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正義の味方にストーカーされてます。〜俺はただの雑魚モブです〜  作者: ゆず


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安全運転お願いします1

騒がしいバーのバイトを終えて、昼過ぎまでぐっすり寝ていた時のこと。


――ピンポーン。


普段はほとんど鳴らないインターホンが鳴った。どうせ勧誘か宅配の間違いだろうと無視を決め込む。

だが、鳴り止む気配がない。

二回鳴らして出なかったら諦めるだろう、普通。


しつこさに負けて、寝起きのままドアを開ける。


「はい、何か用――」


「ふ、今起きたのか?寝癖ついてるぞ」


「……」


そこに立っていたのは、ディヴァイアンのボス。

にこやかな笑顔。なんで家の前にいるんだ、この人。


「最近、シフトを出していないそうだな?」


「あー……」


めんどくさいから、とは口が裂けても言えない。

しかもボスを玄関先で立たせてるこの状況、家にあげるべきなのか?地味にプレッシャーがすごい。


「今日は予定ないだろう?一緒にきてもらうぞ」


「は?」


ボス直々に迎えが来るなんて聞いてないんですけど。

あと、なんで俺の予定まで把握してるんだよ。どこで俺の予定は漏れてんだ。


そう思っていたら、ドアを押さえていた俺の腕を、横から掴む手があった。

驚いて顔を向けると、そこにはレヴィも立っていた。ボスの影に隠れて見えなかったが――まさか一緒にいるとは。


「行くぞ」


ボスのその短い声に、ためらいなく引っ張ってくるレヴィ。

俺に拒否権はねぇってか。


「あの、せめて着替えたいんですけど……」


「着替えならいくらでもある。俺はツナギをおすすめするが?着せやすいし、脱がせやすい」


……どこかで聞いたようなセリフ。

奴と同じ思考してんなこいつ。ただのセクハラにしか聞こえねぇ。苦笑いで流しながらも、内心では頭を抱えた。


「着替えます。待っててください」


そう言って腕を振り払い、ドアを閉める。

急に押しかけてきたんだ、ボスといえど少しくらい待たせたって罰は当たらないだろ。

俺は小さくため息をつきながら、寝間着のままの自分を見下ろし、渋々着替えに戻った。



車の後部座席。ボスと俺、そしてレヴィが並んで――いや、正確には“詰め込まれて”座っている。

ボスは言わずもがな、かなりの大柄。レヴィは細身とはいえ、結局は男三人だ。肩と肩がぶつかり合い、少しでも動けば押し合いになるほどの窮屈さ。


……助手席、空いてるよな?

なのに、どうして誰もそこに行こうとしない。俺を行かせてくれてもいいだろうに。


けれど、車はすでに走り出していた。今さら抵抗しても無駄だと悟り、俺は静かに身を預けることにした。


「それで、今日はなんでわざわざ迎えに来たんですか」


俺がそう聞くと、ボスは前を見たまま、穏やかな声で答えた。


「あぁ、甘いもの好きだろう?カタラーナは好きか?一緒にどうかと思って」


「……はい?」


一瞬、思考が止まる。

いや、まさか甘いものを一緒に食べるために呼んだとか、そんな話じゃないよな?


――いや、食べたいけど。


心の中で自分にツッコミを入れながら、思わずため息をついた。


「んであれば、普通に連絡してくださいよ。わざわざ迎えに来なくてもいいじゃないですか」


俺が呆れ気味に言うと、ボスは前を見たまま、どこか楽しげに口角を上げた。


「本拠地に着くと、お前は人気者だからな」


「……は?」


なんだその理屈。まるで意味がわからない。


「現に、レヴィだってついてきたじゃないか」


横目で見ると、レヴィは何事もなかったように窓の外を眺めていた。だが、俺の視線に気づいたのか、ちらりとこちらを見やる。無言のまま――けれど、その目はきっと「文句あるか」と言っていた。

……いや、別に文句なんてないけどさ。


自分が“人気者”だなんて、これまで一度だって思ったことはない。


そんな他愛もないやり取りをしているうちに、車は街道を抜け、緩やかな坂道を登りはじめていた。

後部座席では、ボスがご機嫌に鼻歌を口ずさみ、レヴィは変わらず無言。


どうして、ついて来てしまったのだろう――そんな思いが一瞬、頭をよぎり、逃げるように窓の外へと視線を向けた。


――その時。


「……ふむ」


ボスの低い声が響き、鼻歌が途切れた。

次の瞬間、車内の空気が一気に張り詰めるのを肌で感じた。


ボスの視線がルームミラーへと向かう。

何かを確かめるように目を細めたのを見て、俺もつられて後ろを振り返った。


――一台の黒い車が、一定の距離を保ちながらついてきている。運転手の顔までは見えない。だが、あの車には見覚えがあった。グリーンの車、だよな…。


「君は、本当に人気者だな」


ボスが、どこか楽しげに口角を上げる。


「……」


その言葉の意味を考えるよりも早く、ボスが短く命じた。


「――振り切れ」


次の瞬間、車は鋭く加速した。シートに背中が押しつけられ、体がわずかに浮く。ミラーの中で、黒い車もまるで呼応するように速度を上げる。

逃げれば、追ってくる。息を合わせるような、完璧なタイミングで。


……あいつ、何してんだ。


声にはならなかった。ただ胸の奥で、呆れと安堵が妙に入り混じる。

俺の予定なんて、あいつが把握してるのは当然。でも、こっちの“想定外”にまで付き合ってくるとか――……ほんと、どうかしてる。


外の景色が、流れるように遠ざかっていく。

ミラーの中で、黒い車のボンネットが陽光を反射してぎらりと光った。

それでも、距離は変わらない。


……頼むから、事故だけは起こしてくれるなよ。


心の中でそうぼやいた瞬間、車が大きく揺れた。思わず体が横に流れて、レヴィの肩にぶつかる。


「っと……」


レヴィは短く息を吐き、何気ない仕草で俺の肩を支えた。その手の力が意外としっかりしていて、少し驚く。


「……さんきゅ」


そう呟くと、レヴィは何も言わず、前を向いたまま。ただ、その口元がほんの少しだけ動いた気がした。


「俺に寄りかかってもいいぞ、安心して身を任せてくれ」


ボスが楽しげに言う。その笑い声が、エンジンの唸りに溶けていった。

……なんだろうな。同じ“支え”でも、レヴィの時と違ってまるで安心できないのは。


――絶対、踏ん張ってやる。


そう心の中で誓いながら、同時にもうひとつ、切実な願いも浮かぶ。

……頼むから、早くこのカーチェイス、終わってくれ。

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