2 試験
「ロ、ローズマリー……最近、大丈夫……?」
今日は待ちに待った年始めの試験の日。
その様子を見て、友人のセオドアがものすごく不安そうに声をかけてきた。
ローズマリーのがんとした態度にクラスメイトは誰も口にしなかったのに、彼は勇気を出して問いかけてきた。
「なにか、すごく嫌なことでも、あ、あった? 皆びっくりしてると思うし、その、僕も普段から友人のつもりでいるけど、君が思い詰めているのに気がつけなかったのかな……」
「……」
「君には勉強を教えてもらったりすごくお世話になってて、だ、だから僕も君がなにか困ってるならどんなことでも! 力になりたくて……」
セオドアは祈るみたいに胸の前で手を握っていて、なににおびえているのかわからないが、瞳には涙を浮かべていた。
その様子がローズマリーから見て少しかわいそうに映って口を開いた。
「……どんなことでも、だなんて貴族が簡単に口にしてはいけない言葉ですわ。セオドア」
「! か、簡単じゃないよ」
「なら、かまいませんが。それでなにか困りごとがあるのか、ですか?」
「う、うん! なんでも聞くよ」
セオドアは今度は両手で力こぶを作って、キラキラとした笑みを見せる。同じ年にしては彼がなんだか幼く見えるのは、ローズマリーが冷めているからだろうか。
「ありません。まったくもって。むしろ調子がいい」
「え?」
「絶好調です。セオドア、だから人の心配などしていないで、あなたは明日の予習をするべきだわ」
「あ……でも、だって、ローズマリーこのままじゃ――」
「勉強」
「う、うん」
「明日までつきっきりで教えてあげましょうか。よく考えればあなたにはわたくしも大変お世話になりました」
いいながらローズマリーは今朝から一切なにも出し入れしていない鞄を持って立ち上がる。
「そ、そんなお別れみたいな」
「必要なければかまいません。絶好調ではありますが、退屈でもあるので、ほかの誰かがわたくしに付き合ってくださってもいいのですが……」
セオドアが納得せずに、話を続けようとするので、ローズマリーはならば別の人に勉強を教えようかと教室の中に視線を巡らせる。
ローズマリーの様子を窺っていた人たちの中から数人その言葉に反応を示す人がいる。
しかし、ぐっと腕をつかまれて、ぱっと振り返った。
「ま、待って、僕! 嫌だなんて言ってないじゃん!!」
「……」
「さ、さすがに話し聞かなさすぎ!」
「……」
「もう聞かないよ。わかったから、でも! 退屈なら一緒にいてよ」
傷ついたような顔をして、それでもセオドアはローズマリーのことを嫌いにはならないようだった。
まぁ、学園に入ってからそれなりに深く付き合ってきた。
この程度で愛想を尽かされるとは思っていないが、さすがに彼もはっきりとものを言うようになった。
さらに勉強を教えてほしいのではなく一緒にいてほしいらしい。
そうしてストレートな言葉を言ってくれるのは、言われないよりもずっと、ありがたいことでローズマリーももちろん誰でもいい誰かに勉強を教えるよりも、彼と過ごす方が楽しい時間になると思っている。
しかし自分からは言わない、彼が侯爵家の跡取りで決まった相手がいないとしても、ローズマリーには婚約者がいて、二人はただの学友だから。
「手、離してください」
「あっ、ごめん」
「いいえ。ねぇ、セオドア」
「うん」
「……ありがとう」
「な、なにに対して?? どういう意味??」
「……」
(一緒にいてほしいと言われて嬉しいとは、言えないのよ。残念ながら。それに、わたくしの今日の行動にも声をかけてもらって嬉しかったのも事実なんですの)
いろいろな感情が絡み合っても言える言葉は少ない。
もとより二人の間の関係には枷がある。
だから、必要以上にローズマリーはセオドアを気にかけないようにしていた。




