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倭国大乱 観測者は全ての歴史を見届ける  作者: 明石
第一章 後漢末期

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幕間 打ち上げ?

※この話のキャラクター同士のやり取りは本編の時系列上と一切関係ありません。

本編で描ききれなかった設定の補完となっております。


ぐだぐだと小難しい話しが延々と続きます。


「カンパーイ♪」「かんぱい…」

ナビとグラスを傾け、軽く打ち鳴らす。

高い音が反響する。

グラスに注がれたウーロン茶を一口呷る。

久しぶりに呑むウーロン茶は、記憶よりも苦い味がした。


「“久しぶりに飲むウーロン茶は、記憶よりも苦い味がした”――黄昏ちゃってさー、もう!ウーロン茶でカッコつけられてもね〜」


ナビがけたけた笑う。白く濁った茶色い液体を、喉を鳴らしながら豪快に飲み干す。


「勝手に心を読むな。というか何飲んでんるだ?」

「これ?これカルーアミルク」


まさかの酒だった。ナビはいつの間にか手許に現れていたアイスペールから、氷をトングでグラスに移した。ミルクを入れ、コーヒーリキュールを注ぐ。マドラーで手早く搔き回す。氷がグラスにぶつかる音がカラカラ響いて、風鈴の音色のようにも聴こえる。

そしてまたゴクゴク飲む。呑む。


「うまーい!」


見た目はどう高く見積もっても中学生くらいにしか見えないナビが、アルコールを摂取する姿は、色々問題ありそうで気が気じゃない。


「もー、なにしけた顔してんのよ〜?」


口数の少ない俺の態度が気になったのか、ナビが声をかけてくる。


「元気なんか出るわけないだろ。あんな結末で…」

「孫堅のこと?でも、最後は結構前向きだったじゃない」

「あれは…、孫策やタケルの前でうじうじしてられないだろ?だから…」


結局救えなかった。俺は…

もっとやりようはあったのではないか?

自問自答をずっと繰り返している。

我慢しても、瞳から涙が溢れる。


「あー、はいはい。やめやめ!キミがいつまでもメソメソしてたら、孫堅も浮かばれないでしょ!ほら、呑んだ呑んだ」


そう言いつつも、それ以上俺に構わず酒を呷る。


「というかお前、食事とかってしないはずだよな?」


こいつと一緒になって40年以上だが、未だかつてナビが何かを食べているところを見たことがない。


「そうだよ。わたしは経口摂取でエネルギーを補給したりしない。消化器官もないから、食事をすることはできないの。まあ“この空間”に関しては、全てノリで成り立つ世界観だから、今回は細かいこと気にしないで」


「な、なるほど。それは解った…。けど、本編ではどうなってんだよ?ずっと気にはなってたんだ。お前って結局なんなの?生き物?」


ナビは腕を組んで唸る。どう説明すればいいのか、考えているようだ。


「生物学の基準で言えば、私は“生命”に分類されないね。でも、ちゃんと自分の意志はあるよ。だから、人間のようにコミュニケーションを取ることはできる。構造的にはまったく別種の存在だけどね」


