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僕の初恋は中学生のときだった。
一目見た瞬間に心が奪われた。
まさしく一目惚れというやつだ。
本気で運命の人だと思った。
相手は二個上の先輩。
話す度にドキドキして、緊張して、傍から見れば不審な奴だったに違いない。でも、先輩はいつも優しく接してくれた。どうでもいい話を聞いてくれて、興味がないだろう話にも頷いてくれて・・・・・・。
そんなの一目惚れじゃなくたって恋に落ちない方がおかしいだろ。
当然、その姿は僕だけのものではなかった。色んな生徒から多大な人気があったし、男女問わず好かれていた。
僕が一番彼女のことが好きだとそんな思いも持っていたけど、でも、その想いを伝えることはできなかった。
そんな勇気はなかった。ただただ僕は臆病だった。
卒業してしまう現実さえも受け入れたくなくて、卒業する前日に「おめでとうございます」の一言も言えなかった。
ずっと後悔していることの一つである。
せめてあの時、先輩に声を掛けることが出来ていたら、もしダメ元でも告白することができていたなら、僕の人生は何か一つでも変わっていたのだろうかと、そう考えずにはいられない。
「・・・・・・ま」
何も変わらなかっただろうけど。どうせフラれて終わりだったはずだ。
そんなことを考えながら大学から自宅までの帰り道を歩く。
季節は秋。
先輩のことを好きになって、未だに引き摺って、もう六年目の秋だ。
新しい恋をすることはなかった。
いや、そもそも友達はいれど、恋人になれそうな親しい女性はできなかった。
自分の仲間内だけで日々を過ごし、無駄に年だけ重ねた。中学を卒業し、高校を卒業し、なんとか入れた私立大学へ通う一年生。それが今の僕だ。鈴原望という男だ。
身長、体重、成績、顔面偏差値平均値。これといって才能もなし。何もかも普通止まり。アニメやゲームで例えるなら名前のないモブキャラだろう。先輩も、そんな僕なんかに好かれたところで迷惑なだけだろうし。未だに好きというのもストーカーみたいで気持ち悪い気もする。
考えていると溜息しか出てこない。
何故、僕が先輩のことを思い出して感傷に浸っているのか。
それは所属するサークルであるアニメ・ゲーム同好会のメンバーからカップルとなったやつらが出てきたのだ。
今まで通りの接し方でよろしくなんて言われたが、メンバーの女性を狙っている男達は多かった。これがきっかけで関係がギスギスしたら嫌だなーとか、最悪の場合サークルが空中分解しないといいな、なんて思いつつ、幸せそうなカップルを見て、少し、ほんの少しだけ羨ましくなった。
僕もあのとき・・・・・・なんて考えてしまうのは、僕が妄想癖を持っているからだろうか。
「あーあ、先輩、元気にやってんのかなー」
そんな言葉は、夜空に溶けていった。