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異世界ゲームクリエイター  作者: 佐藤謙羊
ゲームで村おこし編
28/47

28 ゲーム制作開始

 ひとりぼっちになったビリジアン。

 砂上の楼閣が崩れるように、木箱の上でがっくりと膝をついた。



「う……うそ……どうして? どうしてみんな、レイジくんのほうに……? ゴブリンが原因なのは、絶対に間違いないのに……!」



 理解が全く追いついていないかのように愕然とし、頭をかきむしっている。

 さっきまでの威風堂々とした光の騎士サマは、もはや見る影もなかった。


 俺はなぐさめるつもりはなかったので、さっさと本題に入る。

 その場にいる一同を、改めて見回しつつ叫んだ。



「よぉし、俺の話はひとまずこれで終わりだ! 村のみんなは普段どおりに生活してくれ! 仕事もゴブリン撃退も、今まで通りでいい!」



 「今まで通りでいい」と言われ、村人たちは意外だったようだ。

 尋ねられる前に、俺は言葉を続ける。



「その間に俺は作戦の準備を進める! 準備が整って、人手が必要になったら声をかけるからな! そしてその場合は最優先だ! 何もかもほっぽって協力してくれ! ……えーっと、それと……ゴブリン防衛の隊長はいるか?」



 すると「私が隊長だ」とひとりの色男が手を挙げた。

 隊長というよりもイケメン俳優みたいなソイツに向かって、俺はさらに続ける。



「よし、隊長! 俺の協力要請があった場合でも、ゴブリン防衛だけは手薄にならないようなシフトを組んでおいてくれるか!?」



 「了解した」と頷くイケメン。物わかりが良くて助かる。

 さて、最後は……物わかりの悪そうなアイツのことだ。



「それと隊長、ビリジアンを手下として使ってやってくれ! 役割は、そうだな……いちばんゴブリンが来る監視台の見張り役がいいな!」



 「了解した。ならば北側の監視台に着かせよう」とあっさり決まった。

 しかし当の本人は、納得がいかなかったようだ。



「……ちょちょ、ちょっと!? 見張り台!? 私は御親(ごしん)騎士……! パンダンティフ王国の王族に仕える、名誉ある騎士なのよ!? たとえ隊長でも、もったいないくらいなのに……!」



「うるせぇなぁ、もう忘れやがったのか!? 俺の作戦には、お前も絶対服従だって言ったろ!? わかったら黙って見張り台に立て! ……おい隊長! 遠慮なくコイツを使っていいからな! もし騎士の名誉がどうとか抜かしやがったら、俺に言ってくれ!」



 黙って頷き返してくれる隊長。

 なおも続くビリジアンの抗議を遮って、俺はバッと手をかざした。



「よぉし、俺の話はこれで終わりだ! 一同、解散っ!」



 ざわめきを残しながらも、いつもの暮らしへと戻っていく村人たち。

 イケメン隊長はさっそく隊員に命令し、やかましいビリジアンを引きずっていってくれた。


 そして庭に残ったのは、村長のヒューリと三人娘、そしてシャリテ。

 俺は窓の上から、こいこいと手招きした。



  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



「すまねぇ、ヒューリ、お前に断りもなく、こんなことしちまって」



 俺は部屋にやってきた女性陣を前に、開口一番そう言った。

 ヒューリは穏やかな表情で、首を左右に振る。



「いいえ。村人たちの意志であるならば、私は反対いたしません。むしろ、皆も思っていたのでしょう。このままの日々を過ごしていても、良い方向へは行かない、と……」



「そう言ってくれると助かる」



 それから俺は、コリンのほうに向き直った。



「悪ぃコリン、また勝手なことしちまった……本当は相談してからやろうかと思ったんだが、つい……」



 コリンも穏やかな表情で、首をふるふるしてくれた。



「いいえ。レイジさんにお考えがあるのでしたら、私は反対いたしません。私はレイジさんのことを信じておりますので」



「そう言ってくれると助かる」



 しかしコリンの話はそれで終わりではなかった。

 「そんなことよりも……」と急に声のトーンが下がる。



「本当に、昨晩はなにもなかったのですか?」



 静かな湖畔のような表情はそのままに、そう言ったんだ。

 「えっ」と俺が聞き返すと、コリンは噛んで含めるような口調で繰り返した。



「 本 当 に 、 昨 晩 は な に も な か っ た の で す か ? 」



 その顔と口調は穏やかそのものだったが、俺はなぜか背筋が冷たくなっていくのを感じていた。


 まるで、凍ったナイフを首筋にグイグイ押し当てられてるみてぇだ……!


