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書籍化記念ショートストーリー『危機感』


 セオドアとローズマリーはガゼボでお茶会をしていた。


 少し風の強い日で、びゅうと風が吹いてローズマリーはそっと髪を抑えて風に乗せられて飛んできた木の葉を見やった。


「それで、クロエさんがローズマリーからもらった魔法具を絶対に使ってしまわないように、装備を山ほど用意するようになってね」


 木の葉はふわっと風に煽られて、見事にセオドアのミルクティー色の髪の上にそっとのった。


「名案だろうって自慢するクロエさんに、シェリルさんとイーディスさんは、なんでか対抗心を燃やしてこぞって自己防衛のための魔法具を買いあさってて……」


 彼の話はもちろんきちんと聞いているし、装備を調えるきっかけになったなら良かったと思うのだが、木の葉が気になってローズマリーは無言で手を伸ばした。


「ッ!」


 すると、彼は目をぎゅっとつむって体を硬くした。


 その過剰な反応にローズマリーも驚いて目をパチパチと瞬いて、それからふと思い出した。


(そういえば、学園街でデートしたとき……あのときも……)


 彼は頭を触られると過剰に驚いて飛び退いていた。


 今は椅子に座っているから、こういう反応になったのだろう。


 突然のことに驚いたとしてもあまりに過剰な反応だと思った。


「……」


 手を引っ込めてじっとセオドアを見つめていると、彼はそろりと目を開いて、ローズマリーを窺うように見やる。


 それから、カッと顔を赤くさせて顔を隠すみたいに手で覆って弱々しい声でローズマリーに言う。


「ご、ごめん」

「いいえ……やっぱりあなた、頭を触られるのが苦手……なのかしら」


 それから、学園街でデートしたときのことも加味してそう問い掛けた。


 その言葉にちらと、手を少しずらし目元だけを出して彼はローズマリーと目を合わせる。


 ちょこんと髪に葉っぱを乗せたまま。


「……笑ってくれていいんだけど」

「ええ」

「あ、頭を……撫でられたことがなくて……っていうか、頭に触られていい思い出がなくて……」

「……」

「だからびっくりしちゃうんだよね」


(いい思い出がない……?)


 ローズマリーは彼の言葉に一瞬ピンと来なかった。撫でられたことがないということだけならば、彼のことを育てたマルヴィナのことを考えれば自然なことだと思えた。

 

 しかし、頭に触られていい思い出がないというのはどういうことだろうと疑問に思う。


 それから有り得そうな答えにたどり着いた。


「こ、子供っぽいよね」


 セオドアは恥じらうようにそう言ったがローズマリーはそうは思わなかった。


 反射的に驚く……いや怯えるようなことをされたのかもしれない。その名残が残っていることを子供っぽいなどとは思わない。

 

 けれども、同時に彼になんと返したら良いのかもまた難しい問題だ。


 慰める、はぐらかす、笑い飛ばす……とたくさんの反応が思い浮かぶ。


「……でも……全然、慣れる、から。……だってローズマリーもあんなに僕に許してくれたんだもん」


 ローズマリーが反応を返す前に、彼は顔をパタパタと仰ぐ仕草をしながら続ける。


「どういう意味かしら?」

「あ、その、ほらこの間の……僕が嫉妬したときに、僕は君の特別だって示してくれたでしょ?」

「……ええ」


 たしかにそんなことがあった。彼がクロエ達に嫉妬しているという話を聞いたときに、なんでもしていいと彼に言った。


 それは、つまるところ男女として特別な相手にだけすることをしても良いという意味だった。


 しかし彼はそれを別の意味に捉えている。


「あれ、すごく嬉しかったんだ。だから僕も、君がどこをどう触ったって許す……って言うか嬉しいし、絶対受け入れようって思うんだよね」


 なにをしても良いといったローズマリーの言葉は、どんなふうにスキンシップをしても許されるというふうに解釈されたらしく嬉しかったのでセオドア自身もローズマリーに同じことをしたいらしい。


「そのためには、な、慣れるよ。だから気にせず、僕になんでもしていいから!」


 彼は覚悟の決まった瞳でそう言った。


 それは、あの日とまったく逆の状況で捉えようによっては、殺し文句だ。


 その言葉につけいれば、どんなふうにも関係を進められる。しかし今の彼はただまっすぐに真剣で愛情に満ちていて、まったくよこしまな気持ちがない。


「……そうねぇ……嬉しい」


 ともかくセオドアのその意気込みに対する気持ちを口にする。


「よかった」


 彼は屈託なく笑う。


「でも、なんでも、なんて簡単に言ってはいけないと思いますの」


 そして続けて、ローズマリーは少し苦い顔をして付け加えた。自分のことを棚上げしているわけではない、ローズマリーはわかっていて彼になんでもしていいと言ったのだ。

 

 しかし彼は無自覚だ。それはいけない。


「……貴族として?」

「一人のあなたとして。……なんでもしていいなんて言葉を異性に言うなんて思わぬ火傷をするかもしれないでしょう?」


 ローズマリーが言うとセオドアはキョトン、とした。


 それから「やけど……?」と少し考える。しばらくしてぱっと目を見開いて「エ」と短い声を出した。


「あ」

「……」

「っ……あ…………え?」


 その顔にやっと、彼が今自分で言った言葉の危うさに気がつく。そしてきっと以前ローズマリーが言った言葉の重大さにも気がついた……だろう。


 驚きに握られた拳が震えていて、ぱちっと合った目をセオドアは即座にそらして、挙動不審だ。


「……」


 しかしこちらを見て、混乱した顔でセオドアはローズマリーになにかを問い掛けようと口を開く。


 けれども声は出ない、言わないままただじわっと汗をかいていた。


 まさかこれほど時間差であのときの言葉が伝わるとは思っていなかったが、彼の慌てようを見ているのは少し面白かった。


「っ、…………き、気をつけます。いろ、いろ、と」

「ええ、それがいいと思いますわ」


 それから彼は、なんとか取り繕った振りをして、先ほどのローズマリーの言葉に返答した。


 その言葉に満足してローズマリーはにこりと笑う。


 意味がわかっただけでこの様子では、まだまだこの先に進むのは時間がかかりそうだと思ったが、こういう反応の一つ一つも噛みしめて進んでいくのはきっと楽しいだろうと思ったのだった。




お世話になっております、ぽんぽこ狸です。


本日「水に流してなんかいませんが?」が書籍化しました!


タイトルは「実力を隠した冷遇才女、国一番の宮廷文官になる~モラハラ婚約者から「俺より目立つな」と言われたのでその通りにしたはずが、大活躍してました~」となっております。


書籍版は、一章まるっと書き下ろしし、推敲を重ねより皆様に楽しんでいただけるようになっていると思います。


表紙と挿絵は祀花よう子先生に描いていただきとてもかわいらしい仕上がりです!



こうして電子書籍化できたのは、読者の皆様の応援あってこそだと思います。


改めて、いつもありがとうございます。これからも、読者様の期待に応えられるよう、日々努力して行きたいと思っています。





購入については下記のリンクから、販売サイトに飛べますのでどうぞ。


https://www.berrys-cafe.jp/bookstore/n14055


 以上です。ぽんぽこ狸でした。



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