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文化祭が終わって二週間。

大学全体の浮かれた雰囲気はすっかりなくなって。

 僕と明乃さんの抱えていた問題も解消されて――されたはずで、僕達にはいつも通りの日常が戻ってきた。

 授業を受けて、ノートを取り、空いた時間は適当に潰して、放課後はサークルに参加。

 大学に入学してからほぼ何一つ変わらない生活だ。

「おい、鈴原」

 松野に横から声を掛けられて、

「あー? なんだよ?」

「お前、スマホの画面見すぎ」

「・・・・・・そ、そんなことないって」

 そう返しながらも図星だった。

明乃さんの連絡が待ち遠しくてずっと画面を確認している。

「今日はデートの約束?」

 今度は宮村に声を掛けられて正直に頷いた。

「そうなんだ。まあ、放課後だし、そう長くは一緒にいられないけどね」

「いいね」

「宮村も松野とすればいいじゃないか」

「それもいいけど、サークルにも顔出さないとって。デートは休みの日にもできるから」

「そうそう」

 宮村の言葉に松野が頷いたところで、

「ちっ」

どこからかわざとらしい舌打ちが聞こえてくる。

「あーあ、今年の一年はリア充が多いねぇ」

「そうひがまないでくださいよ、増田先輩」

「ひがんねえよ!」

 松野の言葉に増田さんは怒鳴り返して、

「いやでも、松野と宮村には慣れたが、まさか鈴原までとはな!」

「まあ、ははは」

「お前は絶対こっち側だと思ってたわ」

 こっち側――否モテ側だったのは間違いない。今でもたまに信じられなくなる、しかも相手が明乃さんだと思うと尚更だ。

 そんな話をしていると、スマホの通知がなって僕はすぐさま確認する。

連絡してきたのは待ち人。僕は慌ててリュックを背負い、

「じゃあ、僕はこれで失礼します!」

「はいはい、お疲れ」

「お疲れさーん」

「デート、楽しんで来てね」

 後ろから三者三様の声を受けつつ、僕は明乃さんの待つ校門まで大急ぎで向かう。

 そして、そこには明乃さんがスマホを弄って待っていた。

「明乃さん」

「おー、早かったね」

「お待たせしないように急いで来ました」

「感心感心」

 明乃さんは微笑みながら手を差し出してきて、

「じゃ、いこ」

「はい」

 その手を取って歩き出す。

「明乃さん、そういえばスカートってあんまり穿かないですよね」

「うん」

 今日もパーカーとジーンズという格好だ。ピアスもいつも通りつけてある。

「文化祭のときの格好奇麗だったし、普段からそれでもいいと思って」

「あれは特別仕様だから」

「特別仕様ですか」

「そ。デートのとき専用なんです」

 それはそれで嬉しいけども。

「望くんはスカートの方が好き?」

「そういうわけじゃないですけど、なんか勿体ないなって」

「勿体ない?」

「え、いや、変な意味じゃないんですけど。明乃さんって足も奇麗ですし」

「そう? ま、スカート穿いてもいいんだけど」

 明乃さんは少しだけ照れ臭そうに、

「今までずっとこんな格好だったのに、彼氏ができた途端にイメチェンするのってちょっと恥ずかしい」

「あー、なるほど」

「だから、あの格好はデート仕様。望くんと二人きりの時に着ます」

「はい」

 小さな特別扱い。それだけで心が弾む。

 そんな会話をしつつ僕達は歩いて、

「それで、今日はどこに行きましょうか」

 そんなに早い時間じゃない。

「んー」

 少しだけ悩んだ素振りを見せて、

「私の部屋」

「了解です」

 休みの日に遠出の約束をしない限りは、基本的に明乃さんの部屋でまったり過ごすことが恒例になっていた。所謂お家デートというやつだ。明乃さんは何度か僕の家にも来たいと言っていたけど、実家暮らしだし、両親に紹介するには流石にまだ早い気がする。

 明乃さんの部屋についてリュックを下ろし、もはや定位置となったソファに座ると明乃さんがココアを入れてきてくれる。

「ありがとうございます」

「うん」

 隣に明乃さんが座る。肩が当たる距離だ。

「あったかい」

「ですね」

 それから二人無言でココアを啜る。

 静かな時間だ。でも居心地が悪いことはない。心地が良いくらいである。

「冬が来るね」

「そろそろですね」

「望くん、寒いのは平気?」

「まあまあ苦手です。布団から出られなくなるんですよね。暑いよりはマシだと思いますけど」

「わかるな」

 明乃さんはしみじみと「私も苦手」と呟く。

「あ、でも」

「なんです?」

「デートする機会は増えるよ。クリスマスもあるし、大晦日だって、正月だって。その後もバレンタインとか。イベントいっぱいあるし」

 言われてみるとそうだ。恋人には楽しい季節かもしれない。

「全部楽しみだね」

「はい」

 二人でいられる時間が増えるのだ。楽しみじゃないわけがない。

「いやでも、不思議な気持ちになるな」

「なんで?」

「こうやって明乃さんと一緒にいられるの。もちろん嬉しいですし、光栄ですけど、僕達って昔はそこまで接点があるわけじゃなくて」

「うん」

「ほんと、僕の一方的な片思いだったんですよ」

「そうかもね」

 それなのに僕達は今こうして一緒にいて、一緒の時間を共有している。

「んー、きっとさ」

「はい」

「運命だったんだよ」

「運命、ですか」

 随分とロマンチックな言葉がでてきた。

 でも、どこかで聞いたような言葉だ。

「うん。中学生のあの時、保健室で、私が君の寝ているベッドのカーテンを開いたときから、こうなるって決まってたんだ。もちろんお互いに寄り道や回り道は多かったかもしれないけど・・・・・・」

 そんな言葉に、僕はしっかりと頷く。

「それ、いいですね」

「でしょ?」

 中学の時の一目惚れも、

 ずっと続いていた片思いも、

 大学の喫煙所で再会したあの時も、

 その全てが運命だとしたら、僕はなんて幸せ者なんだろうか。

「だからさ、これから一緒にいるのも運命。きっとね」

「ですか」

 二人笑い合う。

「望くんはさ、信じる?」

「運命ってやつですか?」

「うん」

「そりゃ、もちろん」

 僕達は未来のことなんて分からない。過去になってから知ることだ。

 これからもきっと色んな出来事がある。

 それは全て良いことじゃないだろう。

 ときには嬉しいこともある。

 ときには悲しいこともある。

 しょうもないことで笑って、

 しょうもないことで喧嘩して、

 そして仲直りして、

 望まないことも多くあるはずだ。幸せのために選択しなければならないことだって。

 それでも、ずっと一緒にいられるように。

 僕はこの人の手を離さないと心に誓った。

「明乃さん」

「何?」

「大好きです。愛してます」

「ふふふ、私も」

 今の僕達はこれでいい。

 お互いを愛し合えれば幸せなのだから。


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