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痛みを知るから優しくなれる  作者: 天野マア
3章 アンタレス、中編 
90/136

爆発する発想力 2


 あの崖でのショートカットはおよそ10キロほどの効果がある。

 おかげで他ルートの人々がちらほら見えてきた。

 それらを一気に抜き去り先頭に歩みを進める。


「ここまでだ」


 僕の目の前にはダンジョンアタックの参加者ではない男たちが現れた。

 武器はそれぞれチャクラム、杖、弓、そして一番後ろの男が槍だ。

 顔を隠し、服装は全員バラバラ、しかし呼吸に一切の乱れを感じさせない。

 ここまでダンジョンの中を走り続けた闘技者ならば多少の息の乱れや疲れはあって当然だ。

 何より璧なペース配分をしていたとしても汗は全く出ていない事はありえない。

 唯一の例外があの銀髪坊っちゃんだが、わざわざ僕を待ち伏せする必要があるとは思えない。

 彼は確かに闘技者を馬鹿にしているが、最低限優勝は目指している。


「「「ファイヤーランス」」」

「「「サンダーショット」」」


 数は10人、槍使いを除いて全て僕に魔法か矢を放つ。


「っち」


 僕が舌打ちを行ったのは遠距離攻撃を前に突撃をしなければいけない現状の事ではない。

 刺客達の後ろ、ダンジョンの構造が変化し通路が塞がれようとしているからだ。

 所詮は壁一枚、だがここでまた数分間足止めされた流石に戦闘集団に追いつけないかもしれない。

 もうショートカットは存在しないのだから。


 だが同時にいい事も気付いた。


「見えた先頭だな」


 ガストロさん、そしてリヒターさんの背中が遠目にだが確認できた。

 燃え尽きてはいない、だがより明白に目標地点が見えた。

 全力で走ってもやはり壁が通路を封じるまでには通り抜ける事は出来なかった。

 それを見て刺客のリーダーは笑みを浮かべる。

 だが僕に焦りはない、いやむしろノルディス商会突入時の最も調子が良かった時の感覚に限りなく近く、いや超えていく。

 ただ今までの剣一辺倒とはまた違う、頭がさえ選択肢を選ぶ自由度がある。

 

 そんな僕がこの刺客達を突破する為に選んだ選択肢は一瞬足を止めること。

 右足を軸に回転し、先程から魔法で掴んでいる風を応用する。

 僕の代償魔法の条件はたった1つ。

 前もって魔法を使うための触媒を用意しておくこと、今までは鈴で作った波を、体に流れる振動を利用してきた。

 そして今回は魔力で捕まえている風を利用し斬撃を放つ。

 とっさの思い付きだ。

 だが僕は鍛冶師だから、武器の刃がどうしてあのような構造なのか、斬るとはどういう形状が必用なのかが理解できる。

 

 そして僕は始めて魔法と言える形式の物を放つ。


「ウインドカッター」


 初級魔法の名を冠する風、だがその魔法は異端としか言いようのない物だった。

 気と魔力を込め増幅されたそれは周囲の影響を受けず突き進む。

 ただこの魔法は特殊な効果が付けられているわけではない。

 精々このウインドカッターは切れ味は良すぎるだけだ。

 だから空気を斬り裂き、普通のウインドカッターよりも遠くに飛ぶ。

 

