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正義の味方にストーカーされてます。〜俺はただの雑魚モブです〜  作者: ゆず


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ストーキングはデートではない2

カフェを出た俺たちは、並んで歩いていた。


――いや、正しくは「並ばされていた」と言うべきかもしれない。

本当は、自然に解散するつもりだった。なのに、気づけば隣にグリーンがいた。


「……帰らねぇの?」


「この後は本屋に寄るんですよね?もちろん、お供します」


「なんで知って……いや、言うな」


こいつに「なぜ」を問うのは無意味だ。検索履歴も把握してるようなやつだ。怖いを通り越して、もはや尊敬すら覚える。

人混みに紛れても、グリーンはぴったり俺の横にいる。周囲にぶつからないよう気を遣ってくれるのはありがたいが、その分、俺との距離が異様に近い。


(……これ、誰かに見られたら完全にカップル...いやストーカーなんだけどな)


「トオルさん、道が狭いので、腕を――」


「組むな。頼むから」


「では、手首だけ軽く……」


「いらん。むしろ迷子になりてぇんだよこっちは」


そんな掛け合いをしているうちに、本屋へ到着する。

個人経営の、小さくて静かな書店。棚は整理され、BGMも流れていない。俺のお気に入りの場所だ。


いつものコーナーに向かおうとすると、背後から声。


「文学棚の隣、エッセイコーナーですね?」


「……なんで俺の動きまで知ってんだよ」


「“トオルさんならこの順番で回る”と、前から予測してました」


当然のように隣に立ち、自然な並びを装うグリーン。あまりに自然すぎて逆に怖い。

無視して本を探していると、彼は一冊の新刊を手に取って差し出してきた。


「トオルさんの好きな作家の新作です。しかも限定帯付き」


「……どこで調べてんだよ」


「愛です。あとこちらの作品もおすすめです。ジャンル的に、好きだと思います」


即答。相変わらず怖い。

でも、選んだ本は的確だった。つい手に取ってページをめくると、グリーンがするっと横をすり抜けてレジに向かう。


「こちらと、こちらの文庫もお願いします」


「は? ちょ、俺まだ買うとは――」


「お代は私が」


「ちょ、自分で払う!」


すでに支払いは完了。グリーンは紙袋を手に、満足げな表情を浮かべていた。


「プレゼントです。帰りにお渡ししますね」


「...今寄越せ。本くらい自分で持つ」


自我の死守のため、半ば奪い取るように袋を受け取る。


「……次は銭湯ですよね?」


もう驚かない。どうせ俺の予定は全部バレてるんだろう。


+


買い物を終えた頃には、もう夕暮れ。

裏道を通って向かうのは、昔ながらの小さな銭湯。地元の人間しか知らないような場所だけど、疲れた日にはここが一番だ。


(あとは風呂入って、本読んで寝るだけだな……早くページ開きてぇ)


そんなことを考えながら暖簾をくぐり、靴を脱ぐ。

隣には当然のようにグリーンが立っていた。念のため、確認しておく。


「……まさか風呂まで一緒に入る気じゃねぇよな?」


「まさか。隣で見守るだけです」


「それがアウトだろ」


「男性浴室であれば、私も入浴可能です。規則上は問題ありませんよ」


「問題は施設じゃなくて、俺のメンタルな」


じろりと睨むと、グリーンと目が合う。

手にはいつの間にかタオルとボディソープ。完全に入浴する気満々じゃねぇか。

どこから出した、その入浴セット。


「トオルさん、背中を流ししましょうか?」


「いらねぇよ」


諦めたようにため息をつき、脱衣所に入って荷物を置く。服を脱ごうとしたところで、グリーンの視線が突き刺さる。


「……そう見られると脱ぎにくいんだけど」


「すみません。すべてが見られると思うと、つい……」


表情は真顔なのに、目だけがギラついてる。

――脱いだら何かを失う気がする。気のせいじゃない。


「トオルさん、そんな無防備に……襲っても、いいですか?」


「やめろ。ここ公共の場だからな?」


「……ということは、公共じゃなければ?」


「違ぇよ、勘違いすんな」


「しかしこれは想定外でした。理性に自信がありません。非常に残念ですが、トオルさんの可愛らしい姿を他人に晒す気はありませんので、今日のところは控えます。でも万が一に備えて、見張りはさせていただきますね」


「……そんな物騒な場所じゃねぇよ」


というか、こいつ今すげぇ怖いこと言わなかったか?


「何かあれば、すぐ駆けつけます。扉越しでも、声は聞こえますので」


「“悲鳴前提”で話すな」


「ではごゆっくり。お風呂上がりのドライヤーは、ぜひ私に」


そう言って、ようやく脱衣所を出ていくグリーン。

俺は深く息を吐いて、服を脱ぎ、浴室へ向かった。


(……なんで、ただ風呂入るだけでこんなに疲れんだ)


湯船に肩まで沈めて、目を閉じる。

扉の向こうからは、しっかりと気配が漂っていた。完璧すぎる監視体制。


「……自由って、なんだっけ……」

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