プロローグ ソラ編1
なろう様には初投稿になります。
小説を書くのも10年以上ぶりとなりますので、拙いところが多々あると思いますが、よろしくお願いします。
炎。
それはすべてを燃やし尽くし、灰へと還す。この世に存在するすべてを消し去る存在。慣れ親しんだ思い出のある家も、使い慣れた家財道具も、三日後に誕生日を迎える友達にあげるはずだったプレゼントも、なにもかもが燃えている。
紅蓮の悪魔は、なにもかもを呑み込んでいった。
辺りにはむせかえるほどの強い臭いがたちこめ、青年は無意識に服の袖を鼻に押し当て眉を寄せた。
正直、目の前で起こっていることのすべてを頭が処理しきれていない。すべてが突然で一瞬の出来事だった。だが、その一瞬ですべてが終わったことだけはわかる。ずっと続くであろうと思っていた日常は、もう二度と戻ってはこない。それだけは確実に理解できた。
そして今、その一瞬の出来事の中で生き残った青年は、この世界で一番、愛おしいと思っている人の命が奪われそうになっている光景をその瞳に映す。
――銀の髪を揺らす男は、一人の少女の首を掴み、片手でその体を持ち上げていた。
少女の身体は華奢ではあるが、決して軽いわけではない。なのに、その身体を片手で軽々と持ち上げている。それだけで、この男の力の強さがうかがい知れた。
少女の重みをまったく感じていないかのような男は、くっくっくっと笑った。
「おかしいなぁ。思ったよりもすた廃れているじゃないか。本当にあの『ソラ』なのか……?」
この男の声は、周囲で轟々と燃える炎の騒音の中でもしっかりと聞き取ることができた。低く、嫌に耳に残る声だった。
そんな男を視界に映している青年の心の中は、今まで感じたことがないような憎悪の感情でいっぱいだった。
両親も親戚も友達も、すべてこの男に殺された。無残に殺されたのだ。それも青年の見ている目の前で、見せつけるかのように。
自分だけが無傷で生き残った理由がわからない。なぜ、みんなが殺され、自分だけが生かされているのか。
でも、理由はわからなくとも、自分が生きている限り、恋人を守られなければならないのは変わらない。
「……やめろ」
男を睨みつけ、青年は言葉を口にした。やっと、一言だけを発することができた。
憎悪のこもった声。それはとても低く、恨みで汚れていた。普段の青年を知る者ならば、耳を疑ったことだろう。それくらい、青年の声は変わり果てていた。
そんな青年を見て、男はなにが面白いのかさらにくっくっくっと笑った。
「どうやったら本気になってくれるんだ?」
男が手に力を込めた。首を掴まれた少女が、「うっ」と苦しそうに呻く。
それを見た瞬間、青年は自分でもわからない叫びを上げながら男に向かって突進した。
長剣を構え、その切っ先で男の心臓を貫かんとして突き出す。
だが、その場に男はいなかった。あまりにも一瞬のことで、青年は言葉を失う。さっきまでそこには男がいたのだ。彼女と一緒にいたはずなのだ。
気配がしたので後ろを振り返ると、この場にいた時と同じ風景が背後に広がっていた。まったく何も変わっていない。轟々と燃え盛る炎も、彼女の首を掴む男の姿も、苦しそうに呻く彼女の姿も。
「放せっ!」
炎の音に負けないくらい、青年は大声で叫んだ。
その様子を見て、男はにやりと笑った。
「そこで大人しく見ているがいい。絶望の瞬間を……」
刹那、青年の身体に負荷がかかる。上から重い岩が乗ってきたような重みに、青年はたまらず膝を折った。
この男はこうやって不可思議な力を使って、里のみんなの命を奪っていったのだ。誰一人、男の力に敵わなかった。里一番の剣の使い手と謳われた父も、一つの傷すらつけることもできずに、あっという間に殺された。
「くっ……」
