◯歩く大嘘つき
第34話
4月に差し掛かり、入学式...つまり、私のJKデビューの日が刻一刻と迫っていた。
「はぁ...ライナちゃんと同じクラスだと良いんですけどね...それ以外に友達を作れる見込みは私にはありませんし...」
「そう簡単に決めつけるのは早計ですよ。きっと、輝星ちゃんと気が合う方もいらっしゃるかもしれません。私も輝星ちゃんにお友達ができるようにサポートしますから。」
「藍夏先輩にそこまでしていただけるなんて本当に光栄です...」
「いえいえ、私は神城君や輝星ちゃんの事をBLACK輝牙の同志としてとても大切に思っていますからね。」
私は藍夏先輩と気分転換に散歩をしながらそんな事を話していた。ちなみに特にどこに行きたいとかそういうのはない。本当に行く宛もない状態で歩いている。
だからこそ、見慣れない公園がある場所まで来てしまう事もあるようで...
「おや、こんなところに公園があるようですね。さっきのコンビニで買った肉まんを公園のベンチで美味しく頂きませんか?」
「そうですね!私もお腹が空いてきましたし!」
そんなわけで私達は公園に入ると近くにあったベンチに腰を降ろした。
「ふぅ...じゃあ、いただきま〜す!」
ベンチに腰を降ろして早々に私が手に持っていた肉まんを食べようとしていた時だった。
........っ...
「えっ?」
私の耳にほんの微かに誰かの呻くような?声が聞こえてきたのは...
「輝星ちゃん、どうかいたしましたか?」
「あっ、いいえ!その...何か呻くような声が聞こえたようですが気のせいだったみたいです!」
「そうですか。」
どうやら、藍夏先輩には聞こえていなかったらしい。
改めて周囲を見ても特に変わった様子は見られないし、普通に私の聞き間違い...
...ううっ...
「...!?」
いや、聞き間違いなんかじゃない!やっぱり、何かがいる!
「輝星ちゃん、今のは流石に私にも聞こえました...」
「ですよね!」
藍夏先輩にも聞こえていたみたいだし、これで何かがいるのは確定!
けれども、右にも...左にも...上にも...下にも...正面にも...何かがいる気配はない。何の変わりもない景色が広がっているだけだった。
(...となると、残すは...!)
私が目をつけたのはベンチの後ろにある植込みだった。
「謎の声の主はこの植込みにいる可能性がとてつもなく高いです。私が覗いてみます。」
「危ないと思ったらすぐに離れてくださいね。」
こうして、私が植込みを掻き分けてみると...
「あっ、いました!不審人物大発見です!」
「誰が不審人...痛っ...!」
見るからに怪しげな雰囲気の男の人がうずくまっていた。
「どう見ても不審人物でしょ!特にその格好!」
男の人が着ている服は酷く汚れていて悪臭まで放っていた。そんな光景を見て不審人物ではないと言う方が難しい。
「待て待て...えっと、これには事情があってだな...よく聞けよ?かつての俺は至って普通の生活をしていたんだ。だが、付き合っていた女に気づかぬ間に借金の連帯保証人にされちまってよぉ...今じゃ借金取りから逃げ回る日々よ...」
「そんな事情が...ある意味ではかわいそうと言うべきかもしれませんね。」
「そうだろ!?だから、ご慈悲で食べ物を恵んでくれたって良いんだぜ?」
人を見た目で不審人物と判断してしまった事に私が若干の後悔の感情を抱いていた時だった。隣で黙って私達のやり取りを眺めていた藍夏先輩がまるで思い出したかのような表情で男の人に指を指した。
「どこかで見覚えがある顔と思ったのですが...あなた、矢田蒼一氏ですよね?重要指名手配犯の。」
「えっ?」
今、藍夏先輩は何て言った?目の前の男の人が重要指名手配犯だって!?
「テレビなどでよくニュースになっていますよ。輝星ちゃんはご存知ないのですか?」
「あっ、そういえば...」
男の人の顔を改めて見て私は思い出した。
この男の人...いや、この男の正体は重要指名手配犯の矢田蒼一なのだ。
「まさか、指名手配犯を直に見れるなんて...確か、ソープランドに不法侵入して指名手配の人でしたっけ?」
「いや、ちげぇよ!そんなアホみたいな罪で指名手配されてたまるかっつーの!今から俺の恐ろしさを教えてやるからよ〜く聞いておけよ?」
そう言うと男は頼んでもないのに自らの素性について語り始める。
「北海道のレストランで食い逃げ、東北地方の美術館で椅子を壊して器物損壊、中部地方のとある空き地に排泄物を不法投棄、関東地方でナンパを断ってきたOLの胸を不可抗力で揉んでしまって公然わいせつ、関西地方にいた時に著名人相手に呟いたネットでの発言で名誉毀損、四国地方で高級お菓子を万引き、中国地方で誤って警察官に頭突きして公務執行妨害、しまいには九州地方でひき逃げをしちまってめでたく指名手配ってわけよ!」
いや、決してドヤ顔しながら言う事ではないんじゃ...それに指名手配の割にはショボい罪も多いし...
まぁ、罪がショボいとかそんな事はどうでも良いんだよ。何よりも一番の問題は...
「そんなに罪を重ねておいてあたかも『自分は被害者です!』みたいなかわいそうな人アピールで私を騙そうと考えましたね!白々しいにも程があります!えいっ!」
「ぐぇっ!」
目の前の男はとんだ大嘘吐き、ホラ吹き野郎と言うべきだろう。
私はお仕置きとして男を武術の技で組み伏せたのだった。




