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第十七話 警備員

 

 シーカフィン公爵家に養子として引き取られたアリアネには彼女自身に気づかれないように護衛がついている。


 とはいえ、王国中の令息令嬢が集まり、社交界の縮図と化した学園内にまで個々人の護衛が入り込めば学生の数だけ護衛もまた増えることになり、隠れ潜むことはできなくなる。


 そのため学園内には学園側が用意した警備員が配置されている。その実力は王家直属の近衛兵に匹敵するとまで言われている。それだけの精鋭たる──もっといえば公平性のある──戦力を用意しないと安心して預けられないと考えるだけの『家』の令息令嬢が学園に通っているということだが。


 ゆえに、男爵令嬢が公爵令嬢を襲った一部始終も警備員は目撃していた。流石にこれ以上見過ごすわけにはいかないとどこからともかく湧き出るように数十もの警備員がティア=アークビー男爵令嬢を取り囲む。


 そのような状況であってもティア=アークビー男爵令嬢は地面に倒れたアリアネを愛おしそうに見つめるだけで周囲の警備員には視線さえ向けることはなかった。


「ティア=アークビー男爵令嬢。大人しく──」


「あっは」


 やはり、警備員のことなど気にしない。

 男爵令嬢は恍惚と笑みを深めていく。


「『現実の』アリアネさんは乙女ゲームとは違って、だけどそれでもアリアネさんはアリアネさんなの。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、そんなことは知らないの。だけど、それでもアリアネさんはアリアネさんなの」


 その目は蕩けるようで。

 その声音はどこか頼りなく。

 まさしく狂気のままにティアは突き進む。


「『現実の』アリアネさんが理想通りでないなら、うん。やっぱり予定通りわたしがヒロインになろう。憧れるだけでなく、手を伸ばしてこそより深く、強く、アリアネさんを感じられるものなの」


 だから、と。

 指示に耳を貸す気はないと判断した警備員たちが身柄を確保しようと動き出した、その時だった。


「それはそれとして、こういう展開になったならアリアネさんをもらっちゃってもいいよね? えっへへ、邪魔されないためであって憧れの人を手元に置いておきたいからってわけじゃないんだからね!?」


 誰にでもなく言い訳するような言葉の後に。

 ティア=アークビー男爵令嬢はドレスの内側から取り出した注射器──中に白とも黒とも言えないドロドロとした何かを詰め込んだそれを首元に突き刺していた。


 一気に注射器を押し込み、中身を体内に注入する。



 瞬間、警備員たちの腕や足や頭や胴体が抉れた。



 いいや、正確には──ボトボトと、空から抉れたはずの腕や足や頭や胴体が降り注ぐ。


 王家直属の近衛兵に匹敵するような者たちがいとも簡単に全滅したというのだ。


「男だけ、だったら殺さずに済んだんだけど、女も含まれているなら仕方ないの」


 腕や足や頭や胴体だけが移動するように。

 そう、それは、まさしく『転移』とでも呼ぶような。


「おっと、誰かに気づかれる前に退散なのっ」


 言下にティアとアリアネの姿がこの場から消失した。



 ーーー☆ーーー



「ふっ。盗賊に攻め滅ぼされたティア=アークビー男爵令嬢の村なんだが、真っ黒だったみたいだな」


 特に意味はないが髪をかき上げてギリス=シーカフィンはそう切り出した。


「信仰。それも大衆に広まっているくらいにはある程度最適化の済んだいくつかの宗派と違い、捩れに捩れたもんでな。生贄だのなんだの、それはもうクソみてえな慣習を持ち出し、好き勝手やってたんだとか」


「それは許されざることだが、すでに滅んだ村の話だろう? もしもティア=アークビー男爵令嬢が生まれ育った村の思想を受け継いでいるとしても魔法の才能は平凡で、もちろん希少スキルの使い手でないのならば大したことはできない」


「まあな。最悪アークビー男爵家が汚染されていたとしても、シーカフィン公爵家の敵にはならない……んだけど、さ。どうにも気になってな。案外王子だのなんだのがティア=アークビー男爵令嬢に振り回されているのも『何か』ありそうだってな」


「『何か』、とは?」


「ハッ! それがわかれば苦労はしないさ。まあ気になるとすれば、なぜかティア=アークビー男爵令嬢は魔石を収集していることくらいか」


 魔法無効化なんてことはできないが、微量ながら魔力を吸収・保管することができる白にも黒にも見える魔石。それも特定の魔力が吸収された状態の魔石をティア=アークビー男爵令嬢は買い集めているらしい。


 それがどうした、と聞かれると困るのだが、ギリスの直感はそこに『何か』を感じていた。


「ギリスが気にしているのならば詳しく調べてみるのもアリか。それはそうと、王子さえも暴走している現状をこれ以上放置はできない。王家に王子の暴走を止めるよう働きかけてみるか」


「ハッ! そんな悠長に動いていていいのかは疑問だが、ティア=アークビー男爵令嬢の側に王子だなんだが侍っている以上力づくでってのは厳しいわな」


「……()()()()()()()()()()()


「わかっているさ。だからこそ大人しくしているんだしな」


 と、その時だ。

 声かけもそこそこに半ば転がり込むような勢いで従者の一人が入ってきたのだ。


「と、当主様っ。大変です!!」


「落ち着け。何があった?」


「アリアネ様が行方不明になりました!!」


「なん、だって!?」


 驚きのあまり報告にきた部下を質問攻めにしていた当主は、ゆえに気づくのに遅れてしまった。


 いつの間にかギリス=シーカフィンが消えていることに。


 そう、『あの』ギリスがだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] どうか…続きを…!!めちゃくちゃ気になります!!
[一言] 肝心なところに停まるなんて QAQ
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