この二つが以前よりもだいぶ上がってる。限界状態で使わなければ消費よりも回復が勝ってるみたいだよ」
「そうなのですか……。私は見ただけでは全然わからないです」
じーっとカイルを睨むように見てるけど、うん、それは調べるじゃなくて威嚇な気がするんだ。
「大丈夫だよ、この技能はアリサにも覚えてもらうことになるから。今は天魔に向けての修行が中心だけど、天魔になったらこういう特殊技能も覚えてもらうんだ。特殊技能は魔力消費が大きくて、天魔にならないと覚えるための訓練すらできない厄介なものばかりだけど」
「なるほど、天魔になってからが本番なのですね」
同じ天魔でも、取得した技能によって差が出るからねぇ。弱い天魔になんてわたしがさせないけど。
アリサには才能が十分あるし、なによりわたしと同じくらいの化け物になれる可能性があるから、嫌だって言われない限りは強くするのだ!
「しっかしレイジの奴、完全に前の世界の力を使いこなせてるみたい」
「どういうことですか? 派手な金色の鎧だなぁって印象なのですが」
水晶に映るレイジは金色の騎士風の鎧を身にまとっている。わたしが前世で戦った時の鎧そのままだね。
「レイジたちは〝勇者ボーナス〟って言って、色々な物を手にいれてるの。ただそれは能力だけでなく、物もそうなの」
「つまりあの鎧も〝勇者ボーナス〟の一つなのですか?」
「そうだよ。どういう素材を使っているかはわたしもわからない。わかってるのは非常に硬く、身体能力も強化されるということ。それに修復機能もあるようで、一気に破壊しないとすぐに修復される。しかも完全に壊しても再召喚すると元通りという、相手からすると厄介な物なんだ」
魔衣や魔装に近いけど、ほんと何でできているんだろ。魔力で作ってるわけじゃなさそうだし。
「なるほど。でもどうやって戦うのでしょうか? 武器を持っていないようですし」
アリサがレイジの装備を確認、というか睨んでるね。まさかこの子、交友の無い男は容赦なく睨むのかしら……。
「剣と盾だよ。腰に装備している剣の柄と腕に着けてるブレスレット、その二つが変化するわけ」
「それは珍しいですね。刀身は魔力を固めた物になるのでしょうか?」
「魔力じゃなく光の粒子を圧縮したものだったよ。ほら、転生者が言ってた〝ビーム兵器〟ってやつ。それで刀身と盾を構築していたよ」
ビームなソードとビームなシールドなんだよねぇ、前世で対峙したとき厄介すぎたの思い出すわ。
破壊できない、長さも変わる、防御範囲まで変わるという、何それ卑怯でしょって思っちゃったもん。柄の部分やブレスレット本体も薄いビームの膜が張られるのか、攻撃しても傷すら付かなくてほんとお手上げだったし。
「お、そろそろ始まるみたいだね」
「ですね。あの駄狐に期待はできませんが」
うん、平常運転だねー。ほんとアリサってカイルのこと大っ嫌いだよね。
『それじゃ始めようか。先に言っておくけど僕のこの剣と盾、ビーム兵器なんだ。刀身の無い剣の柄を構えてるけど、攻撃時には刀身が現れる。なので油断しないでくれると嬉しいかな』
『そいつはどーも。じゃぁ俺も言っておくと、このシルバームーンは複数の属性を刀身に宿すことができる。ただのサーベルだとは思わないでくれよ?』
ほー、互いにあえて手の内言うのね。
それを信じるか、それとも嘘だと思うか、一種の駆け引きかしら?
『それじゃ、行くぜ!』
『こいっ!』
カイルが一気に接近、対するレイジは盾で受け止めるのかな。
でもカイル、そのままじゃ簡単に防がれるよ? 突っ込むだけだったら本当のバカだけど、どうするのかな。
『真魔装、限界解除! さらに魔眼発動! そして、シルバームーン、Typeシルフ! シルバームーン、Codeプラズマハリケーン、イグニッション!!』
おーおーおー、最初から全力だね。
魔眼で麻痺させてから、雷と風をまとった一撃をあてる。うん、悪くないね。
『ぐうっ、麻痺か!』
『もらったぞ!』
カイルが一気に背後に回り込み、そのまま切り払いにかかる。完璧なタイミング、さすがにあれならば
『なっ!? なんだそれはぁぁぁぁぁぁ!!!!』
切り払いが当たる瞬間に、バッチーンっていう弾かれる音がしたと思ったら、いやほんとあれなによ。何でレイジのシールド、全身を守る球状の結界みたいになってるんですか!? 意味がわかんないよ。
『あっぶな、意識まで麻痺してたら今のは間違いなく当たっていた』
だけどレイジの奴、涼しい顔してるし。これ、当たったとしても対策ができたってことなんじゃ。
対するカイルの方は全力が弾かれたことで、すっごい苦々しい顔になってる。その気持ち、すっごくわかるよ……。
『くそっ、今のが完全に弾かれるとか、どうなってるんだよお前』
『前の世界でね、大量の敵を召喚する相手と戦ったことがあってさ。全方位から攻撃してきて、ほんと死にそうだったんだ。同じような相手に今後も会うかもしれない、そこで考えたのが全身を守るバリアにすればいいっていう単純な発想。この盾だからできる芸当ではあるけどね』
あー、うん、それやったのわたしだ。
1対4という不利な状況なら、こちらは大量の駒を召喚して物量で押し切ろうって考えた作戦。まさかその経験であんなの考えだすとか、やっばいね。
「どうやらカイルは負けるかもね」
「ですね。全力の一撃が弾かれたようですし、なにより装備を抜きにしても差があるようにも見えますね」
「うん。水晶越しだから正確にはわからないけど、レイジは天衣使用時のわたしよりは弱い。だけどカイルの一回りくらいは強いとみて間違いないね。それにあのビームな装備はわたしでもちょっと厳しいしなぁ」
間違いなく前の世界での勇者能力とこの世界での勇者能力がうまい具合に混ざり合って、それがとんでもない強力な能力へと進化しているみたい。
しかもまだまだ成長するんでしょ? すごすぎだね。
でもこれでわかった。他の勇者が同じように召喚され、そして敵になった場合は本気でヤバイってこと。
これはわたし自身もっと強くならないとだめだね。がんばろーっと。
『それじゃ僕からも行くよ!』
『ぐっ、なんてパワーとスピードだ、一瞬で体勢変えやがって』
攻守逆転になったようで、今度はレイジから攻めるみたい。
ほほー、レイジが一瞬でカイルの正面に立ち、そのまま下からすくう様に切り上げたね。
ぎりぎりカイルも受け止めたけど、確かに今のは速かった。速さもそうだけど力もなかなか、ほんと強くなりすぎでしょ。
カイルの方が圧倒的に不利だけど、こっからどうするのかな。
正面からあたる以外だと、物量作戦に切り替えての持久戦しかなさそう。だけどレイジとの能力差を見るとそれも厳しい。
勝つのは無理でも、せめて引き分けになってくれると良いんだけどなぁ。




