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第003話 気持ち

 シトラル国王の私室を出た三人は、アランの案内で他の部屋に来ていた。その部屋は、見た目はとても可愛らしくピンク色を基調としていた。大きなソファーがあるゆったりとしたリビングの奥には、気品を漂わせるベッドルームがあり、バスルーム、トイレやパンドリーまでも備え付けてあった。


「こちらのお部屋が今後、エリー様のお部屋となります」

「はい……」


 後宮とは違う、逃げ場のない閉鎖的な空間に思えた。


「エリー様。マーサさんがここでもお世話してくれますのでご安心ください」


 そんなエリー王女の気持ちを察したのか、レイが落ち着かせようと屈託のない笑顔で話しかけた。しかし、エリー王女はその声で身体が跳ね、少し後ろに反らした。レイを見ようともせず、両手を胸の前で握り合わせている。その手は僅かに震えていた。


 レイはとにかく安心して欲しいと願い、跪いてエリー王女を真っすぐ見据える。


「エリー様、今まで過ごしてきた環境とは違って戸惑うことも多いと思います。だからこそ、我々はエリー様を守りたいと思っておりますし、信頼してほしいとも思っています」


 エリー王女は頭ではわかっていた。しかし、心も体も付いてこない。ただただ不安だけがすべてを覆いつくしていた。


「すみません……」


 エリー王女はこんな自分を見られたくない思い、両手で顔を覆った。

 それを見たアランとレイは顔を見合わせ慌てた。


「エリー様、どうか謝らないでください。ゆっくりでいいです。焦らなくて大丈夫ですから」


 レイの優しい声が聞こえる。

 このままではいけない。心配をかけさせてはいけない。そう思ったエリー王女は意を決して自分の胸の内を伝えることにした。


「……ち、違うのです……お二人が悪いのではないのです……。色々お気遣い頂いて感謝しております。ですが……上手く応えることができなくて……ただこの状況に戸惑っているのです……」


 二人は黙り、顔を覆ったままのエリー王女を静かに見つめる。


「ずっと後宮で女性に囲まれて過ごしており、父以外の男性と会うのは今日が初めてなのです。少し……男性が怖いのです……。そんな状況でお見合いもあると思うと震えが止まらなくて……。ですが、レイの言う通り、互いに信頼し合う必要があることも分かっております。分かってはいるのです……」


 アランは少し考えてから応えた。


「エリー様、お気持ちはお察し致します。我々の役目はエリー様をお支えすることにあります。怖いのであれば少し距離を取ってお話いたしますし、このように不安があればいつでも伝えていただければと思います」

「はい……ありがとうございます……」


 しかしエリー王女は顔を上げることはなかった。二人はただエリー王女を見つめ、どうするべきか悩んでいた。その沈黙を最初に破ったのはレイだった。


「あ! 良い考えを思いつきました! アラン、ちょっと準備してくるからエリー様の外出する準備だけしておいてくれる? それまでには俺も戻ってくるから! エリー様、失礼します」

「え? お、おいっ!」


 慌てたアランを余所に、レイは走って部屋から出て行った。静かになった部屋。エリー王女は未だに俯いている。


「……で、ではとりあえずこちらでお召し物を替えていただけますか? 今、侍女を呼んでまいります」


 そんな中、何と声をかけてよいか分からなくなったアランはとりあえずそう告げた。それを聞いたエリー王女はコクンと頷く。一応通じたことに胸を撫で下ろしたアランは、部屋を静かに出て行った。


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