 この感覚に、俺は覚えがあった。


 そうだ……! シャリテだ……!

 シャリテが本気で怒ったときに、こんな風になるんだ……!


 ……それは、俺がネステルセル家で使用人として働きはじめたばかりの頃だ。

 街でコリンとシャリテの買い物に付き合わされた時、乱暴に走る馬車にコリンが轢かれそうになったことがあったんだ。


 その時の、殺人マシーンのようなシャリテにそっくり……!

 女ってのはマジギレすると、感情がなくなるってのは本当だったんだ……! なんて驚愕したのは今でも忘れねぇ。


 後日、コリンが好き過ぎるメイドさんの怨念が届いたのか、馬車の運転手は事故って入院したというのを新聞で知った。


 そんなことを思い出してしまった俺は、藁にもすがる気持ちでシャリテに視線を向ける。



「 本 当 に 、 昨 晩 は な に も な か っ た の で す か ? 」



 しかし、強引に注意を引き戻されてしまった。

 俺の気持ちは不可解さと理不尽さでいっぱいになる。


 なっ……なんなんだよ……!?

 なんでそんなこと、念を押されなきゃなんねぇんだよ……!?


 なんて言い返してやりたかったが、言葉が出ねぇ。


 でっ……でも……このまま黙ってるわけにもいかねぇ……!

 この壊れたレコーダーみてぇになっちまってるお嬢様に、何か言わねぇと……ヤベェ気がする……!


 俺はなんとか声を震わせる。

 残りわずかになった歯磨き粉のチューブから、最後の一回分を絞り出すように。



「あっ、ああ……マジでなにもなかった。なっ、なぁ、ヒューリ?」



 今度はヒューリに視線を向けると、「はっ、はひっ」としゃっくりのような返事が返ってきた。

 って、コイツもビビってんじゃねぇか。


 俺たちがいる寝室には、一歩でも動いたら身体をスッパリやられる殺人ワイヤーのような空気が張り詰めていたが、



「……そうですか、では、よかったです」



 コリンのその一言で、ワイヤーは音をたてて切れさった。


 俺は九死に一生を得たかのように「ふぅ……」とひと息つきたい気持ちだったが、それどころじゃねぇ。

 このスキを見逃さず、強引に話題を変えた。



「そ、そうだシャリテ。なるべくでいいから、ビリジアンの様子を見ててくれないか?」



 急に振られたシャリテは一瞬目を見開いたが、すぐにいつもの調子に戻って答える。



「いいけど……どうして?」



「アイツ不満タラタラだっただろ? だからいつかまた暴走するんじゃないかと思ってな」



「わかったわ。……でも……あ、いや、なんでもないわ」



 シャリテはなにか言いたそうだったが、途中で言葉を飲み込んでいた。

 俺は気になって尋ね返そうとしたが、それより先にグランが口を挟んでくる。



「おいレイジ、そろそろ作戦ってヤツを教えてくれよ! 庭で聞いてたときからずっと気になっててさー!」



 気にしがり屋のグランはボフッ、と俺にしがみつき、おねだりするような上目遣いを向けてくる。

 そしてなぜかイーナスはコリンを促して、ともに体当たりしてきた。


 イーナスは絡みつくウナギのように、コリンは空いている場所に遠慮がちに、俺の身体に身を寄せる。


 よかった……コリンはいつものコリンだ。

 当たり前のことなのに、ひどく落ち着く。


 ……そういや、こうやって三人娘に囲まれるのは、ネステルセル家にいる時は当たり前の光景だった。

 でも……この村に来てからは、一度もなかったな。


 たった一日やってないだけだってのに、なんだか妙に懐かしい。

 俺は奇妙な感情を抱きながらも、いつものように三人娘の頭をポンポンポンと叩いた。



「作戦っていったら、ひとつしかないだろ……! 俺たちはゲームクリエイターなんだから……!」



 ……それから俺は、ヒューリに工房を頼んだ。

 別に豪華なのじゃなくてもいいので、外への出入りが容易で、広さがそれなりにあるやつ。


 いくつか候補を見繕ってもらったんだが、俺たちが寝泊まりしている屋敷の離れにイイ感じの石造りの空き家があったので、そこを使わせてもらうことにした。


 四人分の机と椅子、そして黒板を運び込んで、ネステルセル家の工房と同じように配置する。


 そして三人娘を呼び集め、俺は改めて宣言したんだ。



「よし……じゃあ、始めるぞ……! ゲームで村おこし、大作戦っ……!」

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