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昔のインターネットのコワイ話  作者: 鳥遠かめ
「飢」の章

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落とす

 え、なんだって? 人を巻きこむな?

 言っている意味がちょっと分からない。

 呪いなんて認知バイアスのいたずら、心霊なんて見間違いと空耳だ。


 などという冗談は置いて、ここから先はしばらく、ヒトの念を構成する核となる部分、執着心をテーマにした話をたっぷりと紹介していく「飢」の章となる。


 重めの話が続いたのもある、まずはかる~く流せるお話から。



***落とす***


 みなさんは、ブラクラというものをご存じだろうか?

 ブラウザクラッシャーと呼ばれる悪意のあるプログラムで、仕込まれたサイトを読み込むことで発動し、操作不能にさせてアプリケーションやパソコンを強制的にシャットダウンするしかなくする代物だ。

 ウイルスとは違って再起不能にまでされないことが多いが、いやがらせ目的なため、被害者をからかうような挙動も珍しくないのだ。


 これは「英国紳士G」さんの体験だ。


 Gさんは子供のころ、「ゲームは一日一時間」だった。

 一秒でも過ぎようものなら母親にアダプターを隠され、一週間のゲーム禁止を強制されたのだ。

 ソフトもなかなか買ってもらえず、お小遣いも少なく、最新作の話題についていくことは到底できなかった。


 そんなGさんが中学生のころ、同じマンションに住むおじさんから中古のパソコンを貰った。

 これも一種のゲーム機だと母親はいい顔をしなかったが、父親はこれからの時代は必要だと言って使用を許してくれた。


 もちろん、Gさんはパソコンをゲーム機として見ていた。

 だが、OS付属のトランプゲームやピンボールで満足できるはずがない。


 どうしてもゲームを手に入れたい。

 彼は家族が長時間不在にするタイミングを狙い、父親の仕事用のパソコンからインターネット環境を拝借した。

 モデムを乗せ換え、設定やパスワードまで覚えて入力した。

 すさまじい執念である。


 ピーヒョロロロロとモデムが鳴き、念願のインターネットへと接続される。


 インターネットには、誰かが作った「フリーウェア」という無料のソフトが無数に転がっている。ゲームもたくさんあるだろう。

 だが、Gさんの頭の中にあった「ゲーム」というものは、マ〇オやドラ〇エといったコンシューマー機のそれで、パソコンを使って某有名メーカーのゲームをどうにかして遊びたいと考えていた。


 エミュレーターというものがある。ゲーム実機の挙動を再現し、データ化したソフトを遊べるようにするアプリケーションだ。大抵は法に触れる。

 そして、その本体やソフトを無料で配る海外の違法サイトがあった。


 Gさんはそれを探していた。


 仲の良くないオタクが「ゲームを無料で落とせる」と言っていた。

 学友は誰も信じていなかったが、Gさんはそれに賭けていたのだ。


 それらしいワードで検索すると、簡単にたどり着くことができた。

 思わず「サンキューオタク」とつぶやく。

 ついでに、「サンキューおじさん」も忘れない。

 余談だが、おじさんの顔は配管工のヒーローに似ているという。


 無数に並ぶゲームタイトルのリスト。

 ねだっても買ってもらえなかった有名タイトルから、聞いたこともないようなマイナータイトルまでそろっている。


 ああ、興奮が抑えられない。

 ダメだ、冷静になれ。


 接続時間が長いと、電話料金がかさんでバレてしまう。

 ダイヤルアップ回線で、しかも海外サイト。ページの表示は酷くゆっくりだ。

 背景画像に使用されているマ〇オも、まだ鼻までしか表示されていない。

 ページを表示し終えたら、リストからゲームを厳選してダウンロードだ。

 時間が掛かるだろうか。何本手に入れられるだろうか。


 モデムを戻す時間も計算しないと。父のパソコンを使わなかったのは、インターネットにはパソコンを破壊するウイルスが存在するのを知っていたからだ。


 Gさんはブラウザと時計を交互に見やった。


 五本……は、無理だろうな。二本? 三本?

 とにかく、いちばんお目当てのゲームを確保せねば。

 リストは保存し、ソフトのダウンロードは別の機会に分けてやってもいい。

 とりあえず一本ゲットして、それをじっくりと遊ぶ。


 よし、まずは一本目。

 リストを保存し、最優先のゲームの「DL」をクリックして保存開始。


 ダウンロード進捗を示すプログレスバーが動き始めた。

 くそっ、鈍行だ。親が帰ってくるまでに一本いけるかどうか。


 焦れながらブラウン管をにらんでいると、ふいに妙なウインドウが開いた。



 黄色いにこにこ顔マークが無数に並んだ窓。



「なんだこれ?」


 Gさんは×ボタンを押して窓を閉じようとした。

 窓は消えたが、また別の位置に同じ窓が表示される。


「バカにしてんのか?」


 消しても消しても現れる。


「なんだよこれっ、消えろ! 消えろ!」


 ぜんぜん消えてくれない。それどころか、次第に窓の数が増えつつある。

 そう、ブラクラだ。


「俺はゲームを落としたいんだ! 邪魔をするなあああっ!」


 すさまじい執念である。

 Gさんはブラクラの表示速度を上回ってウインドウを消していく。


 ところが、すべて排除し終わったと思ったら、今度は縦長の窓が開いて、にこにこマークが上から下に落ちていく様子が表示された。

 押しても押しても消えない。どころか、押すほどににこにこマークが増える気がする。

 無視してなんとかダウンロード続行できないか?

 ダメだ、ブラウザは応答しない。

 くそっ、ここまできてゲームが手に入らないのか?

 プログレスバーが進まない。

 くそっ、どっちだ? ただ遅いだけ? フリーズ?


 オタクが言ってた「瞳」という幻のソフトを落としたいんだ!


「落ちろ! 落ちろ! 落ちろ落ちろ落ちろ落ちろ、落ちろッ!」


 ほとんど絶叫である。


 窓が消えた。


 だが次の瞬間、外で「どんっ!」という音がした。


 ただならぬ様子を感じ取ったGさんは、ベランダから下を覗きこんだ。



 アスファルトの上に、変なポーズをした人が寝転がっていた。

 まるで、こぶしを上に突き上げてジャンプしているように見えた。

 見覚えのある人だ。パソコンをくれたおじさんだ。


 赤黒い、ぬらぬらしたものが広がっていく。

 彼は、全身をびくびくと痙攣させながら言った。



「落ちたくないぃぃ……」



 もう落ちてるってば。

 こころの中でそう突っこんだGさんは、急なめまいにふらついた。


 さっきのブラウザクラッシャーのように、配管工の顔が空から大量に降ってくるのを見た……気がした。


 それからというもの、彼はモデムの接続音の幻聴にさいなまれるようになった。

 幻聴のトリガーはあの黄色い顔だ。あれを見るとモデムの音が聞こえるのだ。

 すると、決まって何かが「落ちる」という。


 机からペンが落ちるだけのこともあれば、グラスや花瓶が落ちたり、あるいはブレーカーが落ちる、なんていうこともあるらしい。

 黄色いあの顔に似たものは絵文字にも含まれているため、彼はメールやSNSなどが使えず、不便な生活を送っている。


 ちなみに、ゲームはけっきょくダウンロードできなかったうえに、親にバレて怒られましたと、Gさんは恥ずかしそうに語っていた。


***

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