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今日恋愛結婚をした最後の日本人女性が宇治の病院で亡くなった。
百二十四歳だったらしい。
そのニュースを帰ってきた夫に話そうかと思ったけど、仕事で疲れて帰って来てるのにまた他人の話ですかと言われることが容易に想像できたので、話すのは辞めにした。
結婚をして一年も経てばそれなりに学習する。
だからといって今日、今月もまた来てしまったことを告げるのも嫌だったけれど、それ以外に夫にする話なんかなくて困ってしまう。
そのくせ夫は言うのだ。
何か話してくださいと。
「こんなに食べれませんよ。野球部じゃないんですから」
手洗いとうがいを済ませ背広とネクタイだけ脱ぎ、白いワイシャツの首元だけ緩めた夫がテーブルに並ぶ料理を見て言う。
手羽元の甘辛煮、春巻き、ゴーヤチャンプルー、きんぴらごぼう、カボチャの煮物、茄子とにしんの煮物、
青じそとオクラを乗せた冷ややっこ、長芋のサラダ。
確かに多いけど専業主婦で時間があるし、美味しいもの沢山食べさせたいって思い、遂一杯作ってしまう。
別に喜んでなんかくれないことわかってるのに。
でも今日は野球部じゃないんですからが面白かったから余り気にならない。
なんだかんだと夫はいつだって残さず食べてくれるのだから。
「明日ついでに三井寺寄って帰りませんか?」
「嫌ですよ。わざわざ京阪に乗るの。めんどくさい。終わったらすぐ帰りますよ」
「石山寺の近くじゃないんですか?」
「ないですよ、石山寺だって駅から歩かなきゃならないんですよ。この暑いのに絶対嫌です」
「確かに六月とは思えないくらい暑いですね」
「貴方は一日中エアコンの中にいるからいいじゃないですか」
「楓さんの研究室はエアコンないんですか?」
「ないわけないでしょう。死にますよ」
「じゃあ、管理局行ってすぐ帰るんですか?」
「そのつもりですが」
「お昼ご飯くらい食べて帰りませんか?」
「作るのが面倒なんですか?」
「いえ、そう言うわけじゃあ。でもせっかく出かけるんですし、何か美味しいもの食べたいなって」
「家で十分です。貴方の料理美味しいですよ」
「この機会を逃すと一生三井寺行かない気がするんですけど」
「何でそんなに三井寺に行きたいんですか?貴方仏像とか興味ないでしょう」
「ないですけど・・・」
「寺なら京都にいくらでもありますよ」
「でも行かないじゃないですか?こっち来て一年経ちますけど、お寺も神社もどっこも行ってないですよ」
「どこに行っても観光客だらけだから俺は行きたくありません。日中ずっと暇なんですから一人で行って来たらいいじゃないですか。ゲームばかりしてないで」
「一人でですか?」
「結婚してこっちに来てる友達とかいないんですか?」
「いないです。友達の中で京都に来てるの私だけです」
「にしん骨めんどくさいです」
夫は箸でにしんの腹骨を一本一本丁寧に外している。
本当は茄子と煮ないでにしんだけで甘く佃煮みたいにしたかったけど、手羽先も甘辛く煮ちゃったので粉なったのだが結果的には薄味に仕上がったし良かった。
夫は味が被ってると五月蠅いのだ。
「魚とは骨があるものです」
「この間の鯖の味噌煮は骨抜いておいてくれたじゃないですか」
「カットされたソフトにしんだったので量があるので、それにこれくらいの骨なら歯でかみ砕けるかなって」
「固いですよ。喉に詰まったらどうするんですか」
「子供じゃないんですから」
「当たり前です。子供には骨の抜いた魚以外食べさせられませんよ。刺身もダメです。しっかり加熱しないと」
「管理局で何するんでしょうね?」
子供の話をしたくなくて慌てて話題を変えてしまったけど不自然だっただろうか。
気にし過ぎなのかもしれないけど、やっぱり気になる。
特に今日は又今月もだめだったとあの赤に絶望してお刺身を基本的に食べない夫が唯一食べるカツオのたたきを買えなかったのだから。
「さあ、見当もつきません」
「そう言えば何で管理局石山にあるんでしょうね?」
「京都に作るわけにいかなかったからじゃないですか」
「そうですか」
夫がゴーヤチャンプルーの卵ををスプーンで掬って食べる。
そう、本当に最後まで食べてくれる。
細い体で綺麗な、とてつもなく頭のよさそうな顔で。
夫は京都のある研究所で働いている。
何を研究しているかは知らない。
確か細胞だったはずだけど、難しいことなのでどうせ聞いてもわからないし、仕事の話をしたがらないので聞くのは辞めた。
夫は頭がいい。
私が知っている人間で恐らく一番。
ひょっとしたら日本でも上から数えたほうが早いくらい賢いのかもしれないけれど、こればっかりは本当の所わからない。
目に見えるだけの情報ならば、夫は京都にある日本中の考える機能を集めた京大を飛び級の首席で出ているのだから少なくとも2109年生まれで彼以上に優秀な頭脳を持つ人間は恐らくいないはずだ。
そんな人とパティシエの専門学校を出ただけの私が何故結婚したかと言うと、まあ簡単に説明すると遺伝子に寄って定められた運命の相手だったからだ。




