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54話 ちょっと予想外すぎ

少し長いです

 名乗りを上げ、颯爽と壇上に上がる男。

 間違いない、あの男は


「お嬢様、あの方を知っているのですか?」

「うん。あいつは、お食事券の人だ!」

「はい?」


 頭の上に疑問符が浮かんでそうなアリサに説明っと。あのお食事券はほんとありがたかったわ。


「はぁ、要するに狐族の偽物で非常に弱い方、ですね」

「身も蓋もないけど、そういうこと。何をしたいのかさっぱりだけど」


 昨日と同じ格好なんだよね。確か偽耳に穴開けたはずなんだけど、予備があったみたい。

 んー、壇上でなんかいろいろ話してるけど、どうでもいいかな。


「ねーアリサ、多分あの二人の戦いは醜い殴り合いになって30分くらいかかると思うから、その間くらい料理食べてよ?」

「そうですね。それに人の目も減るでしょうし、多少は融通が利くかと」

「だねぇ。それじゃまずはパンに挟むお肉からスタートだよ!」


 ちょっとでもおいしく食べたいのです。食材だっておいしく食べてもらいたいはずだしね。

 さ~て、どのお肉にしようかな。





「あむあむ、うん、アリサの作った物のほうがおいしい気がする」

「もぐもぐ、ん~、そうでしょうか? 私はお嬢様のも好きですよ」


 何個か作って二人で食べてるけど、なかなかこれだ! っていう組み合わせが無いなぁ。素材は悪くないのだけど、やっぱ調理方法がねぇ。

 おや? なんか見られてる。戦い見ないでイチャイチャしているんじゃないって感じですかね? でも見るほどの価値ないからなぁ。


「あ、終わったようですよ。お嬢様の予想通り30分殴り合い続け、そして共倒れだそうです」

「かっこわる!」

「二人も会場に戻ってきましたね。治療済みのようで、殴り合いの痕跡はなさそうです」

「ぼこぼこな姿はさすがに見せたくなかったんだろうね。それにしてもこの盛大な拍手はなんなのよ……」


 会場に戻ってきたあたりで、周りの貴族が一斉に拍手するんだもん、ちょっとびびったよ。

 しかも壇上で二人がガシッと握手したら拍手喝采で、ほんと意味がわかんない。


「おそらくローガン様の顔を立てているのでは? この国ではそれなりの地位の方ですし」

「なるほど、媚び売っているってことかぁ。この国の貴族同士の付き合いってほんと面倒そう」

「ですねぇ」


 面倒そうな貴族の付き合いを想像したからか、二人揃って苦笑いしちゃった。

 周囲とは真逆な対応してたからか、なに苦笑いしてるだよって感じに幾人かの貴族が睨んできたけど、まぁ気にしないでおこう。





 さてさて、そろそろわたしの番ですかねー。壇上のオッサンも『これからすごいこと言うぞ』って感じに、なんか決め顔になってるし。


『本日は特別な日です。皆様にはもう一つ試合を楽しんでいただきます』


 え? まーだ何かする気なの? てっきり娘を紹介し、わたしとの決闘に持ち込むと思ってたのに。まさか、今度はあのデブを戦わせるのかな。


『先ほどの戦いをご覧いただき、我が息子も強いことはご理解いただけたと思います』


 強かったの? アリサも首傾げてるし、とてもそうとは思えないよね。

 でもなぜか周りの貴族は納得して頷いてるとか、ほんと意味が分からないわ。


『ですが真に強く、次代最強なのは我が娘! だが娘一人では立ち行かないこともある。そこで娘にふさわしい従者を私は召喚したのです!』


 従者を召喚って、まさかのまさか?


