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 ☆★ 昨夜 ☆★


 アルタイル城内、中央部の北東塔屋上。

 少々早い夕食後のレティア姫とユース宰相は、散歩をして、そこまでやってきていた。

 2人の目的は日没を眺めて、その後星空を観ること。

 アルタイルでは、もう間も無く夏が終わるという時期。

 今夜の散歩場所は、季節の変わり目には、幻想的な空が多いと本で読んだレティア姫の希望だ。

 レティア姫とユース宰相は屋上まで来て、並んで立ち、薄雲多い夕焼け空を眺めた。

 頭上はまだ青々とした空だが、沈む夕日近くは鮮やかな茜色。その間のグラデーションに、太陽が沈む前の最後の眩さに、レティア姫は息を飲んだ。


「綺麗……」


 レティア姫の視線は眼下に広がる、美しい城下街と夕焼け空に釘付け。

 一方、ユース宰相の視界は、風に艶やかな黒髪を踊らせ、感激顔をしているレティア姫である。

 日没が始まりつつあるが、まだ少々気温は高い。

 階段を延々と登り、汗を掻くなんて嫌だな、と内心思っていたユース宰相だが、今はもう真逆である。


「ああ、綺麗だ」

「ええ。ふふっ、セルペンスも見るのね」


 レティア姫がそう口にした時、彼女の白いレース地のドレスの胸元から、ニュッとセルペンスが姿を現した。

 しかし、すぐにサッと引っ込む。そうしてから、またニュッとセルペンスは体を出した。


「眩しいけど見たい? セルペンスには眩しいのね。ふふっ、くすぐったいわ」


 レティア姫はほんの少し身を捩り、クスクス楽しそうに笑った。

 するとセルペンスは似た動作を繰り返した。


「ちょっ、ちょっと。楽しい? って楽しいのではなく、くすぐったいのよ。あはは、やめて」


 キャッキャと無邪気に笑うと、レティア姫は両手でセルペンスを掴み、自分の胸元から引っこ抜いた。


(棒がレティアの胸に挟まれて、上下……)


 これを、ユース宰相は穴が開くほど、という熱視線で眺めていた。

 レティア姫全体ではなく、風と汗により体に少し密着したドレスが覆う胸のみを。


(挟みたいな。いや、大きさ的にどうだ?)


 レティア姫は2人でロマンチックな景色にウットリ気分。

 不埒なユース宰相の眼差しにはまるで気がつかない。


(私の胸だというのに、レティアは相変わらず嫌がらないな)


 脳内がピンク色だと見抜かれないように、ユース宰相は穏やかで優しく見える微笑を浮かべた。


(少し大きくなったか? くそっ、それなら揉んでおくべきだった。勿体ない)


 ユース宰相は目を瞑り、レティア姫のドレスに手を掛ける想像をした。

 まだ成長するなら、今の状態を1度味わっておきたい。

 頭の中で手順をシミュレーション。しかし、彼の前にレティア姫が立ちはだかる。

 掌サイズの大きさ。子供っぽい白地に青い小花柄ワンピースを着ていて、背中にふわふわの白い羽が生えたレティア姫の幻覚。

 この幻覚は、ユース宰相に向かって無邪気にニコニコ笑った。

 更には「ユース様。大好きです」と溌剌と告げる。


(清楚可憐な純情天使のドレスを脱がすなんて出来ない! くそっ、畜生、こんな色気のない女性には欲情出来ない。肉欲の悦楽ではなく、パフェを食べさせて喜ばせるべきだ)


 ユース宰相は心の中で、レティア姫に対して大変失礼な台詞をぶちまけた。

 元々欲情の始まりはレティア姫の胸だというのに。

 1度目を開くと、ユース宰相はレティア姫を再度眺めた。

 

(挟むなら倍くらいの大きさだよな)


 ユース宰相は思考を切り替えることにした。


(巨乳のうち、柔らかさが断トツだったのは……)


 ユース宰相の瞼の裏に、おっぱいが並び、全裸の女性達が浮かびそうになる。

 そこに、再びレティア姫の幻覚が現れた。

 パタパタ羽を動かしながら、氷のような冷酷無慈悲な眼差しでユース宰相を見据える。


(浮気とは最低です。浮気をする男性は嫌いです。ユース様、さようなら)


