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それでもルウルウはやってない

 舞踏会会場には泣いている人怯えている人様々で、中には肝が据わっているのか非難の目をセオ様に向けている人も。多分外国からの客人ね。お宅のセキュリティーはどうなっとるって怒っているんだわ。避難が先決で直接文句をぶつけてはこなかったけど後の面倒事の予感だわ。


 あたしは即座に治癒が必要な人を優先して回った。


 個人的には擦り傷の患者も治したってよかったんだけど、兵士達と庭周辺を調べに行くセオ様からちょっと怖い顔で「無理は禁物だからな」って釘を刺されちゃったからね。

 まだ何があるかわからないから念のため力を温存しておけって意図だと思う。

 会場係は着々と客人達を別建物に避難させている。


 うちの家族はメイと一緒だからと安心していたけど、その途中何かトラブルでもあったのか、彼女が家族を背に庇ってどこかの貴族男と口論していたようだったのが気になった。距離が離れていたから内容までは聞こえなかったものの、その貴族は何故かあたしの方を指差して更に何か言おうとした所で身内だか知人から避難を促されて渋々従った。

 後でメイに話を聞こう。それまでは聖女として集中集中。


 あたしが治癒の必要な最後の怪我人を治し終え避難させた頃、兵士達と周辺の見回りを終えたらしいセオ様が戻ってきた。

 会場内はもう閑散としていて、残っているのは王宮の人間だけ。


「あっ、どうでした?」


 あたしは駆け寄って急いたように訊ねた。


「上空から攻撃されたようだが、下手人は見当たらなかった。だが上空に魔力の残滓を感じたよ。おそらくは魔物がいて、攻撃後間もなく姿を消したと考えて妥当だろう。……アリエル、そなたもそう考えているんだろう?」


 ええ、ええ、あたしをよくわかっておりますよね。聖女の感覚に従ってお答え致しましょう。


「はい。相手はおそらく竜族で、先日のワイバーンとは異なる種と思われます」

「そうか。ところで、そなたのペットはどこに?」

「いやいやルウルウはペットじゃありませんよっ。本人は喜んでいましたけどね。どこに居るのかはわかりません」


 セオ様はきっとあの子が関与していると考えているんだわ。


 王宮にいる竜族なんてあの子しか思い浮かばないもの。

 あたしの中ではあの子の無実は動かないけど、他の人はそうじゃない。とは言え全くの無関係って考える程楽観的でもないわ。


「陛下、これだけは言っておきます。あの子は犯人じゃありません」

「しかし私も含め、ここにいる大半の者はその意見に懐疑的だろう。王宮と魔物、二つのワードからどうあっても結び付く」

「でもあの子は本当にやってません。王宮の皆には手を出さないって約束してくれましたし、一方的に約束を破るなんてあり得ません。……仮に攻撃主と関わりがあるとしても、あの子は止めようとしたはずです。会場にはあたしがいますから!」


 聖女演技を失念してややムキになると彼は不満を薄く浮かべた。


「信頼と盲目的過信は違う。いかにそなたが優れた聖女と言えど、下手な庇い立ては自らに排斥の矛先が向きかねないとわかっているのか? 現にペット竜の噂のせいで嫌な思いをしただろうに」


 いやいやですからルウルウはペットじゃ……。


「確かに暴虐性や食欲で動くのが魔物ですけど、あの子は例外です」


 魔物にも話せば通じる相手もいるわ。

 そりゃあ魔物との戦闘を沢山経験してきて、時には大事な配下を失ってきたんだろうセオ様には割り切るのは簡単じゃないだろうけど。


「あなたはあたしが考えるよりも多くの悲惨な場面を見てきたからこそ頭から否定するんですよね。魔物への油断が命取りなのは一度でも戦場に身を置いた者なら、息を吸うのに等しい無意識の常識だから……」


 あたしが戦う側の立場で考えたのが意外だったのかセオ様は少し片眉を上げた。すぐにまた険しさを戻して眉間にしわを寄せたけど。

 ま~あお忘れですか、あたしだって軍医宜しくカナール地方に出張聖女しましたのよ?


「そこまで魔物の性質をわかっていても、情けをかけるのか。……そなたらしい」

「え……?」

「大体な、私から言わせるとあのペットのは特別な執着とか偏執だ。実際そなた以外の人間へは欠片も懐かない」

「それは……」


 ううっ否定できないっ。あの子はあたしの機嫌を取りたくて他の人に危害を加えないだけだってのはわかってる。

 反論もなく表情を曇らせるあたしをどう思ったのかはわからない。ここで長々と議論する話題でもないと思ったのかセオ様は気を取り直すように小さく息を吐いた。


「話を戻すと、居場所の心当たりは本当にないのか?」

「ないですね」


 ゆるゆると左右に首を振る。本当にどこに行ったのかしら。もしや慌てていたのは他の竜が来るって察知したから?

