10.結末
子供達をさらった実行犯のアリスは、魔法省の職員が直々に捕らえにきた。そして、『効率の魔女』にも一時的であるが、有効な拘束の魔道具を特別に使用されて、王宮に連れて行かれた。
アリスの処遇は魔法省管轄で行われる予定であったが、セリウスの介入があり、国王の許可の元、セリウスに一任されることになった。
そして、首謀者の院長は…。
彼女はレイモンの強力な睡眠魔法で眠らせたまま、騎士団の取調室にて、覚醒させて、もう逃げられない状況を理解させた。
その後は、彼女も無駄な抵抗はやめて、全てを自白した。
「じゃあ、子供達誘拐を認めるのだな。」
「…はい。」
「わかった。
キルシェ孤児院元院長。
アンナ・キルシェ
お前を正式に罪人として扱い、とりあえず、エガート地区の留置所へ送る。
正式な罪状とその判決は追って知らせる。連れていけ。」
取り調べをしていた騎士がそう言って、院長を連れて行こうとするが、何やら騎士の詰所入り口あたりで揉めているような言い争う声が聞こえた。
何事かと見ると、院長が捕まったことを聞いて、院長をここまで追ってきた男がいて、中に入れて院長に会わせろと無理を言っていた。その男は、レイモンも見覚えがあった。
ウィルという名前で、若返った院長の恋人だった男である。
院長が抵抗もせず自白したため不要であったが、実は秘密諜報部員の1人が、院長が抵抗した際の駒として使うために事情を話し、こちらに連れて来ようとしたところ、ウィルが1人で飛び出して来たのであった。
騎士に拘束された院長を見ると、顔をしかめながらも近づくウィル。
「院長!やっと会えた。」
「何故、あなたがここに…?」
「事情は全て聞いた。俺の恋人のアンナのことも。」
「!!」
「そして、子供達のことも、アンナ。」
「…わ、私は!」
「アンナ、罪は償わないといけないが…。」
「…ええ。」
「でも、その前にどうしても聞いて欲しいことがある。
実は俺は、そのままのあなたに、初めて会った時から恋をした。
でも、あなたは神に仕えるシスターな上に、あの立派な孤児院の院長で、おまけに元貴族と聞いて。大した職業でない上に、年下の俺なんかには高根の花で、この恋は決して実らないとあきらめた。
あきらめた時に、また別なアンナに出会った。
アンナから俺に告白してくれて、おまけに、あきらめた相手と年齢以外そっくりで、そのアンナにもすぐ惚れて、これが二度目の恋かと思ったら、一度目の相手と同じだったなんて!
俺はどのあなたでも愛せるということがよくわかった。」
そう言って、微笑むウィルに、アンナは嬉しいという気持ち以上にただ、驚くばかりであった。
「そ、そんなことが…。」
「愛しているんだ、どのアンナでも。」
「…私はもう50歳近くの者よ。ありえないわ。おまけにもう罪人だし。」
「俺のために犯した罪なら、俺も同罪みたいなもんだ。だから、俺ができることをする。
あなたが罪を償って出所するまで、あなたをずっと待っている。」
「そんな、無理よ。無駄な期待はさせないで…。」
「いいや。無駄なんかじゃない。あなたが出所するころには、俺もいいおっさんになっているだろうから、お互いの年齢差なんて気にしないで付きあえるようになっているはずだよ。」
「そんなことは…。」
「大丈夫!二度も恋した相手から早々に乗り換えられる程、俺が器用じゃないのを知っているだろう?だから、必ず待っている。出所したら一緒に暮らそう!」
「…ウィル、いいの?」
「ああ、待っている!」
「ウィル!!」
「アンナ!!」
院長を拘束していた騎士は、空気を読み、一時的に院長の拘束を外してくれたので、二人は別れの抱擁として、しっかりと抱き合うのであった。
そんな院長達の姿と成り行きを呆然と見ていたレイモン。
周りの騎士達も呆然と見ている者が多かったが、拍手し、祝いっている者達や、中には涙を流して感動している者達もいる。しかも、横で「よく言った!」「男だ!!」「罪を償って苦難を乗り越えれば、きっと幸せがまっている!」などの応援らしきものまでしている者達まで…。
思わず近くにいて一緒に呆然としていた騎士に聞いてみるレイモン。
「…ねえ、これなに?どうゆう状況?」
「えっと、俺もよく事情はわからないが、要は身分差、年齢差を超えた恋人同士の誕生?ある意味、けなげな恋人達の図?」と騎士までも疑問形で答える。
深い深いため息をつくレイモンであった。
とりあえず、レイモンはもう王宮に戻ることになり、レイモンはリーガンやアンディなどの友達に別れの挨拶と荷物を取りに孤児院へ一旦、戻った。
レイモンが孤児院の廊下で、ぼんやり歩いている時であった。
アリスの魔力的腹の中から救出されたスタンリーが反対側の廊下を歩いていて、レイモンに気付くと近寄ってきた。
「あ、お兄ちゃん!僕を人さらいから助けてくれてありがとう!あらためて、僕はスタンリーだよ。お兄ちゃんは?」とスタンリーがレイモンに挨拶してきた。
「ああ。スタンリー、無事でよかったね。僕はレイだよ。」
「じゃあ、レイ兄ちゃんだね!」と無邪気に微笑むスタンリー。
スタンリーに「レイ兄ちゃん」と呼ばれ、やや嬉しくなったが、もう自分はここにいなくなることを寂しく思うレイモン。
事件のことはアリスの亜空間から戻ってすぐに院長からスタンリーも口止めされていたが、元々、あのアリスの亜空間がなんだったのか、子供達にはよくわからず、口止めするまでもない状態であった。
とりあえず、スタンリーはレイが人さらいにさらわれていたところを助けてくれたことだけを覚えていたようだ。
「あ、そうだ!ねえ、レイ兄ちゃんはシスター・アリスを知っている?僕、ここに戻ってからずっと探しているのにいないの。
僕ね、前に何度か悪い人から狙われたけど、シスター・アリスがいつも助けてくれてね。
だから、シスター・アリスが大好きなんだ!
でも、僕を見るといつもすぐ鼻血が出ちゃうから、僕、鼻栓をいっぱい持ち歩いているんだ~。ふふふ」と笑うスタンリーにレイモンは痛ましく感じた。
アリス。お前、随分、罪なことをしたな…。
何度も変態達の手から守った挙句、アリスのことをこんなに慕うスタンリーを、院長に命令されたからといって、1年近くも、魔力欲しさに、さらって無理やり眠らせて魔力を喰っていたなんて。
「…スタンリー。シスター・アリスは、王宮に勤めることになったから、ここには当分、戻ってこられないんだよ。」
「ええー!そうなの!!僕、お別れしてないよ!?
何で?僕が人さらいにさらわれていたから?それとも、王宮の方が僕よりも美少年がいるからお別れもせずに飛んで行っちゃったのかな~?」といって悲しそうにするスタンリー。
アリス、お前本気で何やっているの?
こんな小さい子に飛んで行くくらい美少年好きって思われて…。
レイモンはアリスに突っ込みを入れたい気持ちでいっぱいになった。
そして、レイモンはアリス達のいなくなった孤児院で、アリスがやっていたように悪い貴族や人さらいに、子供達が狙われず守れるような新たな人材を手配するようにセリウスに頼もうと決意した。
ただし、アリスよりもまともな人材を!




