15.赤いキツネ
幸せな桜色の夢から目覚めると、まだ囲炉裏の火は燃えていて、キツネもそばにいました。のろのろと体を起こしぼんやりしていると、不意に囲炉裏のそばにあるリボンに気が付きました。先生のくれたリボン、さっきまで見ていた先生の夢。
なんだか猛烈に腹が立ってきました。死にゆく者に望む夢を見させてあけるのは優しさでしょうか。施しでしょうか。優しさは時々私を傷つけます。私の中の凶暴な獣が歯を剥きます。
"助けてくれなかったくせに!"
私はリボンを掴むとキツネに飛び掛かりました。キツネは瞬きを一つしただけで動きませんでした。ゆっくりとリボンをキツネの首の後ろへ回し、結び目をつくって左右へゆっくり引っ張りました。私が怪力なら、結び目で首がしまってその後切れて落ちるでしょう。キツネはなにも言いませんでした。ただ黙って私を見ていました。
結局私は首を落とし切ることもなく、だた首元に蝶々結びを作っただけで離れました。
「…似合ってますよ。」
「リボンかい?あたしが?」
キツネは自分の首を見ようとおかしな顔をしていました。
「お似合いです。」
「いや…変だろ。」
キツネがリボンの端に手をかけたので慌てて止めました。
「外さないで!…前掛けと大して変わらないでしょう?」
「前掛け?…神社とかにある狐の?」
そうだと頷くと、キツネは渋い顔をしながらも外そうとするのを止めてくれました。やっぱり優しい方です。変わったのは私の方なのです。
「…そろそろ行こうか。」
キツネの言葉に立ち上がり玄関に行きましたが、履物がありません。困っているとキツネが抱き上げてくれました。どうやら歩く必要がないみたいです。
外に出るとまだ一面に雪が積もってキラキラと陽の光を反射させていました。
「きれい」
そう呟いた息も白くなりましたがちっとも寒くありませんでした。いつの間にか白い着物を着ていました。死装束でしょうか。
私は右手をキツネの首に回し世界を見上げました。よく晴れていて青空が見えました。空から白いものが落ちてきたので、手の平に乗せてみると雪の結晶でした。
「雨ならキツネの嫁入りだったのに。」
私の独り言にキツネは何も言わず、白い山道を登り始めました。私はなんだかふわふわした気持ちで、揺られながら木々に積もった雪と空を見ていました。
「着いたよ。」
キツネに降ろされて見た先には大きな地面の裂け目がありました。近づいて覗くと中には真っ赤に燃えさかる炎が見えました。一緒に覗き込んだキツネも赤くなりました。赤くなったキツネは寂しそうな顔で言いました。
「あんたは騙されてるんだよ。本当はあんたが犠牲になる必要なんかない…帰ろう?あたしが一緒にいてあげるから。」
私は悲しくなって、いっしょうけんめい首を振りました。
ちがう
ちがう
ちがう
なせか言葉は出ず、涙ばかりがポロポロとこぼれます。私はだまされてなんかいない。私は、幸せなのです。だって愛する人に出会えたのですから。希望を持ったまま死ねるのですから。
卑屈な笑顔で周りに媚を売り、人の情けに縋って生きるだけの人生だと思っておりました。生まれたからにはそうして一日でも長く生きのびねばと思っておりました。でも違う生き方もあると、教えてくれたのは先生でした。
「…下がりなさい。」
涙声で命じるとキツネはすっと後ろに下がりました。
私は涙を拭い、宙に向かって言いました。
「この身を、この国の未来の為にどうぞお役立てください。代わりに、役目を果たしましたら、どうか私の魂を先生の側に行かせて下さい!」
キツネが後ろで何か文句を言うのが聞こえましたが私は振り返りませんでした。
ごめんなさい姐さま。私はやっぱり、悪い子なのです。
裂け目に身を投じると、炎の中で母さまによく似た人が笑っていました。
キツネはゆっくり首を振ると山道を下りて行きました。赤いリボンを翻しながら、振り返ることもなく。
最後までお読みいただきありがとうございました。
こちらは「半死半生の宿」からのスピンオフ作品となっております。手っ取り早くこの後のタマについて知りたい方はこちらをついでにお読みください。
タマ的にはハッピーです。
半死半生の宿Ⅱ ep11ボール
https://ncode.syosetu.com/n6231la/11/
(キツネは出てきません)
ありがとうございました。またどこかで。




