第14話 リスタート
「騎士団を作るかは、まだわからないけど……私、やっぱり強くなりたい」
アリアは、窓の外をまっすぐ見つめながらつぶやいた。
「バンドメンバーも探さないとだし、旅に出ない?」
アリアがチラリと視線を向ける。
その言葉に僕は、ぱっと顔を輝かせた。
「アリア……! うん、行こう!! メンバー探しとアリアが強くなるための旅だね!」
僕は勢いよく立ち上がり、両手を前のめりに机に置いた。
「あ……そう言えば、僕デスナイトの呪いでHPとMPが半分になっちゃてるんだよね……」
「アルバートも? 私もよ」
アリアが頬杖をつきながら、ため息をつく。
「教会で解除してもらいましょ。神父様にお願いすれば解いてもらえるわ」
「お嬢様、そのことなのですが……」
紅茶を注いでくれていた執事の男性が、ゆっくりと僕たちに視線を向けた。
「恐らく、王都の教会では解除してもらえないでしょう」
「え、どういうこと?」
アリアが目を見開いた。
「お嬢様が冒険に出られぬよう、旦那様が各所に指示を出したそうです。鍛冶屋やアイテムショップ等も、お二人は取り合ってもらえないでしょう」
「そんな……」
新たなスタートを切る決意をしたところで、いきなり出鼻をくじかれてしまった。
「お父様は、そんなにも私のことが目障りだったのね……」
アリアがそうつぶやくと、執事の男性は首を横に振った。
「いいえ、お嬢様。あの方は、心からお嬢様のことを心配なさっておられるのです。厳しく見えるかもしれませんが……どうか、それだけはお忘れないように」
執事の男性は、軽く胸に手を当てながら頭を下げた。
アリアは唇を噛み締めながら、そっと視線を落とした。
「教会以外で解除してもらえるところはないかな? アリアの新しい武器も素材と鍛冶場があれば、僕が作れるんだけど……」
「冒険者ギルドにならいるかもしれないけど、私たちはもう入れないから無理ね……鍛冶場があるところも同じ……」
アリアが伏目がちにつぶやく。
HPとMPが半分なうえに、唯一の戦闘員であるアリアの武器がなくては旅に出るのは不可能だ。
僕たちの間に、沈黙が広がる。
「ここから数十キロ先にある『アモローソ』村のシスターなら、呪いを解除してくれますよ」
執事の男性が控えめに告げた。
「アモローソ村? あんな小さな村に、呪いが解除できるほどのシスターがいるの?」
アリアが目を見開きながら問いかけた。
「私の古い馴染みなのですが、彼女はとても優秀な白魔法使いです。きっとお二人の力になってくれますよ」
男性はにこりと微笑みを浮かべる。
僕とアリアは顔を見合わせた。
「ありがとう、爺や。その村に行ってみましょ」
微笑むアリアに、僕は眉をひそめた。
「でも、武器はどうする? 道中、魔物に遭遇するだろうし……HPとMPが減ってるうえに武器もないとなると、さすがに危険なんじゃ……」
「この辺りは弱い魔物しかいないから、私の魔法で十分……」
そこまで言いかけて、アリアは言葉を呑み込んだ。
「あなたの言う通りね……ダンジョンで迷惑かけたばかりなのに、ごめんなさい」
なんだか、先ほどから謝られてばかりだ。
肩を落とすアリアを見つめながら、僕は軽く頭を掻いた。
「それでしたら、護衛を付けてはいかがですか? アリアお嬢様の護衛なら、喜んでやる者がおりますよ」
「護衛……! それは助かります! ね、アリア?」
ぱっとアリアの方を見ると、アリアは顔を引き攣らせていた。
「護衛ってまさか……それだけは嫌よ!?」
アリアは勢いよく首を横に振るが、男性はにこにこと微笑みを浮かべたまま、じっとアリアを見つめた。
「………っ」
男性の静かな圧に、アリアは観念するかのように息を吐いた。
「わかったわ……彼に頼みましょ」
「アリア様!!! この度は、私めを護衛に命じていただき、誠に光栄でございます!!! このダイル・アパッシオナート、命を懸けてアリア様を必ずやお守りいたします!!」
「うるさいわね! ダイルは黙って付いてくればいいの!!」
「かしこまりました!!!」と大声で返事をするのは、騎士団の甲冑に身を包んだ僕と同い年ぐらいの青年。
青みがかった暗い髪色とスカイブルーの瞳をした爽やかな見た目とは裏腹に、熱血漢のようだ。
「アルバート・コン・アニマです。よ、よろしくお願いします」
僕が軽く会釈をすると、青年は鋭い眼光を向けてきた。
「黙れ。俺がお守りするのはアリア様だけだ。貴様など知らん」
「えぇ……」
先ほどとの落差に、思わず声が漏れてしまった。
「ダイル!! 私の仲間に失礼な態度取るのはやめて! ちゃんと私たち二人を護衛してちょうだい」
アリアが声を上げると、ダイルはその場に跪いた。
「はっ! アリア様のご命令とあらば!!」
アリアがため息をつく横で、ダイルがギロリと僕を睨んでいる。
何やら彼は僕が気に入らないようだ。
心当たりなく冷たくされるのは、前世のころから慣れている。
あ、なんか嫌なこと思い出しそう。
記憶の蓋が開いてしまう前に、僕は首をぶんぶんと横に振って気を紛らわせた。
「明日にはアモローソ村に着くでしょう。さ、行きましょう」
「はい!! アリア様!!」
「あだっ」
ダイルは僕の肩にドンっとぶつかると、歩き出すアリアの一歩後ろへ駆け寄った。
こうして、先の思いやられる僕たちの旅が始まった。