自分で自分の言葉に納得したようだ。うんうん頷いている。


「つまり、何?お前ってAIとか、人工知能的なアレなのか?」


「そういうのとは、違うね。AIは“設計された知能”。誰かが作ったアルゴリズムを基盤にして動いてる。でも私は、作られてない。設計図も開発者もいない」


俺の反応を確認しながら言葉を切る。うん、ここまでは分かった。俺はナビに頷く。


「前にも言ったけど、わたしは自然に“発生”したの。この宇宙の物理法則――特に“歴史の強制力”が、時間の歪みを補正しようとした結果としてね」


確かに前に聞いたな。でも、あの時はそれどころじゃなくて、あまり突っ込めなかった。今日はもう少し深掘りしてみよう。


「じゃあ他の質問。エネルギーを経口摂取しないって言ってたけど、じゃあどうやって体を動かしてるんだよ?」


「まず前提として、わたしを構成しているのは、物質じゃなくて“情報”なの。

人間で言うところの細胞も、臓器も、神経も存在しない。代わりに、情報の流れがネットワーク状に結びついて構造を維持してる」


情報で出来てる?全然イメージできない。


「で、わたしの体を動かすためのエネルギーなんだけど、それも情報。君たちが世界を見て、認識して、記録している――その行為が宇宙全体で発生する情報の流れになる。

本来なら、私はその“全体の観測”に接続して活動してたんだけど、過去においては別。

今の私は、君の観測だけに依存してる。

君が見て、感じて、考える――その一つ一つが、私のエネルギー源になってる。

だから君が消えれば、すぐでなくても、わたしもそのうち一緒に消える」


俺が消滅するとナビも消えるっていうのは、そういう理屈からだったのか……。

改めて、俺とコイツは一蓮托生ということか。

今までの無茶を少し反省する。


「観測して得た情報自体がエネルギーってのは分かったけど、何かファンタジー過ぎないか?」

「そう感じるのも無理ないか。でもね、実際の物理法則でも“情報=エネルギー”は成り立つんだよ。

たとえばマクスウェルの悪魔っていう思考実験があるよね。エネルギーを使わずに分子を選別して、温度差を生む話。

あれ、理論的には“情報を得ること自体”がエネルギーを生むって証明になってる。

つまり観測って、エネルギー変換の一種なんだよ」


「お、おお。マクスウェルね、はいはい」


俺はさっぱり理解できないけど、悔しいので適当に相槌をうつ。


「私はその仕組みを、文字通りエネルギー源として使ってるの。だから、ファンタジーなんかじゃないよ。

現象としては、ただの“観測による情報熱力学”。君の世界ではまだ理論段階だけど、私にとっては、当たり前な生理現象みたいなものなの」


なるほど。わからん。

分かったのは、こいつが情報の集合体ってことだけだ。


「情報が実際に形になるってのがピンとこないんだよな。もっと詳しく、お前の身体を知りたいんだけど」


「はあっ?突然何言い出すの?」


ナビは顔を赤くし、胸元を隠して身構える。


「バカ、違う。そういう意味じゃない。例えば、お前空飛んだり、壁すり抜けたりするだろ?アレどうなってんだよ?」


「あ、ああ。そういうこと」


ナビが構えを解くが、まだ俺に対して不信感があるような表情だ。

そもそもお前、男でも女でもないんだろ。


「それは単純に、わたしの体が“物質じゃない”から。

私の構造は、粒子でも分子でもなくて“情報密度の偏り”なんだ。

空間の中で、特定の位置に情報が集中すると、そこが一瞬だけ“存在しているように見える”——そんな感じかな?」


そんな感じって言われましても…。


「君たちが“壁”とか“地面”と呼んでいるのは、原子レベルではほとんど空間で、固体に見えるのはただの確率の分布。

私はその確率の外側——観測されない領域に潜れる。

だから、壁をすり抜けるっていうより、“物質の観測状態を回避して通過してる”に近い。

浮いてるのも同じ理屈。

私は重力の影響を受ける質量を持っていない。

重力は空間の歪みだけど、私は空間の構造そのものと同期してるの。

だから“下”という方向性の制約を受けないんだ」


人差し指を立てながら、淀みなく捲し立てる。講義か何かを聞いているようだ。

けど、今のナビの話でちょっと気になる点があった。


「ナビ、お前今“自分は物質じゃない”って言ったけど、それはおかしくないか?」

「何が?」

「だって、この世界は全て物質で成り立ってるんだろ?元素だか何だかで」


俺はなけなしの科学知識でナビに反論を試みる。


「それは“人間が見ている宇宙”の話だね。

君たちは、目や耳で観測できるものを全部“物質”って呼んでるけど、実際には、物質って“情報が安定して観測されている状態”のことなんだよ」


「情報が安定して観測されている状態?」


「この宇宙の根っこにあるのは、情報の構造。観測すると、その情報が安定して見える形――つまり物質になるの。

私が属しているのは、そのひとつ手前の層。

情報としては存在してるけど、まだ物質として観測されていない領域」


「だから、私には原子も分子もない。

でも、“存在していない”わけじゃない。

情報としては確かにここにある。君がそれを観測してるから、姿や声という形で出力されているだけ。」


「……つまり、俺が見てるのは“お前の物質的な体”じゃなくて、情報を俺の脳が勝手に映像にしてるってことか?」


「そうそう!分かってきたじゃん!

君が“物質世界”って呼んでいるものは、観測後の映像にすぎないの。

私はその映像の“原データ”側にいるんだよ」


物質世界の前段階の世界があるってことか…。かなり衝撃だ。


「いや、そうなるとまた矛盾が生じるぞ。お前、俺のこと魂を撃つ輝く拳(シャイニングフィスト)で殴り殺したよな?物質として存在しないなら、物理的に干渉するのは不可能なはずだろ!?」

「シャイニング…、何だって?」


あ、そうか。魂を撃つ輝く拳(シャイニングフィスト)は俺が勝手に名付けたんだった。


「俺を殴り殺したあれだよ!ほら、魂を剥ぎ取るってやつ」


「あー、あの時の。あれは“物質に触れてる”わけじゃないの。君の身体を動かしている情報構造――つまり、人格・記憶・DNAの相関パターン――そこに直接、干渉してるんだ。情報境界を一瞬だけ収束させて、対象の“情報場”を分離してるの。

そのとき、君たちから見える現象が“殴られた”ってやつ。実際には、拳で魂の情報を剥ぎ取ってるにすぎないんだ」


「いや、痛かった!実際いたかったぞ!?」


「それは当然だよ」


ナビが笑ってカルーアを呑む。いや、笑いごとじゃないんだが?


