その弐拾六
「莫迦なッ!」
即座に与次郎は否定した。
「いやいや、嘘じゃありませんよ。あれは金剛製の太刀で、あんたらが怖れたあいつの【刃気一体】の絡繰りは、我々が想定している玉鋼の太刀よりも気を溜め込みやすい特質と、あいつ本人の資質が組み合わさった本来ならあり得ないし、考えも付かない偶然の産物って話ですよ。ま、対処法など考えつかないというか、答えに辿り着くわけ無いですなあ」
気息を急速に整え治し、慶一郎はこれ見よがしに【刃気一体】へと駆け上がりながら、与次郎を嘲笑った。
「だとしたら、あの男は何者だというのだ! 儂らの存在意義すら無くしかねない偶然じゃと?! 到底認められるものではないわ!」
「まあ、そうなるでしょうねえ。ところで、我々は皇尊の顔のことをなんと云いましたかね?」
喚き散らす師匠を後目に、慶一郎は静かな口調で質問した。
「竜顔よ」
迷うことなく、与次郎は答える。
「全く以て正しく。我ら扶桑からの珍客を快く受け入れ、その上、本来ならば許されない尊称を身内の中で使うことを許した聖皇パルジヴァル。それどころか、彼の方は初代様が皇の意を持つ皇を東大公家の長が名乗る名字として認めて下さった。形の上だけでも初代様は皇尊として君臨為された」
滔々と慶一郎は歴史を語る。「初代雷文公様こそ我らから見れば竜にも等しい御方。……いや、我らは知っている。初代様は竜の血を間違いなく引いておられた。武幻斉刃雅とその太刀を教えた竜の姫君の間の子こそが初代様の母君なのだから」
「その程度のことならば、我ら【旗幟八流】の当主に口伝として伝わっておるわ。我ら扶桑人と中原の人間の差はその身に流れる竜の血よ。竜の血が混じっているからこそ、我らは気の制御が他の人類種よりも圧倒的に長けている」