『紹介しましょう、レイジ、上がってきなさい』

『承知しました』


 まさかのまさかだったわ。

 壇上に上がってくるのは間違いない、昨日会ったレイジ本人。ということは娘ってエレンのことか、挨拶回りとか見てなかったから気付けなかったよ。


 ふーむ、壇上のレイジは昨日と雰囲気が違う。真面目というか、いつでも戦闘には入れるって感じ。

 それにこの魔力量、ちょっと想定外かもしれない。


「お嬢様? なんとなく焦った感じが出ていますが、大丈夫ですか?」

「そのね、ちょっとまずいかもしれないの」

「どういうことですか?」


 少し真面目になったのを察したのか、アリサも少し緊張しだしたね。

 わたしも正直、レイジがこの状態でも前世で戦った時の倍以上の魔力を持っていることに少し焦ってるから。


「えっとね、昨日話した街で一緒だった二人、その片方なの。でもそれはどうでもいいの」

「そうなのですか? 重要な気がするのですが」

「本題はここから。前に話したよね、前世の最後で勇者と戦ったって。その勇者があのレイジなの」

「そ、それって!?」


 うん、すごい焦った顔になったね。

 具体的な強さは話してないけど、前世のわたしじゃ敵わないかもって話してたからねぇ。あくまで召喚される前のレイジと比較してだけど。


「レイジはこの世界に召喚された影響で、特殊な種族に変化してるの。しかも天魔と同じくらいの力を持ってるそうだよ。さらにあの魔力量からして、おそらく今のアリサよりも強い」


 壇上でアピールのためか少し力を解放したようだけど、想像以上ね。ひょっとしたら今のわたしに匹敵するかも。

 おそらく技術もそれに見合ったものを会得しているはず。


 こうなるとアリサが勝つには、大量の術式を使っての物量作戦しかない。物量で攻めて消耗したところを狙う、これ以外は思い付かないわ。


「申し訳ありません。私が弱いばかりに……」

「ううん、アリサのせいじゃないよ、わたしもこんな状況は想定していなかったから。今のアリサなら普通の天魔が相手なら互角以上に持ち込めるけど、あれはちょっと無理。わたしでも天衣を使わないと負ける可能性まである」

「そこまで強いのですか!?」

「壇上での魔力が全力の1割と仮定してだけどね。もしもそれよりも抑えてたら、天衣を使っても負けるわ」


 あらま、アリサが固まっちゃった。

 無理もない、わたしが家族以外の相手で負けるってきっぱり言うの、初めてだからね。

 魔石が全快してればそんなことはないけど、それを言うとアリサがすごく落ち込むから絶対に言わない。


 でもほんと、こんなに強いとは思わなかったよ。

 救いなのは敵じゃないってことかな。





『さて、このレイジの相手だが』


 オッサンがにやけてるあたり、おそらくアリサを指名してくる。


 正直、強い相手と戦うのは悪い事じゃない。命を失うような状況はダメだけど、こういう試合なら大歓迎。

 だけど今回は状況が違う。今回の目的はこの茶番を考えた馬鹿どもを完膚なきまでに叩きのめすことなので、負けたらそれが達成できない可能性がある。


 達成できなくても誰も責めたりしないけど、おそらくアリサは自分自身が許せなくなる。

 そのせいで自暴自棄になったり、無理な修行をする可能性がある。アリサって責任感がちょっと強すぎるところがあるからね。


 そんな状況は嫌だから何とかしたい。したいんだけどまいった、本当に手が無い。物量で攻めさせて、何とか引き分けにもっていく作戦しかないかも。


『ここは招待客であるユ』

『相手は俺がしよう!』


 はい? 誰かが割り込んだけど、誰? って、あのバカ!


『ほう、銀狐ですか』

『そうだ。良い戦いが見られると思わないか?』

『……いいでしょう。それではレイジ、彼と共に訓練室へ』

『承知しました』


 決まったので訓練室に向かうようだけど、その前に


「ちょっとカイル、こっちに来なさい!」


 一斉に見られたけど、この際それは置いておく。お母様も頷いてるから大丈夫。





「やっと会えたなユキ! 地味に広いから見つけられなかったぜ」


 さわやかスマイルで来るなバカ、まったく。


「ちょっとどういうこと? 何でここに居るとかはこの際おいておくけど、どうしてあなたが戦うのよ」

「それは決まってるだろ?」

「どんな?」

「俺のかっこいい所をユキに見せて、惚れさせる!」


 ……開いた口が塞がらないとはこのことね。おもいっきりドヤッてるけど、こっちは相当呆れてるのよ?


