◆その340 拮抗
「どういう事だ、テルース」
【テルース】、それが地龍の名である。
リィたんはテルースを見、テルースはリィたんから目を反らした。
「お前が人界に干渉するとは珍しい。てっきり雷龍から逃れているのかと思っていたが……私に謝罪するという事はよんどころない事由があるという事、何があった?」
「……敵に情報を渡すなと命じられております」
「っ! ……なるほど、良い情報だ」
テルースは口を噤むという選択も出来た。しかし、それはされなかった。リィたんは、友であるテルースの異変を理解した。同時に、その心根は変わっていない事も理解したのだ。
「数百年ぶりだな、お前と喧嘩するのは」
「……そうですね」
「先程は不意を食った。だが、ミナジリ共和国に来てから私もただ怠惰に寝ていた訳ではない」
リィたんがテルースに向かい歩き始め、テルースもまたリィたんへ向かった。
二人の視線がようやく交わる。
直後、大地が爆ぜ、二人の身体が神々しく光った。
二人が激突すると同時に、真の姿が露わになる。
現れたのは山のような体躯と、地に根を生やしたかのような太い四つ足。。ゴツゴツとした文字通りの岩肌。大地が軋み、悲鳴をあげる。
そう、【地龍テルース】が真の姿を見せ、水龍の首に噛みついていたのだ。
対し、リィたんも負けていなかった。噛まれてこそいるものの、地龍の首に巻きつき、締め上げているのだ。
……人々は彼女たちを見上げ、ただ自身の死を理解した。
これに乗じたのがジェイルだった。
(ナイスだ、リィたん)
戦力の根本である戦意を削がれた騎士団に対し、奇襲に近い攻撃を繰り広げた。
テルースがリィたんの攻撃に根を上げ、口を放す。
好機と見たリィたんがテルースから離れブレスを吐く。
「ガァアアアアアアアアアアアアッ!」
テルースが持ち直し、その背でブレスを受ける。
そして、そのまま回転し巨大な尻尾でそれを払ったのだ。
尾の直撃を受けたリィたんが吹き飛ぶも、宙空で体勢を立て直し、テルースの足下に潜り込む。テーブルをひっくり返すようにテルースを持ち上げるリィたん。
轟音と地響きと共にテルースが倒れる。
尚も睨み合う二人を空から眺める二人。
(怪獣大戦争だ……)
ミケラルドがリィたんとテルースを指差し、破壊魔パーシバルに言う。
「おい、何だよアレ?」
「それはコッチの台詞だよ。何アレ? 僕聞いてないんだけど?」
「何だよ、下っ端かよ」
「っ! 五月蠅いな……入ったばかりなんだよ」
「さっさと地位上げて俺に情報くれ」
「そんなつもり毛頭ないけど?」
「ところで、戦いに来たんじゃないの?」
「お前が……話しかけてきたんだろっ!!」
ミケラルドの煽りに反応したパーシバルが、【アサルトマジック】を無数に放出する。凝縮された魔弾が向かうも、ミケラルドはそれを全て弾き返す。
「っ! やるね。いつの間にそんなに強くなったのかな?」
弾き返された魔力弾はパーシバルの手前で消え、ミケラルドが目を丸くする。
「そりゃこっちの台詞。【エアリアルフェザー】で空飛んで、【アサルトマジック】で魔力弾飛ばすなんて、完全に空中要塞じゃん。それにそのバリア、何それ?」
「本当は見せるつもりはなかったんだけどね」
すんと鼻息を吐き、肩を竦めるパーシバル。
「聞いたよ? SSになったんだってね?」
「そうだ、よっと!」
一瞬にしてパーシバルの後ろに回ったミケラルドの蹴り。
「くっ!? おい! 僕が話してたんだろ!」
辛うじてかわすパーシバル。
「戦いながらでもいいだろ!」
「くっ! いつの間にこんなに足場をっ!?」
「どーん♪」
「それやめろ! 僕のだぞ!」
ミケラルドは、単純なパーシバルを完全に理解していた。
二人の会話中、会話だけをしていたのがパーシバル。しかし、ミケラルドは自身の足場となる大地をいくつも宙に運んでいたのだ。
上下左右から迫るミケラルドの攻撃は、たとえパーシバルでも防げるものではなかった。
(何だコイツッ!? 武闘大会の時とはまるっきり違うじゃないか!)
勢いの変わらないミケラルドという名の弾は、幾度も跳弾を繰り返しパーシバルを狙い続けた。
「どどどどーん!」
「やめろって言ってるだろ!」
「あ、蝶々っ!」
「え、嘘っ!?」
「嘘に決まってるだろ!」
単純な引っ掛けにのってしまったパーシバルの動きを一瞬たりとも止めたミケラルド。その一瞬があれば、今のミケラルドにとって十分な隙と言えた。
パーシバルを蹴り落したミケラルド。だが、パーシバルは地面激突スレスレで再び【エアリアルフェザー】を発動させた。
「惜しい!」
悔しがるミケラルドを睨むパーシバル。
しかし、肝心のミケラルドはパーシバルを見ていなかった。
(……あれは、何かの合図か?)
遠目に見える色の付いた煙。
それはリプトゥア陣営から上がっていたものだった。
◇◆◇ ◆◇◆
その少し前、リプトゥア軍中枢にいるホネスティの持つ水晶――即ち【ギルド通信】が発光した。ホネスティは闇ギルドの連絡役。
だからこそ彼にはその所持が認められていた。
(予定のない連絡? これは一体?)
それを訝しむホネスティ。
「はい、私です」
『撤退を』
「っ!? そ、それはどういう事でしょう……?」
『ミケラルド・オード・ミナジリ、本当に大した策士です。彼のせいで我々は……リプトゥアの地を失った』
それは、ホネスティにとって……余りにも衝撃的な言葉だった。
次回:「◆その341 フルパワー」