「“痛み”っていうのも、神経信号の情報処理だからね。君の身体が傷ついたわけじゃなくても、情報層を引っ張られると、その信号が逆流する。何度も言うけど、私が干渉したのは君の“魂”側――身体を動かす指令や、感覚を処理するデータベースそのもの。

そこを直接引っ掴むと、神経系がそれを“ダメージ”として誤認するんだ。物理的ダメージじゃなく、情報的ショック。それが――」


ナビが何かを思い出そうとしている。


「それが、魂を撃つ輝く拳(シャイニングフィスト)の正体。うわ、もっと他にいい名前なかったの?」


ナビが恥ずかしそうな顔をする。余計なお世話だ。

けど、なるほど。痛覚などの感覚は、飽くまで脳が電気信号として感じさせてるもの。つまり、実際に体がダメージを受けてなくても、脳が“痛い”って思えば痛いのか。

「うーん、まあ、魂を撃つ輝く拳(シャイニングフィスト)の理屈も分かったよ」


…なんとなく。


「で、次なんだけど」

「まだあるの!?いい加減にしてよ!」

「いや、こんな機会滅多にないからな、ツッコミ所は徹底的に潰すぞ」

「今日はお疲れ様会だったのに……」


ナビがテーブルに突っ伏す。


「ナビの姿や声が、俺にしか認識できないのも説明できるのか?」


しぶしぶと言った様子でナビが答える。


「……わたしの姿がキミにしか見えないのは、観測の“周波数”を君に合わせてるから。君の意識にだけ映像信号を送ってるの。わたしの声だってそうだよ?空気を振動させて、実際に“音”を発生させているんじゃなくて、キミの脳内に直接語りかけているんだよ」


「テレパシーってことか?」


「違うんだなー。テレパシーは脳から脳へ情報を“伝達”するもの。対して、わたしが行なっているのは、神経情報インジェクションとでも言うのかな?キミの脳に、音が聴こえたって、信号を“作り出して”いるの。人間の認識は最終的に全て脳に頼ってるからね。わたしはそれを利用させてもらってるってわけ」


俺の脳に信号を作り出す?え、なんか怖いんだけど。


「そのうち、お前に俺の意識を支配されたりして……」

「それはできないから安心して。ていうか、出来ればとっくにやってるよ」


低い声を出し、ナビが俺を睨みつける。

確かに、今までコイツの制止を振り切って好き勝手やってきたからな。そりゃそうか…。


「な、なんかゴメン」

「ったく、やってらんないよね」


目が据わってきてる…。酔ってるのかコイツ?質問できる時間も限られてそうだな。


「お前船に乗った時、嵐で飛ばされてたよな?情報体なのに。あれはどうなってんだよ」

「仕様です」

「仕様?」

「君の観測環境依存型可視化仕様。バージョン人間心理1.0」

「いや、どういうこと!?」

「キミ、嵐が来た時、“風ヤベー。飛ばされそー”とか思ってなかった?」

「うーん、どうだろ?思ってた…、かな?」

「それのせい」

「なに!?」

「わたしはキミの観測に合わせて出力が補正されるの。実際は風で飛ばされてない。見た目がそう再現されただけ」

「つまり俺の想像力のせい……」

「そう。わたしは君の物理エンジンで動いてる」


何だそりゃ。じゃあ俺がコイツは嵐でも飛ばされない!!って思い込めば、実際にそうなるってこと?

無茶苦茶だな。


「それとさ、あのあと俺たちしばらく会わなかっただろ?観測されてないなら消えるんじゃないのか?」

「見られてない=消える、じゃないんだよ〜。

わたしは“君の観測”を軸に出力してるけど、存在そのものは情報場にあるの〜。君が見ていない間は、“非表示モード”みたいなもの。

宇宙全体の観測情報に部分的に同期してるから、構造は保たれ…る…」


舟を漕ぎ始めている。そろそろ限界か。

つまり、俺が観測しないと、“物質世界”には姿を現せられないけど、その前段階の“情報世界”の中には常に存在してるってことか……。

もしかしたら幽霊とかも、物質世界と情報世界の狭間の存在だったりするのかな?


「なあ、ナビ。ナビ?」


寝てる。俺はナビの肩を揺すって無理矢理起こす。


「んあ~、なんだよ〜?」


「まだ分かんないことがあるんだって」


「も〜、勘弁して〜。あと揺らさないで〜。ぎもぢわるい〜」


「お前、情報世界の住人なら、物理的に移動したりする必要ないよな?ベトナムから中国まで走って来た時、お前は“瞬間移動なんてできない”って言ってたけど、似たようなことは可能なんじゃないのか?」


「瞬間移動すると、物理法則が破綻するの〜。この世界は“君たちの観測で安定してる”から、いきなりワープしたら“観測整合性”が崩れて、世界の情報構造がバグっちゃうでしょ〜?」


「バグる……」


「だから、“走って移動してるように見せる”ことで、整合性を保ってあげてんだよ〜。

実際には少しずつ位置をずらしてる…だけ…」


「走ってるフリってことか…。けどさ、人間の“観測整合性”を守るためってのは分かったけど、そもそもタイムリープさせられてる時点で、その整合性とやらは、俺の中で破綻して……」


テーブルに右頬をつけて、いびきをかいている。

流石にこれ以上は可哀想か…。

俺が思い描くと、この謎の空間にベッドが出現した。

ナビを横たわらせ、布団をかぶせる。

幸せそうに寝ている……。


「また、こうして、こいつとゆっくり話すのも悪くないかもな」


ナビの寝顔を眺めながら、飲みかけのウーロン茶に口をつけた。



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