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39話 真っ向勝負で

 元の世界にいたころ、俺は根っからのインドア派だった。

 運動は得意ではなく特に勉強が出来る方でもなく。

 家にいる時はぼーっと動画を見ているだけの特に取り得なんてない、平凡かそれ以下の人間だった。

 だから、こうして高い山を登るなんてことは初体験だったし山頂からの景色なんてこの目で見たことがなかった。

 でも――


「……なんだあれ」


 目の前の光景が山頂の景色としてとにかく異常なのはよく分かる。

 まるで巨大な隕石でも落ちてきたのかと思うほどの巨大な火口。

 そこは完全に黄金に染まっており、火口の底には黄金の城が建てられている。

 中央部分は、アラビアの建築物を彷彿とさせる王冠のような派手な造形があり、その上で黄金の竜がたたずんでいた。


「あれがエルドラーリアの神殿だ。言わなくても分かるとは思うがな」


 そう言いながら、ナギが刀の柄に手を当てる。

 リラックスはしているものの、いつでも抜刀ができるような体勢だ。


「う、うわー……なんか……その……キラキラですねっ!」

「そうだな……火口にこんな城を建てるなんて良い趣味してるよ……」


 やや上ずった声をあげるリリィ。

 たしかに圧巻の見た目だが、お世辞にも美しいとは思えない。

 趣味の悪い成金の自己満足に付き合わせられているような、なんともいえない嫌悪感が沸いてくる。


「ユウ殿。一応伝えておくが、私達のことは既に相手に気づかれているぞ」


 と、ナギがそう言いながら俺の肩をちょんちょんと触れてきた。

 たしかに、城の頂上に佇む竜――ミラ・エルツは、はっきりと俺達の方へ視線を向けている。


「うん。皆は俺から離れないでね。ダメージディポートの効果が切れたら大変だから」


 緊張のはしった顔で皆が頷く。

 火口周辺から底にある神殿まではとくに道がない。

 乱雑に、急傾斜を滑って降りていく。

 火口の底は全て金に染まっている。

 まるで異空間に放り投げられたような気分だ。


「ユウ様、竜が……」

「あぁ。来たな」


 俺達が火口の底に降りてきたのを確認したからだろう。

 その竜は、翼を雄大に羽ばたかせながら俺達の前へ降りてきた。

 黄金に染まったその巨体は、周囲の黄金と相まって眩く光を反射する。


「これが……白竜ミラ・エルツのなれの果て……」


 ごくりと喉を鳴らすナギ。

 白竜――とはいうものの、その姿に白の要素はどこにもない。

 体の全てを黄金に侵食された竜は、禍々しさと同時に憐れみさえも感じさせる姿をしている。


「ユウ様……恐ろしいマナを感じます……この力、おそらくガラ・ドーラよりも……」

「うぅー……リリィ、こんなに間近で竜をみたことなんて、初めてです……」


 リリィはともかく、戦い慣れしたシエルですらも恐怖を隠しきれていない。

 それほどまでに、この竜の強さは本物だということか。



 ――でも、やっぱ全然怖く感じないんだよなぁ……



 子供が必死になって背伸びして自分の大きさをアピールしている姿を見ているような感覚だ。

 こちらに向かって咆哮を放つ竜。

 でも、まるで猫が威嚇している姿を見ているような気分だ。

 視覚情報と自分の内心とのギャップに、俺自身が驚いてしまっている。


「む……自信がありそうだな。何か秘策でもあるのか?」


 ふと、ナギが俺に声をかけてきた。

 俺に問いかけてはいるものの、今にも襲い掛かってきそうなミラ・エルツを前にして、ナギは居合の体勢に入っている。


「秘策なんてないよ」

「なに……?」

「真っ向勝負で倒そう」


 皆を後ろに、ゆっくりと門へと歩いていく。 

 すると、ミラ・エルツが咆哮と共に腕を振り上げてきた。


「ユウ殿っ! 危なっ――」

「クリムゾンバースト」


 ――それが、俺が見た、ミラ・エルツの最期の姿だった。

 巨大な火柱が一瞬にして竜を包み込み、焼き払う。

 凄まじい轟音の中で聞こえてくるのは竜の断末魔の叫び。


「っ……!?」

「あ、あわわ……これが、ユウさんの魔法……!?」


 十数秒が経過しただろうか。

 俺が生み出した炎が螺旋の渦となって消えていくものの、竜の姿は見えてこない。

 しばらくすると、炎は完全に消え、周囲を静寂が包みこんだ。


「よし。倒したな。あの中に入ろう。多分、エルドラーリアがいるんだろ?」

「…………」

「…………」


 皆、唖然としたまま動かない。


「ばかな……黄金の呪いを受けたミラ・エルツを瞬殺……? 普通ではないと思っていたが、まさかここまでとは……」


 唖然とするナギ。

 その手は刀を手放し、顔は若干青ざめている。


「行こう、ナギ。黄金の呪いなんてふざけたことしたやつに、リベンジしにいこうぜ」

「…………」


 落ちている刀を手に取って、ナギに渡す。

 少しの間を置いて、ナギがはっと息を吸い込んだ。


「ユウ殿……貴殿は、人間なのか……?」

「はは……一応な」


 ナギの問いに苦笑いで答える。

 地球にいた頃の自分の常識からすれば、この世界の人間の身体能力だって人間かと疑いたくなるぐらい高いのだが――

 まぁ、俺の力は女神の恩恵のおかげだし、あんまり胸を張れるようなことでもない。

 そこまで褒められるのもくすぐったくて苦手なので、とにかく話題を反らすとしよう。


「ほら、次は魔王様と戦うんだから。あと一息、頑張ろう」

「……あぁ。何からなにまで済まないな。ユウ殿……」


 どこか自嘲気味に笑いながら刀を受け取るナギ。


 さて――エルドラーリアとはどんな奴なのだろうか。

 こんな感じであっさりと勝てるといいのだが――


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