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正義の味方にストーカーされてます。〜俺はただの雑魚モブです〜  作者: ゆず


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たいしたことない奴ですけど1

ディヴァイアン本部。

毎日のように届く出勤要請メールに、正直「またかよ」とうんざりしつつも――日給アップの甘い誘惑には勝てず、結局足を運んでしまった。


入り口でICカードをかざすと、受付のスタッフが俺をちらりと確認する。


「365番ですね。クロウ様から指示を受けております。本日も以前と同じ部屋で、書類整理をお願いしたいとのことです」


「あー、はい」


以前と同じ部屋ってことは、あのやたら豪華な執務室だろう。あの人、ただの書類整理のためにわざわざ俺を指名する必要ないと思うんだけど……。


渋々と例の部屋に向かおうとした、その瞬間――


「クロウ様から……だって!?なんで……なんでお前なんかがクロウ様に覚えられてるんだ!!」


廊下の陰から、ひとりの男が飛び出してきた。俺よりも背が低く、ぱっと見は女の子のように可愛らしい顔立ち。

顔を真っ赤にして、今にも噛みつきそうな勢いで俺に詰め寄ってくる。その瞳には嫉妬の炎がメラメラと燃えていた。……正直、睨まれたところで怖くはない。が…。


「……誰?」


「はぁ!?僕は28番だ!お前、さっき受付で365番って呼ばれてただろ!僕のほうがずっと前からディヴァイアンにいるってのに……なんで新参のお前が、クロウ様に選ばれてんだよ!!」


「……さぁ」


気怠く答えると、28番はギリッと歯ぎしりして、さらに詰め寄ってくる。


「クロウ様が自分の執務室に誰かを呼ぶなんて……それだけで特別扱いなんだぞ!!幹部候補ですら呼ばれない…なのになんでお前なんかが……!!」


まるで恋人を寝取られたかのような顔をしながら、28番は肩を震わせていた。俺は頭をガシガシと掻き、深いため息を吐く。


「…ただの書類整理と掃除ですけど」


「嘘つけ!」


28番は食い下がり、さらに声を荒げる。


「クロウ様がそんな地味な仕事を“わざわざ”指名して頼むわけない!絶対裏がある!お前……まさかクロウ様に媚び売ってんじゃないだろうな!部屋で何したんだよ!?」


「…何もしてねぇよ」


「……っ、は……?」


周囲のモブバイトたちは、ヒソヒソと囁き合いながらこちらを盗み見し、面白がるようにクスクス笑っていた。

28番は息を呑み、さらに顔を真っ赤にして叫ぶ。


「くそっ……僕なんて1年もここでバイトしてんのに、一度だってクロウ様に気づかれたことすらないのに……!

なんでよりによって……お前みたいな奴が……!!」


「……知らん」


ぶっきらぼうに返したそのとき、ポケットのスマホが震え、通知を確認すると画面には“次回出勤要請”の文字。

……今来たばっかりなのに、もう次の呼び出しかよ。


(……勘弁してくれ)


28番のジト目を無視して、渋々と部屋へ行くためのエレベーターへと足を向ける。


「ま、待てってば!!」


焦った声と同時に、28番が勢いよく腕を掴もうと飛び出してきた。だが距離が足りず――


「っ……」


爪がかすめ、腕に細い傷が走る。ヒリッとした痛みが、じわじわ広がった。


「お、おいっ!?血が……っ、わ、わざとじゃねぇからな!?ご、ごめん!!」


28番は目を丸くし、慌てて両手をぶんぶん振っている。

……根っからの悪いやつってわけじゃないらしい。素直に謝る姿が、ちょっと意外だった。めんどくせぇヤツには変わりないけど。


俺は傷口をちらりと見下ろし、首を気だるげに傾けたまま、どうしたもんかと足を止めていた。

そんなとき――


「……365番。そこに突っ立ってないで、さっさと来い」


低く響く声が廊下を震わせた。振り向くと、そこにはクロウが立っていた。

――この前、ロールケーキを買うために並んでいた、あの人だ。


隣を見ると、28番はまるで石像。固まったまま、気まずそうに視線を床へ落としている。


「……今、行きます」


とりあえずそう返したが、このまま28番を置いて行っていいものか迷う。

頻繁に出勤要請されるのも困るし、28番に協力してもらえれば楽になるかもしれない。


「あの…クロウ、様。ここにいる28番にも手伝ってもらってもいいですか」


そう言うと、クロウは何かを探るような視線で俺を見つめる。さすが幹部だけあって、圧が段違いだ。廊下の空気が一瞬で張り詰める。

わずかな沈黙のあと、クロウが低く口を開いた。


「……必要だと思うなら、連れてこい」


クロウは低く一言だけ告げると、踵を返し、足音をほとんど響かせずに廊下の奥へ消えていった。

その背中を見送っていた28番は、しばし呆然としていたが――突然、ぱっと顔を上げる。


「……え、えっ……ほ、ほんとに……?僕、手伝いに行っていいって……?」


目を輝かせ、期待と信じられない気持ちが入り混じった表情を浮かべている。

――そんなに嬉しいことか? 俺からすれば、上の連中に関わるなんざ面倒の極みなんだが。


「お、お礼なんか言わないからな!僕の方がずっと前から働いてるし、別にお前が特別ってわけじゃないし!」


頬を真っ赤に染め、必死に言い訳を並べ立てる28番。照れてるのか、ただの虚勢か、どっちなんだか。


「……はいはい、わかってますよ。ま、よかったな」


肩をすくめて歩き出すと、28番は慌てて後を追ってくる。


「な、なんだよその言い方!べ、別に嬉しくなんか――っ!」


口では否定しているくせに、動きは落ち着かず、どこか浮き足立っている。

わかりやすい奴だと心の中で苦笑しつつ、俺が先を歩き、28番は慌ててその後ろを小走りでついてきた。

そんな妙に落ち着かない足音を背中に感じながら、クロウの部屋へと向かった。

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