0.序章
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玉座に悠然と腰掛ける、美しい女性。
波打つ金髪は腰ほどまでの長さで、絹のようにしっとりとした輝きを放っている。
陶器に似たなめらかな頬。すらりと伸びた鼻筋。真っ赤なくちびる。意志の強そうな朱い瞳がシャンデリアの光を受けて瞬いた。
「女王陛下 」
玉座の前で膝をついた女の声に、女王と呼ばれた彼女は緩慢と顔を上げた。高貴さ故の傲慢さと、優雅さで。
「 ーー何かしら」
女王の冷ややかな言葉が、白い大理石に反射した。跪いた白に近い金髪の女の肩が楽しそうに揺れる。
「ロアの白鼠たちがなにやら愉快なことを考えているみたいですわ」
「 ロアが?」
女王が続きを促すみたいに、緩やかに頷いた。その拍子に、美しい金髪が肩口から流れ落ち、煌めきを纏って零れた。
「はい、陛下。わが国の外交局が必死に維持してきた平和を崩そうとするなんて、本当にお馬鹿な方々です」
軽やかな声には、どこか揶揄うような調子が混ざっている。女王は少しだけ眉を上げ、
「 早く続きを言いなさい。わたくしは忙しいのよ」
「 ああ、これは。申し訳ありませんわ、陛下。ロアの白鼠たちは偽造地図を用いて、わが国の貿易拠点であり凍らぬ港……〈 フォグランド要塞〉 を狙っているようですわ」
「ーー… 」
わずかな沈黙。けれどその一瞬、ホールを流れる空気さえも凍りついた。
女王の赤い眼差しに、ひやりと冷たい閃光が走った。見るものを捕らえ、魅了し、
射殺すことができるほどの、鮮烈な光を宿した眼差しに、伏したままの女は声を出して笑う。
「〈QSS〉をお使いになられますか?」
「… 大層な自信ね」
「 まさか。すべては陛下の微笑みのために。」
「 …そう、まあいいわ。貴女に任せるわ。それにーー新しく入った二人のことも、うまく監視しておきなさい」
女王が白い指先を軽く振る。退出の合図に、女はゆっくりと立ち上がった。忠誠を示すように胸に手を当てると、静かに腰を折る。
「 他ならぬ貴女の推薦だもの。期待しているわ。"彼女 "にはね?」
女王が笑った。鮮血を塗ったようなくちびるが笑みの形を描いた。
それを受けて女も楽しげに笑う。
「あの子は陛下のご期待に応えられると思います。他ならぬ、私の推薦ですから 」
玉座に残るのは、一人の美しき女王。
優雅な金髪に触れることさえせず、ただ何かを思案するように目を伏せた。




