37 お茶会
事務室の修繕が終わったあと、見習い期間は瞬く間に過ぎていった。
今までのように、局の管理について一人の事務官が大きな権力を握り、問題を起こすことがなくなるように、対策が打たれた。
しかしそれを実践するのは課のどの事務官も初めてのことで、あちこち問題が起こった。
そのたび、見習いを含めた課の全体で意見を募り、良いものが採用され仕事の仕方がどんどんと変わっていく。
忙しい日々でも、ホワイトリー指導官はむしろ楽しそうに日々を過ごし、ローズマリーがあれこれ提案する改善策を皆と協議してくれる。
フィオナやウォーレスといった見習達もローズマリーの姿に看過され意欲的に意見を出し、他の見習いも続く。
休日には、勉強会が開催され、何もかもが効率的にそして正しく整っていく様にローズマリーは手応えと充実を感じる。
漠然とただ、事務官になることを憧れていたが、この日々はそれ以上の舞台であり、全力を出さない手はなかった。
必然として、見習い期間が終わる頃まで、魔法学園時代の友人と約束のお茶会は行われていなかったが、学園組もまた最後の追い込みでそれどころではなかった。
セオドアも、シェリルもクロエもイーディスも今年の成績で、王国魔法団に入団できるかどうかが決まる。
シェリル、クロエ、イーディスはなんとか卒業できるように勉学にはげみ、一方セオドアは実技の訓練と実績作りに明け暮れた。
春の初め頃、セオドアから新しい水の魔法具が届いた。
それは以前よりもずっと洗練されていて、一緒に届いた手紙の内容には、シェリル達とセオドアの友人サイラスも含めて、王宮魔法団への入団が決まったと記載されていた。
それを見て、ローズマリーはようやくお茶会の約束を思い出した。
(でも普通に、顔をつきあわせて三人で話をするにしても、あの子達はそれで楽しいかしら……なにかいい案はないかしら……)
そうして頭をひねって、ただのお茶会ではない彼女たちのためのお茶会を開くことにしたのだった。
メイスフィールド侯爵家のタウンハウス、兵士の詰め所があるそばには芝生の開けた場所があり、そこでは貴族の魔法や剣術の訓練のために使われる。
そのそばにテーブルなどを運び、お茶会の準備を整えた。
誘う文章の中には、是非実技で好成績を残した彼女たちの魔法を学びたいと伝えておいたので、意図は伝わっただろう。
ローズマリーも髪を高く結い上げて、魔法を扱うためのドレスをまとった。
動きやすいブーツを履いて、スカート部分が軽く、二重構造になって居て隠しスリットが入っている衣装を着るのは久しぶりだった。
これならば、優雅さを失わずに機動性も担保できる。魔法学園の制服もこの仕様だ。
恐る恐るとやってきた彼女たちも、ローズマリーの様な動きやすい格好でお茶会の会場を見てとてもわくわくとした顔をしていた。
「本日はお招きいただきありがとうございますわ! ローズマリー様」
「この日を心待ちにしていましたの!」
「魔法団入団決定のお祝いの言葉も嬉しかったですわ!」
まずは、テーブルへと案内して、お茶を出す。彼女たちは、口々に喜びを表現した。
「こちらこそ来てくれてありがとうございますわ。入団の準備の中で忙しい時期でしょう?」
問いかけると、三人はきょとんとして、それぞれお互いに視線を交わす。
「そう、ですの?」
「そうかしら?」
「準備って何をするの? 入団決定しているのに?」
「……」
「強くなっていればいいのでない?」
「そうよね、魔獣を倒すのだし」
「そうですわ。もちろんローズマリー様、準備頑張ってますわ!」
それから、三人で言葉を交わして答えを出す。
しかし、ローズマリーは強くなることを準備と言っているのではない。
セオドアとは密にやりとりをしているからわかるが、入団のための必要書類から、入って使うものの購入、使っている魔法具の申請……などなど、様々あるはずだ。
「…………帰り際に話しましょうか。少し心配ですわ」
「心配ご無用ですわ! ローズマリー様!」
「ええ、その通り、難解な試験を突破し卒業したわたくしたちに怖いものなどございません!」
「本当に難関な試験でしたわ、クレイン先生やセオドアがいなかったらどうなっていたか……」
今度は、学年最後の試験のことへと話がうつるが、基本的に、魔法学園の最終学年の試験はさほど難しくない。
彼女たちは、実技の成績がトップクラスなのだから、壊滅的な結果でなければ卒業はたやすい。
それでも、苦労したというのは、彼女たちが根っから座学を嫌悪をしているからである。
一年の当初も、このままでは落第だと教師に言い渡され、涙ながらに勉強している時に図書室で出会ったのである。
「……ふふっ、相変わらずですわね。あなた方は」
「ええ、変わらずですわ」
「勉強は嫌いよ、面倒なことも」
「それより、いつ試合するんですの?」
どんな成績だったのか、どうクレイン先生にお世話になったのかと話を進めようと思ったが、シェリルがそわそわしてそう聞いた。
そして彼女たちは、お茶会や女性貴族の穏やかな交流も苦手としている。
めっぽう体を動かすのが好きで、魔法使いが天職のような子達だ。
「まぁ! シェリルったら、まだローズマリー様としゃべっているのに」
「そうですわ、たまにはこういうのもいいじゃないの!」
「でも、動ける場所がそばにあって余計そわそわしてしまってっ!」
「そうですね。では、動きながら話でもしましょうか」
「いいんですの!」
「ええ、ただ、訓練はしていたけれど、手加減をお願いしますね」
そうして、ローズマリーはお茶を少し飲んだだけで早々に立ち上がった。
やっぱりこういう形にして正解だっただろう。




