48話 おやぁ?
――翌日。
目が覚めると、記憶通り、俺はガルダーザの拠点の中にいた。
俺がエルナのいた空間にいたことを示す証拠はない。
あれはただの夢だったのだろうか――そんなことを思う間もなく、俺達は急ぎローダンへと向かう。
あまりにもあっさりと倒してしまったため実感はないのだが、レイグいわく、魔王が討伐されたことは人類史に名をのこすほどの功績らしい。
立場のある者として、色々と報告しなければならないことがあるのだろう。
そんなこんなで馬車に揺られること数時間。
俺達は再びローダンへと戻ってきた。
「ここが……ローダン……」
唖然とした表情で、周囲を見渡すナギ。
そんな彼女に、シエルがおそるおそるといった感じで話しかける。
「えっと……やっぱり、ナギさんのいた頃とは違いますか?」
「そうだな……本当にローダンなのかと思いたくなるぐらいだ……」
複雑そうに苦笑するナギ。
少し気まずい空気が続く中、御者席から声が聞こえてきた。
「着きましたよー! レイグさんはもう降りてますよー!!」
それとほぼ同時に、馬車の動きがとまった。
皆と目を交わし、馬車から降りる。
だが――
「……ナギさん?」
ナギの表情が暗いことに気づいてか、リリィが心配そうに声をあげる。
「私は……ついていっていいのか? 私は、血濡れの剣士なのに……ここにきて……」
やはり――彼女の中でエルドラーリアに操られていたことは割り切れないものとして残り続けているのだろう。
どう声をかけたところで、それを全部消してあげることはできないのかもしれない。
だが、かといって彼女の言葉に同調して暗くなるわけにもいかない。
そこで――
「いっ――!? ユウ殿?」
「罰ゲームだよ。今、申し訳ないって思ったでしょ」
デコピンをしてみる。
俺の意図を察したのだろうか。シエルがクスリと笑う。
「あのさ……もし逆の立場だったら、ナギは俺のことを排除するのかな?」
「え――」
「あれはエルドラーリアのしたことだろ。ナギのせいじゃないよ。もし誰かがそんなことを言ってきたら、俺がナギを守ってやる。今回のことは――君のせいじゃない」
「ユウ殿……」
「だから安心しろって。セレンさんにも会いたいだろ」
「それは……そうだが……でも……」
ナギの声は少しだけ震えていた。
俺達からすれば今更――とはいえ、一度『死んだ』彼女にとってはとてつもなく大事なのだろう。
彼女が落ち着くまではそっとしておいた方がいいのだろうか。
――だが。
「いいから、いくぞ。ナギ」
「え――ちょっ!」
「ついてきて。一緒にいこう!」
無理矢理手を掴んで彼女を引っ張ると、ナギはこくりと頷いた。
オールアナライズの情報によれば――彼女はマゾの傾向があるらしい。
ガラではないが、こういう時はぐいぐい行くのが正解な気がする。
「おぉ、ユウ君。長旅お疲れ様。事後報告は私がしておくぞ。宿をとっているから休むといい」
ふと、レイグの声がかかった瞬間、ナギは慌てて手を離した。
「セレンさんに報告するなら、俺達もいきますよ」
「む――そうか? 少し疲れていそうだが」
「も、問題ない……! 私は、セレンと会わなければならないからな……」
「ふむ……そうだな。では、来るといい。セレン様のところへご案内しよう」
そう言って踵を返すレイグ。
ナギが顔を赤らめながら俺のことを見上げてくる。
「ぐぐ……強引なのだな、ユウ殿は……」
「ごめん、嫌ならもうしないよ」
「そういうわけでは……ないのだが……」
きりっとした目つきに似合わない、弱々しい態度。
なかなかに男心をくすぐる可愛らしさだが、今はそんな彼女を愛でている場合ではない。
「分かった分かった。ほら、皆も行こう」
俺の言葉に、シエルとリリィは力強く頷いて答えてくれた。
†
「あらら? おかえりなさいレイグ。どうやら、うまくやってくれたようね」
一人で寝るにはあまりにも大きなベッドに横わたるのは、穏やかな笑顔を浮かべる老婆――セレンだった。
レイグを先頭に、彼女の方に近づいていく。
「えぇ。彼が全てをこなしてくれました」
「あらら。見た目は普通の男の子なのに……やはり、只者じゃないようね」
「はい。素晴らしい功績をおさめてくれました。セレン様……彼は、我ら人類の歴史を変える逸材です」
「あらあら。レイグにそこまで言わせるなんて貴方は――」
と、セレンが言葉を切らす。
その視線の先にあるのは――ナギだった。
「……あ、あらら……おかしいわね。私、幻が見えるわ……お迎えがきたのかしら……」
「セレン……なのか……」
重苦しい表情のまま、ナギが後ろから前へ出る。
そのままセレンの手にそっと触れた。
「ナギ……?」
無言で頷くナギ。
ミラ・エルツが封印されたのは百年以上も前――セレンがナギと同じぐらいの年齢の頃の出来事だ。
その戦いで、セレンは友を失い、ナギは時を失った。
そんな二人が何を想っているのか……俺には想像もつかない。
「どうして……貴方は……」
「私は……ユウ殿に……その……」
無言のまま見つめ合う二人。
さすがにこの間に入るような無粋な真似はできない。
しばらくの間、その沈黙を見守る。
「おやぁ? ここが僕の屋敷になるところかなぁ!?」




