◆その341 フルパワー
リプトゥア国の王――【ゲオルグ・カエサル・リプトゥア】は騎士ホネスティの行動を訝しんだ。
「ホネスティ、何だ今の狼煙は?」
闇ギルドの連絡役であるホネスティの目はとても冷ややかで、かつてゲオルグ王へ向けていたささやかな敬意すらも消え失せていた。
「別に、新たな作戦の合図です」
ホネスティは全てを語らずゲオルグ王に嘘を吐いた。
自身の身の安全を考えれば当然の判断だった。
「ではその作戦とやらを聞こう」
「申し訳ございません。こちらの利益のため……としか」
控えながら頭を下げたホネスティに怪訝な目を向けるゲオルグ王が、再び戦場に目を向ける。
(よもや【地龍】を掌握しているとは、闇ギルドの底は正に深淵と言えよう。だが、今の狼煙、ホネスティの目……やはり気になる)
◇◆◇ ◆◇◆
「青い……狼煙?」
「うげっ!?」
自陣からの狼煙に顔を歪ませ驚いたのは破壊魔パーシバルだった。当然、ミケラルドはその理由を聞いた。
「何だよ、もしかして撤退の合図でも出た?」
小さな笑みを浮かべ言ったミケラルド。
パーシバルは狼煙に向けていた驚きの眼を、そのままミケラルドへ向けた。
「何でそれが……」
直後、ミケラルドは呆れ、パーシバルの将来を不安がるような目で言った。
「お前、闇ギルド向いてないよ」
パーシバルの返答は、カマを掛けたミケラルドの言葉を肯定したと言える。
だからこそミケラルドはそう忠告したのだ。
「う、五月蠅い! まだ慣れてないだけだ!」
「ま、下っ端だしな」
「くっ! ちょっと強くなったからって調子にのるんじゃない!」
怒りを露わにするパーシバルだったが、ミケラルドは冷静に返した。
「いや、調子にのるのはこれからだ」
「え?」
瞬間、ミケラルドが全員に対し【テレフォン】を発動する。
「皆さん、お待たせしました。フルパワーでお願いします」
『まったく、この私が気疲れするとはな』
『やる事はかわらない』
『おっしゃ! 待ってたぜ!』
『ほっほっほ!』
リィたん、ジェイル、オベイル、イヅナからの返答。
そんな指示を前にして、パーシバルが睨む。
「どういう事だよ……」
「勿論、手抜きって訳じゃないんだけど、それは皆の全力。エメリーさんとレミリアさんには最初から全力でお願いしてたけど、相手が悪かった。たとえ能力を上げ、能力を下げようとも、それでも相手の力が上回ってたら助けようがないってだけ」
「説明になってないんだけど?」
「戦場はミナジリ共和国――つまり俺の【領域】だ」
「っ! 【キマイラアンデッド】の固有能力! 使えるのかっ!?」
「便利な能力だよねこれ。自分の領域に対し、敵は全て能力が落ちる。更にゴブリンゾンビの固有能力【徒党の親玉】。これを使えば味方の能力を底上げ出来る……!」
「っ!? クソッ!」
目を見開いたパーシバルは、すぐさま退避行動を選んだ。
だが、ミケラルドはすぐに回り込んでパーシバルの退路を封じたのだ。
「安心しろよパーシバル。この二つの能力は俺自身に対して効果はない。だけど――」
ミケラルドの目が怪しく光る。
「――逃げられると思うなよ?」
その無慈悲なまでの一言は、パーシバルの顔を凍り付かせた。
◇◆◇ ◆◇◆
「おらおらおらおらぁっ!」
「貴様! 実力を隠していたのか!?」
剣鬼オベイルと拳鬼。
「遅い!」
「ほっほっほ、それは残像だ」
剣神イヅナと拳神ナガレ。
「ふん……!」
「馬鹿な!? 更に速くなったぞ!?」
ジェイルと騎士団。
「さぁテルース、眠る時間だ」
「強くなりましたね……リバイアタン」
「今の私の名はリィたんだ」
「……そう、だったわね」
それは各所で起こっていた。
拮抗を演じていた四人の本気。僅かな差異が、実力者たちの感覚にズレを生じさせる。相手は冒険者ギルドを代表する実力者揃い。単純に撤退するだけでも一苦労。その絶好のタイミングで相手の隠された力が解放されたとなれば、何らかの犠牲を払う他なかった。
「くっ!」
「……ほぉ、腕を犠牲にし逃げるか」
拳神ナガレは利き腕をイヅナに差し出す事でそれを成し、
「おうら、一本だ!」
「ぐぅ……!」
「ははは、やるじゃねぇか。【地泳】とはな」
拳鬼はオベイルに右足を差し出す事によって大地へと逃れた。
そしてリィたんは――、
「行け」
「……よろしいのですか?」
「お前に貸しを作っておけば我が主が喜ぶからな」
「……変わりましたね、貴方は」
「行け」
「では、またいずれ」
地龍テルースは静かに目を伏せ、リィたんに別れを告げた。
そして、向かった先は――、
「うぇ!?」
ミケラルドの正面だった。
地龍テルースはミケラルドが浮遊させていた足場の一つに立ち、パーシバルの右手を掴んでいた。
「お、おい! 下ろせ!」
「世話の焼ける方ですね、貴方は」
テルースはパーシバルに呆れた表情を見せる。
「あちゃー。リィたんで、相手が地龍なら……まぁ、逃がすか」
そんな二人を見て、一人納得するミケラルド。
「それに引き換え貴方はとても優秀ですね」
テルースはミケラルドに優しい目を向けると、更に続けた。
「リィたんに咎はありません。何卒温情を」
「あー、大丈夫です。これまでの恩に比べたら塵みたいなもんですよ」
「それは何よりです。では」
「えぇ、また」
微笑んだミケラルドは、そのままテルースとパーシバルを見送り、ゆっくりと大地に降り立ったのだった。
次回:「◆その342 サプライズ」




