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包帯公爵の結婚事情  作者: 奏 舞音
結婚式編

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206/211

第42話 結婚式に向けて

 ヴァンゼール王国王都ヴァゼルを混乱に陥れた呪いは消えた。

 永遠の眠りにつくかと思われた人々は、きらきらと輝く優しい光に包まれて目を覚ました。

 集団催眠の原因が“呪われし森”の呪いであることは伏せられたが、一部の噂好きの人間たちの間では魔女の呪いではないかとまことしやかに囁かれている。

 それというのも、おぞましい空気を放っていた深く暗い〈呪われし森〉が、明るく緑あふれる場所に変わり、立ち入り禁止の札も消えていたからだ。

 女神の加護による奇跡が起きたのだと人々は喜び、かつて呪われていたその森に感謝の祈りを捧げている。


 呪いが解けた一週間後――アルフレッドとシエラは、王都の屋敷で来月に迫った結婚式の最終確認に追われていた。


「披露宴で出す料理のメニューは……」

「参列者の席次は――」

「当日の飾りつけは――」


 様々な手配をしてくれているゴードンとメリーナが代わるがわるやってきては、確認事項が積みあがっていく。

 これが仕事であればアルフレッドはしかめ面を返しただろうが、これらは愛するシエラとの結婚式に関わるものだ。

 アルフレッドの顔には自然と笑みが浮かぶ。

 ふと隣を見ると、シエラがこちらをじっと見つめていた。


「どうかしたか?」

「なんだか、今こうしてアルフレッド様と結婚式の準備をしていることが夢のようで」


 そう言って、シエラは柔らかく微笑んだ。

 王都が呪いに蝕まれたあの時は、結婚式どころではなくなっていた。

 あの時女神の加護による奇跡が起きなければ、自分たちは今ここにいないだろう。

 いまだに信じられない気持ちになるのも無理はない。


「そうだな。だが、夢にしてもらっては困る。私はシエラの花嫁姿が見たいからな」


 ちゅっと額に口づけを落とすと、シエラはくすぐったそうに目を細めた。

 その白い肌はほんのりピンク色に染まっている。

 妻の可愛さに見惚れていると、反撃を食らった。


「きっとわたしの方がアルフレッド様の花婿姿を見たいです!」


 シエラがアルフレッドに抱き着いてきたのだ。

 そうして、猫のようにすりすりと頬を寄せてくる。


(あぁ、本当に可愛すぎて困る……)


 王国の危機を救ったあの日から、シエラは以前よりもアルフレッドに甘えてくるようになった。

 おかげで理性が崩壊しそうだ。


「ふふ。アルフレッド様との結婚式、とっても楽しみですわ」

「あぁ。私もだ」


 シエラの顔を上げさせて、唇を優しく奪う。

 アルフレッドからのキスを幸せそうに受けるシエラを見て、愛おしさが増していく。


(本当に、夢のようだな……)


 子どもの頃は、両親のような愛し合う夫婦にずっと憧れていた。

 〈ベスキュレー家の悲劇〉が起きてからは、誰とも愛し合うことはないと諦めていた。

 幸せになってはいけないと自分を追い詰めて。

 一人ですべての不幸を背負った気になって。

 復讐とベスキュレー家を守ることだけが生きる糧で、自分のことなどどうでもよかった。

 そんな自分が今は嬉々としてシエラとの結婚式の準備をしているなんて夢のようだ。

 けれど、夢ではないとシエラのぬくもりが教えてくれる。


「旦那様! 奥様! オリディアから手紙が届きましたよ!」


 と、夫婦の愛の時間をノックもなしに邪魔したのは、メイドのジェシーだ。

 後ろからは彼女を追いかけて来たであろうオリバーが申し訳なさそうに立っている。


「あ……お邪魔しちゃって、申し訳ありません!」


 ジェシーが興奮気味に伝えに来たのも無理はない。

 ウェディングドレスを発注しているオリディアからの連絡ということは、内容は一つだ。

 シエラのウェディングドレスが完成したのだ。

 その報せに当然シエラも目を輝かせている。


「まぁ、本当に!?」

「はい! こちらが届いたお手紙です」


 ジェシーから手紙を受け取ると、シエラは笑顔で読み始める。

 横から覗き込むと、ウェディングドレスが完成したから試着をしてほしいという旨が書かれていた。

 アルフレッドのタキシードもすでに完成しているらしい。


「アルフレッド様! 予定は調整できますか?」

「あぁ。もちろんだ。早速、試着日を決めよう」


 二人で予定を確認して、試着日を決める。


「シエラのウェディングドレス姿、楽しみだ」

「あ、あの……アルフレッド様はまだ見ちゃダメです」


 当然試着で見られると思っていたアルフレッドは、シエラに拒絶されて固まった。


「な、何故だ!?」

「だって、その……ウェディングドレス姿は、結婚式当日の楽しみにしていただきたくて……それに、結婚式当日まで花婿がドレス姿を見ない方が幸せになれるという言い伝えもありますでしょう?」


 一緒に行くのにシエラの試着は見られないなんて、拷問だ。

 自分のタキシード姿など見ても別に楽しくない。

 しかし、シエラに上目遣いでこう言われては、頷くしかない。

 誰よりも先にシエラのウェディングドレス姿を見たいという自分の我儘よりも、彼女の希望が優先されるべきだ。


「あ、あぁ。分かった。だが、結婚式当日は覚悟しておいてくれ」

「え?」

「我慢する分、シエラのウェディングドレス姿をたっぷり愛でたいからな」


 シエラの耳元で、わざと低めの声で囁く。

 結婚式まではと我慢していることは多いのだ。

 シエラにはしっかりとアルフレッドの愛を受け止める覚悟をしてもらわなければならない。

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