40話 償いたまえ
城の中を進んでいくと大きな広間に出た。
奥にあるのは、映画にでも出てきそうな二つに分かれた大階段。
何階も上まで吹き抜けになっており、全体はドームのような構造になっている。
その階段の上には、黄金の鎧に巨大な赤のマントをまとった者が立っていた。
シルエットこそ人に近いが、人ではないことははっきりと感じられる。
全長3メートルは超えるだろう巨体に、凶器のように伸びた巨大な爪。
魔王のイメージにふさわしい、禍々しくも堂々とした立ち姿だ。
「余の庭を荒らしたのは貴様らか」
俺達の姿を見たその者の声は、身の毛がよだつほどに低く、そして不気味なものだった。
ナギが強張った顔で俺に視線を投げかけてくる。
間違いない。彼こそがエルドラーリアだ。
「余の憩いの時間を妨げし愚か者よ。余の財を荒らした愚行、どう責をとる?」
「財? あの竜のことか」
「然り」
なんとも仰々しい言い方だ。
いかにもな上から目線の言葉遣いに、内心で冷笑する。
「貴方がエルドラーリアって魔王様か?」
「愚問。余の威光を眼前にして悟らぬ者に、語る言葉はなし」
「貴様……!」
その態度に痺れを切らしたのか、ナギは腰を低くして居合の構えに入った。
ゆっくりとナギに頭を向けるエルドラーリア。
「はて。余の威光の加護を受けながら、なにゆえ余に敵意を放つ」
「それこそ愚問だな。人の尊厳を――命を弄んでおきながら、自分が好かれると思っているのか」
「解せぬ。価値なき言葉を吐露するその口、消してくれよう」
「っ――!?」
と、エルド―ラリアが手を前にかざすと、そこから巨大な黄金の槍が現れた。
一瞬にも満たない刹那の間に、黄金の槍はナギの頭を貫こうと襲い掛かる。
ナギがそれに気づいて刀を抜こうとした時には、既に黄金の槍はナギの眼前に迫っていた。
「あのさ、気取った喋り方はいかにも魔王様らしくていいんだけど。なに言ってるのか分かりにくいんだよ。もっと普通に話さないか」
――だが、その槍はナギを貫くには至らない。
あまりにもあっさりと掴むことができてしまった。まるで爪楊枝でもつまんでいるかのような感覚だ。
ここまで見掛け倒しの攻撃だと、エルド―ラリアには悪いが笑ってしまいそうになる。
「余の矛に触れながら、まだ命を保つか。矮小なる族に相応しないその力――興味深い」
だが、さすがにその攻撃はエルドラーリアの本気ではなかったのだろう。
特に動揺したそぶりも見せず、彼は仁王立ちのまま言葉を続ける。
「そんなことよりさ。とりあえず人の住んでるところに侵攻するのはやめてくれないか」
「強者が弱者を支配するのは世界の理。然れば、余が世界を支配せずとして如何とす」
「だから何言ってるのかよく分からないんだって……」
話し合いが通用する相手ではないことは分かっているが、そもそも言葉のキャッチボールすらできそうにない。
とはいえ、いきなりこちらから暴力を振るうのは気が引ける。
とりあえず建前だけでも通しておくとするか。
「とにかく、ナギに呪いをかけたのはお前だな? ナギに魔物をけしかけたのも。それをやめてくれないか。ナギ、困ってるみたいだからさ」
「呪いと表すとは無礼なり。余の光は、死した者の命を咲かす救世の理である」
「貴様――よくもそのようなことを言えたものだなっ! 私に同胞を殺させた気分はどうだ!!」
「余の威光の届かぬ土地存すること、許し難し。矮小なる族よ。余の支配のもと、余の血となり肉となれ」
「あー……よく分からないけど、話し合いで解決はないってことでいいんだな? こっからは殴り合いになるぞ」
ナギとエルドラーリアの言葉は、もはや会話になっていない。
とにかく、彼としては人間への侵攻を止める気がないのはたしかなようだ。
少なくとも義は通した。彼が力で人を屈服させようとするのなら、こちらも力で対抗するしかない。
「幾多にも重ねるその不敬。竜を屠ることで驕ったか」
「驕っているのはどっちだよ。なんでそんな上から目線なんだ」
「不快なり。矮小なる族よ。万死をもって、余への不敬を償いたまえ」
ふと、エルドラーリアが腕をあげる。
黄金の鎧の胸の部分に埋め込まれた赤い球が輝き始めた。
「ユ、ユウさんっ! これは……」
青ざめた表情でリリィが俺の裾を掴んでくる。
広間の周囲には人魂のような炎が多数現れていた。
その炎の中から、ゆらりと骸骨の人や魔物が現れてくる。
「雑魚キャラだな。まぁ……適当に相手してくれ。ダメージは俺が肩代わりするから」
「……大丈夫なのですか?」
言葉とは裏腹に、シエルの表情は心配するようなものではない。
「別にこいつらも俺が倒してもいいけどさ。良い戦闘訓練になるんじゃないか」
「ふふ……そうですね。魔王の配下と戦う機会など、早々めぐりあえるものではないですから」
どこか嬉しそうに蛇腹剣を構えるシエル。
それに続いて、ナギも不敵に微笑んだ。
「私にも剣士の矜持がある。ユウ殿が集中できるよう……その背中、護らせていただこう」
「う、うぅー……リリィも頑張りますっ!」
「はは。かっこいいところ、期待してるぜ。皆」
さて――それでは、魔王様のお手並み拝見とさせていただこう。




