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2020年代の日本はそれは悲惨な状態だったらしい。
相次ぐ災害に謎の新型ウィルスにより増え続ける死者。
百年以上経った今でも当時首都だった東京は人間が住めるところではなくなってしまった。
いつしか首都機能は京都に移され、2030年にはスーパーコンピューターによって国民の遺伝子情報を解析し、遺伝子上最良の組み合わせとなる男女が強制的に結婚するシステムが導入された。
これが世に言うフェイト・システムである。
その後紆余曲折も特になく、義務教育は六年に短縮され、十八歳から二十一歳までの三年間に管理局からの通知が来て、三年以内の結婚が義務付けられる現在の形となった。
離婚は相手が犯罪者になり国民でなくならない限り成立しないため、この間も夫を殺人犯に仕立て上げ離婚しようとした女性が逮捕されたりする事件が起きたりしてはいるが、だからといってフェイト・システムの廃止、自由恋愛の解禁などと国民的議論が巻き起こるでもなく百年静かに粛々と続けられ完全に国民に根付いた制度である。
2109年生まれの私と夫は当然フェイト・システムにより結婚した。
システムがなかったら出逢うことすらなかったであろう組み合わせ。
「明日早いからもう寝ましょう」
お風呂から上がると今日どうしてもしたくない私は、鏡台の前で長い髪を梳かす私をベッドから無表情で眺めている夫に言う。
「そうですね」
この国では結婚して一年以上が経ち子供が出来ない女性は婦人科の診察を受けることが義務付けられている。
子供を産まなくても許されるのは研究者などの所謂上級職と高額納税者のみ。
こういう人たちは代理母出産をする。
もうそろそろ婦人科に行かなくてはならないことはわかっているが、どうもピンと来ない。
結婚する前は結婚したら子供はできるものだと思っていたのに。
「明日も暑そうですね」
「そうですね。おやすみなさい」
電気を消してベッドに横になり目を閉じた。
暫くすると薄いピンク色のネグリジェの裾から手が伸びてきたような気がしたが、それが現実なのか夢なのかわからなかった。
翌日電車に乗りバッグからスマホを取り出し、イヤホンを耳に着けると夫が石山まで十三分なんですからゲームするの辞めたらどうですかと言った。
推しのイベントではないけど現在ランクポイント十倍キャンペーンなので少しでも時間があればやりたいのだが、確かに連れがいるのに失礼かと思いスマホをバッグにしまう。
仕方なく窓の景色を見ていたが夫の言う通り十三分はあっという間で石山駅にはすぐ着いた。
駅を降りてすぐの婚姻管理局に入ると真っ白は机が並ぶ部屋に通された。
部屋には白いシャツに黒のパンツ姿の背の高いショートカットの女性と赤い見たことのない野球帽を被ったキャラクターの描かれたTシャツにベージュのパンツ姿の眼鏡をかけた男性が座っていた。
「何してるの?」
女性が口を開いた。
「呼び出されたんです。そちらもですか?」
「ええ」
「大学の同期ですよ。職場も同じです」
お知り合いですか?と聞く前に夫が言った。
そうか、同期と言うことは彼女も京大を出ているんだ。
そして私が名前を覚えることもできなかった細胞の研究をしているのだ、夫と共に。
彼女の横に座っているのは彼女の旦那さんと言うことだろうか?
置く場所がないのか黒い大きめのリュックサックを膝に抱えていて、少し気の毒に見える。
夫が女性の前に座ったので、私は赤いTシャツさんの前に腰を下ろした。
「山田瞳です」
名刺でも出してこられたらどうしようかと思ったが、女性は名前を名乗っただけだった。
別に自分が名刺を持つような人間じゃないことに対するコンプレックスとかではなくて、貰ったはいいけどそれをどうしたらいいのかわからないからだ。
「宮原楓です」
「宮原美弥子です」
「山田理です」
山田理さんと名乗った目の前の男性がリュックサックに着けている可愛らしい野球帽を被ったショタキャラのアクリルキーホルダーが気になったけど、夫に又馬鹿なこと聞いてと後で言われるのがわかっていたので聞かずにいたら部屋のドアが開いて、黒いパンツスーツ姿の三十代にも四十代にも見えるきつめのひっつめ髪の女性が笑顔で入って来た。
「おはようございます。本日はお暑い中朝早くからご足労頂き誠に有難うございます。わたくし米田、と申します。よろしくお願いいたします」
女性は丁寧に会釈する。
「では時間が惜しいので早速本題に入らせて頂きます。実はフェイト・システムの誤作動によりお二方ご夫婦間違った組み合わせで結婚されています。正しくは宮原楓様と旧姓中野瞳様。山田理様と旧姓鈴村美弥子様が正しい組み合わせでございます。
大変申し訳ありませんが婚姻管理局といたしましては正しい組み合わせでご結婚して頂きたいので互いのパートナーを交換してください」