「お嬢様、どうやらこの駄狐は現実を捨てて夢の世界で生きていくようです」

「おいメイド、今日もなかなか言ってくれるじゃないか。だがお前は俺に感謝するべきだろ? 大好きなユキの前で負けるとか、お前自身が許さないだろうし、実際負けたら思いつめて心が壊れるだろ」

「ぐぬぬ」


 あら、図星だからかアリサが完全に言いくるめられている。普段は逆になることが多いのに、なかなか珍しい光景だねぇ。


「まぁ下心満載なのは置いといて、一つだけ忠告しとくわ」

「なんだ?」

「もしもレイジの壇上での魔力が全力の1割未満だった場合、わたしが天衣を使っても負けるわ」

「なっ!? まじかよ……」


 うん、すっごい驚いた顔になるよね。わたしの天衣での力、実際に味わってるからなおさらだよね。


「おいおい、それじゃ俺の勝ち目がほとんど無いんじゃないか?」

「壇上での魔力が5割だった場合、真魔装の限界解除で互角のはず」

「ちょっとまて、いつ俺の真魔装の限界解除のこと知った!?」


 いたずらがバレた子供みたいな顔して驚いてるね。というか寄ってくるな、近い近い。


「最初の時からだよ。真魔装を殴った時、もう一段階あるんじゃないかなぁって感じたんだ」

「お前はお前でとんでもないな」

「まぁそれはおいといて、魔眼は恐らく最初の1回のみ効く。2回目以降は耐性できるから無理よ」

「な、なぁ、それって」

「レイジは勇者だけど、他の勇者とは決定的に違うことが二つある。一つは勇者補正って言って、状態異常とかは一度くらえば耐性ができるの。完全耐性は無理だけど、わたしたちの使う術での耐性と同等よ」


 あー、なんか絶望した顔になってきたね、わかるよ。

 でもヤバいのはここからなんだよね。


「問題はもう一つ、転生ボーナスがわたしたちの知っている転生ボーナスよりも強力、しかも一つじゃなくて複数所持しているの。もしも身体強化だった場合、わたしたちの知っている転生ボーナスの身体強化、最低でもあれの1000倍は強化されるから気を付けてね」

「……なぁメイド、やっぱお前が戦わないか?」

「大変心苦しいのですが、ここは駄狐にお譲りします」


 ほんと絶望するよね……。前世で勇者4人同時に相手したとか、今から思うと奇跡だよ。





「だぁぁ、覚悟決めるしかないか。だがそんな強い奴をメイドの代わりに戦うことになるんだ、褒美がほしいよな?」


 むっ、そのいやらしい顔、言いたいことはわかるけどさぁ。


「はぁ、何が欲しいのよ。言っとくけど婚約とかは無しよ。そもそも5歳児にするなって話だけど」

「そうこなくちゃな! な~に簡単だ、デートしようぜデート。もちろんメイド抜きでだぜ?」

「言うと思ったよ。まぁ勝ったらね。引き分けとかじゃだめだからそのつもりで。アリサもここは耐えてね」

「納得したくないですが、わかりました。駄狐、潔く負けてきなさい!」


 いやいやアリサさん、負けちゃダメでしょ。一応叩きのめす予定なんだから、そこは勝ってもらうように応援しないと。

 ほんとこの子、カイルが絡むといろいろと過激になるわ。


「それでいいぜ。さて、行くか!」


 はてさてどうなることやら。さすがにこの戦いはちゃんと見るべきだね。

物で釣らず、あくまで自分の力を見せて惚れさせようとするのがカイル君です

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