【第1面】 (5)
魔物が蒸発したかのように影となって消えた。
閃光が走ったかと思うと、一匹残らず魔物が消えたのだった。
……何が起きたのだろうか?
ともかく、助かった。
王は踊り場で無事だった。私は、ゆっくりと下りて行った。
荒い息。冷や汗と動悸。膝が震える。命の危機に遭った生身の反応。
なんだこれは。
「現実」の感覚と同じだ……。
「王様。そして、勇者様。怪我はないですか?」
階段の下に少女が立っていた。ボウガンのような武器を構え、銃口からは青白い光の煙が立ち昇っていた。どうやら少女の攻撃で魔物は消え去ったらしい。
幼い少女だった。背も小さい。丸っこい形の目と、やや長めの豊かな髪が印象的だった。くすんだ金色の縁取りのある、青紫色のベレー帽を被っていた。
「そなたは?」
「ハイ、王様。城下の冒険者研修所で僧侶の見習いをしている者です。【ユイ】といいます」
少女はぺこりと頭を下げた。帽子が落ち、慌てて拾い上げる。
私は少女の右手首に紫の腕輪があることに気付いた。私と同じ腕輪だ。
少女は、ゲームのプログラムによる存在ではなく、私と同じプレイヤーということになる。
「お城が魔物に襲われた知らせを受けて来ました。他の人ももうすぐ来ると思います。……あら?」
階段を上がって来た少女は、大きな目をより見開いて、私を見た。
「その腕輪は、私と同じ、プレイヤーさんですね。会えて嬉しいです。よろしくお願いします」
少女はまた、ぺこりと頭を下げた。私は会釈するが、戸惑っていた。プレイヤーは敵同士ではないか。この弛緩した雰囲気でいいのか。今の挨拶で、私が新参であることが見破られた恐れがある。すでに少女との戦いは始まっているのかもしれない。
だが、ゲームの開始と同時にイベントに巻き込まれた私は、ゲームの進め方を知らない。
「まず王様に逃げてもらいたいです。次の魔物が来るかもしれないです。お城の外に出たほうがいいですよ」
「すまぬ。たのむぞ」
少女……ユイは王に付き添って歩き出す。私は割って入り、二人の手を離した。
ユイはきょとんとする。
とぼけた顔が胡散臭く見えた。私は、剣を構えた。ユイの前髪に剣が触った。既に魔物を斬っている。この世界では剣を使うことに躊躇はない。
「助けてくれたお礼を言わなきゃいけないかもしれないけど、そうもいかないわ。ゲームはプレイヤー間の競争と聞いている。あんたが王や私に危害を加えない保証はない」
「あら。あなたは新参さんなんですね? だいじょうぶです。ユイが攻撃するのは魔物だけです。ユイは冒険者研修所に居たのですから」
ユイはくにゃっと顔をほころばせた。緊張感がない。剣が見えないのか。私は警戒した。鷹揚に構えるユイ。攻撃が通じない術や、跳ね返す効果のある術を展開しているのか? それとも、ただのおおらかな性格か? とぼけた顔はもともとなのか?
「冒険者研修所は、冒険仲間を養成・滞在させる施設じゃ。仲間を裏切る者は入校の時点で弾かれる。まして勇者に協力せぬ者は皆無じゃろう。ユイとやらの申すこと、信じてよい」
王は言った。
ならば、信じざるを得ないだろうか……。
だが、ユイが僧侶とやらの術により、王を操っている可能性は?
――大変です! 上空に魔物の一団が出現! わが城を目指しております!
上の階から、兵士が進言する。
「説明は後です。ユイもあなたと喋りたいのですが、今は王様を」
と、ユイ。
私は、押し切られるように、渋々承諾した。
地下道を通り、城の裏に脱出した。やがて衛兵たちが到着した。王は兵たちに付き添われ、城下へと落ち延びた。安全が確保されたら、ふたたび戻れるだろう。
私たちは城の警護を引き受け、王を見送った。
王の背中を見送り、無事を祈った。「きっとあなたを死なせはしない」と誓った。その後で、ベットにしたヒジリは、王とは別物だと気付いた。
私は思ったよりもゲームに入れ込んでいたらしい。(笑)
でも、ゲームに出てくる王のためにも、がんばろうとは思う。