苦痛に顔を歪める。負荷はどんどんかかってきて、押しつぶされそうになってきた。それでも青年は膝を折るだけで耐えていた。
彼女も助けられないのだろうか。
なんのために、一生懸命修行をして、剣の腕を磨いたのか。
「絶望とは、希望が断たれること。お前の希望を、私が絶ってやる」
男が上げた左手には、いつの間にか真っ黒な剣が握られていた。闇を思わせるような、漆黒の剣。
それを見た瞬間、青年はこれから起こることのすべてを理解した。
――この男は、彼女すらも殺そうとしている。
目の前で愛しい人を殺されようとしている青年は、体中に力を入れて、立ち上がった。
身体中にかかる負荷など関係ない。目の前で世界で一番大事な人が殺されようとしているのに、膝を折っている場合ではない。
「ァァアアアアァァアアアァ――――ッッッ!」
叫ぶことによって身体に力を入れ、しっかりと両足で大地に立つ。
負荷は最初の頃よりも重くなってきているが、今の彼はそれをはねのける。
「――彼女を放せっ!」
負荷がかかったまま、走り出す。負荷のせいで通常のスピードよりは遅いが、それでも人間から見ると速い。
その速さで迫って来ているにもかかわらず、男はちらりと青年を見て、再び笑った。
「遅いぞ、『ソラ』。あの『ソラ』のスピードはそんなものじゃなかった」
この男の言う『ソラ』が、誰を指して言っているのかはわからない。ただ、それが青年に向けられていて、誰かと比べられていることはわかった。『ソラ』が誰なのか、今は関係ない。誰であろうと、今の青年には関係のないことだ。
青年は剣を上から袈裟がけに振り下ろした。
だが、その刀身が男を斬り裂く前に、目に見えない衝撃で青年の身体は吹き飛ばされた。
「――――ッッ!」
強烈な力によって飛ばされた青年の身体は、大地に何度も叩きつけられ、転がり、停止した。
「……つっ」
痛みに耐えながら、うつぶせの状態のまま顔を上げる。全身を押さえつける負荷がさらに重くなり、青年は頭を上げるので精一杯で起き上がることはできなかった。立って、この男を殺して彼女を助けたいのに。それができないことが悔しくて、奥歯を強く噛み締める。
自分はこんなに無力だったのだろうか、と思う。
里一番の剣の使い手と謳われる父を持ち、その才能を受け継いで、頭角を現していたはずなのに、それでもこの男には傷一つつけられない。
あまりにも一方的な暴力すぎた。
「絶望し、私を恨め。それで、私の楽しみが一つだけ増える」
男が闇の剣を振り上げる姿に、大きく目を見開く。時間がゆっくりと流れている気がする。
「やめろ」
思わず、言葉を出していた。その言葉が聞こえた男は青年に目を向けた。
その時、彼女が手を伸ばした。
その姿に、青年は絶望を感じた。
彼女の顔は、すべてを諦めてしまっていた。生きることへの諦め。
「……あ」
口から声がもれた。
なぜ、自分達はこんな目に遭わなければならないのだろう。青年はそう思った。
何もしていないはずだ。人里から離れて、ゆっくりとのんびりと暮していただけだ。犯罪なんて一度も起こったことなどない。喧嘩はたまに起きるけど、殺し合いに発展したりもしない。みんな、おおらかで心優しい人たちだった。
なのに、なぜ、こんなことに……?
彼女が手を伸ばしてくる。ゆっくりと、最期の触れ合いを求めるかのように。
青年も答えるように手を伸ばした。
けれど、男は無情にも闇の剣を振り下ろした。
高校生の時に、友達と三人で考えたRPGゲームの設定を元に小説化しました。
当時の厨二病に蝕まれていた高校生が思いつくような設定が多々出てきます。
社会人になってから眠らせておりましたが、ずっと頭の中に残っていて、この度、完結まで書き切りたいを思い、思い切って再び筆を取りました。
読みにくいところ、わかりにくいところ、あるかもしれませんがよろしくお願いします。




