◯前代未聞の要求
第35話
「...さてと。藍夏先輩、この嘘吐きホラ吹き野郎はどうするべきですかね?」
「普通でしたら警察に突き出すのが正しいのでしょうけど...」
【警察】というワードが出てきた瞬間に男は慌てて逃げ出そうと試みるが私にしっかりと組み伏せられているせいで身動きが取れない様子だ。
つまり、この男をどうするのかは私達に委ねられたというわけだけど...
(う〜ん、私としては警察を助けになる事はしたくないなぁ...)
私は過去の一件で警察に対して完全な不信感と敵意を抱いている。いくら指名手配犯とはいえ、この男を即座に警察に突き出して警察の助けになるような事をする気にはとてもなれなかったのだ。
「なぁ、頼むよ。警察だけは勘弁してくれって...」
「そうは言いましてもねぇ...目の前に満身創痍の指名手配犯がいて見逃すなんて普通の人はしませんよ。」
常識的に考えれば藍夏先輩の言う通りなのは分かっている...分かっているけど!
「あっ、良い事を思いつきました!」
「良い事...ですか?」
藍夏先輩が何かを思いついたらしく、悪い笑みを浮かべていた。
「はい!ですが、話す前にこの方には眠って頂きましょう♪」
「はぁ?眠ってってどういう事...ぐえっ!」
次の瞬間、藍夏先輩は手刀で男を一瞬の内に気絶させてしまった。
というか、藍夏先輩にも武術の心得があったんだね...
「お嬢様ですからね。幼い頃から護身用として武術の指導を受けていました。」
私の頭の中を見透かしたかのようにニッコリと笑って藍夏先輩はそう言った。もう護身用の域を超えていると感じるのは私の気のせいだろうか?
「話を戻しますが藍夏先輩、何を思いついたのですか?」
「それはですね・・・・・・・・・・という事です。」
「...なるほど!」
藍夏先輩の思いつきはとてもGoodアイデアだと私は感心したのだった。
それから数分後...
「...うっ、まだ痛てぇ...あれは夢...」
「夢ではありませんよ?」
「おわっ!?」
藍夏先輩の手刀によって意識を失っていた男が目を覚ました。
「あっ、ようやくお目覚めになられましたか?」
「おっ...おいっ!驚かすんじゃねぇよ!」
「随分とスヤスヤと眠られていましたね?」
私からすれば遅いくらいだけど目を覚ましてくれたのはありがたい。これで本題に入れるからね?
「お前ら、おっ...俺を警察に突き出すつもりなのか!?やっぱり、懸賞金目当てか!?」
「懸賞金...確かにあなたには高額な懸賞金がかけられていましたね。」
男が意識を失っている間に改めて調べて判明した事だけど彼は指名手配犯という事もあってかなり高額の懸賞金がかけられていたのだ。
仮に普通の人だったら懸賞金目当てに彼を即座に警察に突き出す事だろう...そう、普通の人だったらね?
そう考えると私達に見つけられたこの男は運が良い方だよ...なんて、思ってしまう。
「確かにあなたを警察に突き出して懸賞金を手に入れるというのも選択の一つです。しかし、それではダメなのです。私達、BLACK輝牙の大義に反するおこないです。」
「はぁ?何言ってんだ?というか、BLACK...輝牙?だっけか?それって何だよ?」
「ふふっ、よくぞ聞いてくれました!BLACK輝牙とは世の中の理不尽な正義に反抗するために結...」
「あの〜、輝星ちゃん。先に結論から言った方が良いと思いますよ。そうでないとこの方が困惑するだけです。」
おっと、いけない。興奮し過ぎてBLACK輝牙の話を長くペラペラと話してしまうところだったよ。藍夏先輩の言う通り、まずは見逃してあげると伝えて男を安心させるところから始めないといけないね...
「ゴホン...結論から言いますと私達はあなたを警察に突き出したりするつもりは微塵もございません。何なら、あなたを匿ってあげようとも思ってます。」
「えっ?いや、自分が何を言っているのか分かってんのか?指名手配犯を匿うなんて事したらお前らだって共犯で捕まっちまうぞ?」
「ご心配ありがとうございます。ですが、その心配は不要です。私達はそれくらいの覚悟はできていますので。」
「そっ...そうなのか。だが、俺からすれば話がうますぎる気がするんだが?絶対に何か見返りとか要求してくるんじゃ...」
「指名手配犯も頭が冴えているのですね。もちろん、タダであなたを匿ってあげるほど私は甘くありません。当然のように見返りを要求させていただきます。」
「まぁ、そりゃそうだよな...」
さて、ここからが正念場だね。何せ、この男との前代未聞の交渉が始まっちゃうんだから♪
「でもよ?俺に出来る事なんて限られてるぜ?指名手配犯だから表には出れないから肉体労働なんかはとても...」
「そんな誰でも出来るようなくだらない見返りは求めていません。いいですか?耳をすませてよ〜く聞いてくださいね?私達があなたに求める事を!」
そして、私は男に要求を伝えた。
「あなたには私達、BLACK輝牙の師匠になって頂きたいのです。」