 刺客達の放った魔法と矢は斬り落とされていき、それでも止まらないこの魔法は彼らを飲み込んだ。

 胴体を真っ二つにされ、本来なら瀕死の傷を負う所だがダンジョン内に張られている安全保護の魔法により命が助かるがその場から姿が消える。

 刺客などは死ぬ時も遺体を残してはいけないと言われる程厳しい世界だ。

 恐らく死に直面する傷を負ったらこの場から転移するように安全保護の魔法に組み込まれているのだろう。

 これだけ高度な魔法だ、特定の人物の条件付きの転移、その程度は設定できてもおかしくない。

 そして闘技場で管理する安全保護の結界にこのような細工ができるのは、今年の運営であるゴルドラ一派のみ。

 だが1度に出来る転移には限りがあるようで6人はすぐに転移をしたが残り4人は今だ足元に魔法陣が現れた状態でその場で横になっている。


 そして今気にするのはもう一つの問題。

 塞がれてしまった通路、これをどう突破するか。

 だがこちらも問題ない、今なら出来る気がする。


 この場で最も恐ろしい経験をしたのは最後列のリーダーだろう。

 一撃で部下たちを倒され、そして何より不可能を可能にした瞬間を目にしてしまった。

 ダンジョンの壁は確かに土塊だが、壊せないというのが一般的な常識だ。

 その理由はダンジョンというのが現実世界に実在するのではなく、自ら別次元に構造体を生み出しているからだ。

 安定しない別次元、環境という楔がない場所では様々な苦難がある。

 ある時は暑かったり、寒かったり、空間そのものがバラバラで、己を保つためにはそのデタラメのルールから自分を守る必要がある。

 だからダンジョンの壁はこの世で最もあらゆるものへの耐性が強い物体だと言われている。


「これ借りるよ」


 そういうと刺客達のリーダーが持っていた槍を奪い去り、ダンジョンの材質で出来た壁目掛けて槍を突き立てる。

 

「無駄なこと……っは?」


 ダンジョンでは土の中に魔物が潜んでいる事もある。

 硬いのは地面ではなくダンジョンが生み出す外層、又は仕切りの部分。

 ま、この壁がその仕切りなので硬い事には違いない。

 ただどんなに硬いものであっても、どんなに様々な物への耐性があったとしても、薄ければそれだけで価値は下がる。

 所詮壁一枚の厚さだ、ただしく武器を扱えればこの程度は撃ち抜ける。

 腰を捻り両手で突き出した槍はダンジョンの壁を簡単に撃ち抜いた。


「ありがと、それじゃ」


 槍をできるだけ丁寧に刺客のリーダーに放り投げ、先程自分で撃ち抜いたダンジョンの穴から戦闘を追うために走り出す。

 後ろでは槍を上手く掴めず、地面に落とす音が聞こえたが、そんなことより今は先頭集団に追いつくのが先だ。

 再び、体の強化を全開にし、走り出す。

 数度の落とし穴や、矢などのトラップを回避した後に先頭集団に追いついた。


「来たか」

「ああ、待たせたな」


 俺を待ち望んでいたかのようにガストロは笑みを浮かべる。

 この場には現在ガストロ、リヒターそれと銀髪の男とその護衛が二人。

 この先頭集団に戻ってこれた、その安堵もあるが今俺は恐ろしいくらい調子がいい。

 体や頭の回転、そして感性、全てに一切のノイズがない。

 そして何より常に心の中にあった不安がない。

 隠していたが普段心には常に不安があった。

 調子が良い時ほど、これで駄目だったら俺に才能、未来はないと心が潰れそうな程不安に襲われていた。

 それが今はない。

 ただ純粋に目の前に集中していられる。

 きっとこれが戦闘意識っていう奴なのだろうか?


「ん? お前変わったな」

「そうか?」

「ああ、何かお前が近くに寄ると体の震えが止まらない」

「そりゃどうも」

「ここからが本番だ」


 ただガストロさんとの共闘関係ここまでだ。

 ここからは共存関係に代わる、互いが互いを利用し、より早くゴールに辿り着く為の。

 今なら言える今回のダンジョンアタック優勝するのは俺だと。

 それにいい加減目覚めて欲しいものだ。

 このままだと優勝争いは確実に俺とガストロさんの2名で決まる。

 そう期待を込めて敵になりきれない未熟者に対して意識を向ける。


 ダンジョンアタックのゴールまで残り10キロ。

 最終局面を迎える。


拙い文ですが読んで頂きありがとうございました。


また読みに来てくだされば大変うれしいです。


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