 ツーンと顔を背けると、レティア姫の幻覚は飛び去ってしまった。


(んなっ! 嫌い……。さようなら……)


 ユース宰相は壁に手をついて項垂れた。


「ユース様、疲れです? 大丈夫ですか?」


 レティア姫がユース宰相の背中にそっと手を置き、ユース宰相の顔を覗き込む。


「ああ、いや、夕焼けには悲しい思い出が多くて……少し……」


 悲しそうな表情を作ると、ユース宰相はサッと移動してレティア姫に後ろから抱きついた。

 夕焼けに悲しい思い出など全くなく、口から出まかせだ。

 

(アホな妄想をして凹んだなんて絶対言えない)


「ユース……さ……」

「これからは、君と見たこの景色を思い出して、幸せな気持ちを抱ける。ありがとうレティア。愛してる」


 そう言うと、ユース宰相はレティア姫の頬に唇をそっと押し当てた。


(嫌われてないな。当然だ。私は浮気していない)

「ユース様……」


 くるりと体の向きを変えると、レティア姫は背伸びをした。

 真っ赤な顔で、ギュッと目を閉じたレティア姫に、ユース宰相はそっと顔を近づけた。

 早かったのは背伸びをして、ユース宰相のシャツの胸元を掴み、引き寄せたレティア姫の方。

 チュッ、と唇にキスされたユース宰相は固まった。


「私も……好き……ですよ……」


 俯くと、レティア姫は両手を後ろに回して、もじもじと照れた。目を泳がせて、誰が見ても恥ずかしくて仕方がないという様子だ。


(なっ。何! かっ、かっ、かっわいい! 可愛い!)


 ユース宰相はレティア姫を抱き寄せて、腕に力を入れた。


(よし。12日ぶりにキスするか。恥ずかしいのに我慢出来なくて自分からとは、いじらしくて可愛い。焦らした甲斐があった)


 ユース宰相は目を閉じて、レティア姫にキスを落とした。

 恥ずかしくてもう限界、という素振りを見せるまで続けようと、ユース宰相はキスを繰り返した。


(ユース様、レティアはもうお子さまキスくらい余裕ですよ)


 ワンピース姿から肌着姿に様変わりしたレティア姫が、ユース宰相の頭の中に登場。


(次のステップに移行して、また熟れきらないこの果実をた、べ……)


 ユース宰相の脳内レティア姫が、自分の胸を揉みしだく。そこへ、ワンピース姿のレティア姫が登場。


(きゃああああ! 何てことを言うのよレティア! そんなことをしてはダメよ! まだダメよ! 無理よ! レティアは清楚可憐な純情天使なの)

(煩いわね! このお子ちゃま! ユース様と次のステップよ!)

(無理無理無理。ユース様だって無理でしょう? このレティアの胸を触るの?)


 壊滅的に色気の無い姿のレティア姫(幻覚)に対して、ユース宰相は首を横に振った。

 色気はないが、可愛さだけで既に鼻血が出そう。そんな格好悪い姿は見せたくない。そう心の中で呟きながら。


(こんなにキスしておいて、レティアはまだ色気の無い青臭い小娘だなんて言うですか!)


 可愛げのない子憎たらしい怒り顔のレティア姫(幻覚)に対して、ユース宰相は首を横に振った。

 いやいや、ディープキスや胸を少し揉むくらいなら許される気はしている。怒らないでくれレティア、と心の中で呟きながら。


「ユース様?」


 レティア姫から見ると、散々キスした後に、いきなりジーっと自分を見つめているユース宰相という姿。


「ん? ああ、君が可愛いから考え事してた。次のデート先とか」

「あ、あの、星も見たかったのですが、あつ、熱くて……。戻りません?」


 汗臭いと思われたら嫌だと、レティア姫はユース宰相の体を手で押し、スルリと彼の腕の中から抜け出した。


「そうだな。星なら湯浴み後、涼しくなってから部屋のベランダから見よう」

「はい」


 ユース宰相に手を繋がれると、レティア姫はニコニコ笑いながら頷いた。

 

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