 いつもなら意識を集中すれば捕捉できるはずのあの子の気配が感じられないのは、王都から離れたからなのかも。

 そこで攻撃主と一緒なら、心配しかない。


 そうか、と頷くセオ様を横に庭に出た。


 止められなかったから危険はないんだと思う。庭先には見張りの兵士の姿も見えた。

 あたしは建物を振り返って何とも言えない溜息をつく。うわあぁ~、粉々でベッキベキ。


「外から見ると予想以上に半端ないですね……。冗談抜きに死人が出なくて良かったです」

「死人が出なかったのは、迅速なそなたの治癒のおかげだな。そうでなかったらどうだったか正直な所わからない。より厄介な国際問題に発展しかねなかった。心から礼を言う」


 歩きながら向けられた眼差しは真摯だ。あたしは当たり前の事をしただけのつもりだったから少しの恐縮とこそばゆさを感じた。

 だけど称賛されるなら率先して動いたこの人の勇敢さの方が余程……。

 何となく向けた尊敬の視線を外せないでいたら、散らかっていた小さな瓦礫で躓いた。

 転ぶーっ…………う?


「全く、そなたは大抵危なっかしいよな。きちんと前を見て歩くように」

「あ、りがとうございます」

「鑑賞タイムなら後で取るから」

「ありがとうござ……え?」


 セオ様に腕を支えられて転ばずに済んだけど、直近の台詞と手を放される一瞬に合った目が優しくてうっかりまたコケそうになった。


「アリエルは、出現方法や逃走方法をどうと考える?」


 彼は大きく壊れた大宮殿の一角を冷静な目で眺める。明るいだけの屋内はガランとしてどこか空虚だ。

 心が駄々漏れなんだしあたしの見解はわかっているくせに敢えて問い掛けたのは、きっとこの場の兵士達にも聞かせるためだ。

 あたしはもう板に付いた聖女演技で少し息を深く吸い込むと、幾分声を大にした。


「わたくしが思いますに、出現かつ逃走の迅速さから、その方法はテレポートではないかと。攻撃が済んでまたテレポートで王都から離れたのでしょう。目的は不明ですが」

「同感だ」


 近くで聞いていた兵士達もある程度はそんな予想をしていたのかもしれない。大きな驚きはなかった。さすがは精鋭の集まりね。

 だけどそうなると、いつまたテレポートで敵が現れるかわからないって緊張感がじわじわと足元を這い上がってくる。皆も同じみたい。一撃で石造りの壁面が木っ端微塵だなんて、誰だって恐ろしいわよね。

 だけど彼らは全兵士の中の選りすぐり。怖じ気付く者は誰もない。表情を引き締める者、武器の状態を確かめる者、頬を叩いて気合いを入れ直す者、反応はそれぞれ前向きだ。


「この度の襲撃は、何か特別な理由でないのなら、魔物が想定以上に凶暴化かつ活発化している可能性もまた視野に入れて然るべきだろうな」


 深刻な懸念を孕んだセオ様の言葉に兵士達は息を呑む。あたしは小説内容を思い出していた。魔物が活発化して魔物の跋扈がこれでもか~って展開は本編開始後のばずで、絶対的に今じゃない。

 ルウルウに王都の魔物払いだってしてもらったのよ。なのにまた出現だなんて、今回は何か特別な理由があるんだわ。


 あたしも闇落ちなんてしてないし。

 あ、そうよ、そう言えば今更だけど、そもそも聖女の闇落ちって具体的にどんなもの?

 魔物宜しく残虐思考で暴れるとか、魔物の侵入を手引きするとか? 際どいブラックドレス着て長く伸ばした黒い爪を口元に当てて悪女高笑いするとか?

 悩んだ顔のあたしをセオ様はちらと見ただけ。まーた変な妄想してるなとか思われてそう。


「……ルウルウ、本当にどこにいるの?」


 そんな胸中からぽろりと漏れた言葉を口に、思わず心配で夜空を見上げた時だった。

 濃厚な魔法の気配が突如として感じられた。


「え? 空に、何か……?」


 あたしの怪訝な呟きに、セオ様もハッとして見上げ、次にはあたしを抱き寄せた。

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